第4話
ネッチューバーが来た翌日。
「あれ……?」
ネッチューバーがウチで来たことで思い出したのだ。俺のネッチューブのアカウント、タケトチャンネルがそのままになっていたことを。
しかし、昨日の彼女たち、泣きながら謝ってくるから吃驚したよ。大丈夫、自業自得だから気にしないでいいからって言ってもずっと泣いてるし、つい困って幼い子をあやすように、彼女たちの頭を軽くポンポンしてしまったけど、セクハラで訴えられない? ちょっとビクビクしているんだよね。
「どういうこと……?」
最後に登録者数を確認した時には一桁だった。あれから3ヶ月。更新も何もしていないから0になっていてもおかしくない。
その時は即削除しよう。残っていれば……たぶん登録解除をし忘れているだけだと思うけど最後まで残っていてくれたお礼の言葉をアップしてから削除してもいいかな、なんて思っていたら。
「登録者数が10万人に増えてるんだが……」
間違えて登録したにしては数が多過ぎる。でもまあ元々少しでも登録者が残っていればお礼の動画をアップしてから、一週間後に削除する予定でいたのだ、やる事は変わらない。
「あ〜ちょっと待てよ……」
思ってたよりも登録者が多いので考えを少し改める。意を決して生配信、最後に直接お礼を伝えるのもいいんじゃないかと。その方がなんだかスッキリしそうだ。
「そうするか」
別に誰も来てくれなくてもいい。俺の気持ちの問題だし、
さっさと謝罪と感謝の意を伝えて配信者活動を終えよう。
配信者としての俺に未練はないし、こんなことは二度とゴメンだ。
幸いお金はある。人生ひっそりゆっくり過ごすのもいいだろう。たぶん。
「よし、そうと決まれば早速生配信しようかね」
ということでSNSで生配信の告知をしてから早速配信を始める。引退するから最後の配信ですって告知をね。以前の俺こんなことしてなかったなと思いつつツブヤイターを開く。
「あれ?」
でもそこでも驚くことが、炎上してフォロワー数が一桁になっていたはずの俺のアカウント。こっちもフォロワー数が10万人になっていた。
全盛期にはほど遠いフォロワー数だけど、炎上してデブト扱いを受けている俺の立場からすれば十分すごい。まあ、こっちも1週間後には削除するけどね。
ほんとうならば前日とかに告知しておく方が親切なんだろうけど、俺の場合は誹謗中傷の方が多くなるだろうから、これでいい。
————
——
3ヶ月で伸びた髪にジェルをつけて後ろに軽く流したりと、身なりを整えて配信を始める。
「えっと、あーやっぱり誰も来てないか……えっと剛田武人です。久しぶりの配信になりますが、まずは謝罪からさせていただきたいと思います。
その相手はもちろん沢風和也様ですね。沢風様は気にされていないかもしれませんし、迷惑かもしれませんが、沢風和也様、私の心無い発言で不愉快な思いをさせてしまったこと深く反省しております。申し訳ございませんでした」
俺は深く長く頭を下げてから再びカメラに視線を向ける。
「次に沢風和也様のファンの皆さま。私はプライドが高い人間でした。だから人気が出て登録者数がどんどん増えていく沢風様が面白くなく、また私の登録者数が減るのを沢風様のせいにして恨みもしました。私自身実力がないにもかかわらず。
実際、沢風様を動画を拝見しましたが、どの動画も大変面白く元気がもらえた。皆さまがファンになるのも自然の流れ、それなのに私は沢風様を罵った。皆さまが不愉快思うのも無理のない話だったのです。皆さまに不愉快な思いをさせてしまい本当にすみませんでした」
そう発言してからもう一度頭を下げる。
「それから母さんにマイ。俺のバカな言動で迷惑をたくさんかけてしまったね。身体も壊した。今さらだけどごめん。ってもう息子でもアニキでもないけど、でもごめんね。本当にごめん」
俺は頭を下げる。
「最後にこんな私のチャンネルに最後まで登録してくれていた心優しい皆さま。ありがとうございます。
私はこの配信を最後に配信者を引退します。願わくばこの配信が皆さまの目に入ることを祈り……すみません。虫の良い話しでした。短いですが、これで私の配信を……!?」
そこまで言葉を発したところでコメントがすごい勢いで流れ出す。
『ダメ』
『やめないで』
『お願い』
『タケトが反省していること十分に伝わったから、だからやめないで』
『タケト君、誰にでも間違いはあるよ』
『お願いだから配信切らないで…』
『タケト!』
・
・
・
何が起こっているのか理解が追いつかず、一瞬だけ戸惑ったが、すぐに納得する。同接者の数がいつの間にか50万人にもなっていたのだ。
「みんな見に来てくれたんだね。ありがとう。うれしいよ。でもやっぱり俺は配信者をやめるよ。みんなに迷惑をかけたケジメをつけたい」
『いやだよ』
『待って、切らないで』
『タケト君やめないで』
『お兄ちゃん、まって』
・
・
・
俺は一度カメラに向かって笑みを浮かべると、
「みんなありがとう」
頭を下げてからカメラのスイッチを切った。
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