帰る場所は、植物園【0:0:2】10分程度
嵩祢茅英(かさねちえ)
帰る場所は、植物園【0:0:2】10分程度
不問2人
10分程度
演者性別不問のため、一人称や語尾など言いやすいように変更してお使いください
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「帰る場所は、植物園」
作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)
わたし:
だれか:
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バスの中で目が覚める
わたし「…ん…あ、あれ…」
だれか「起きた?」
わたし「え?…だ、だれ?!」
だれか「誰でもない、誰か」
わたし「…ど、どういう意味、ですか?」
だれか「誰でもないし、誰でもいいということ」
わたし「あー…すいません、言ってる意味が、よく分からないのですが…」
だれか「理解しなくても問題ないわ
私はあなたを、迎えに来たのよ」
わたし「…迎えに?」
だれか「…仕事だから」
わたし「はぁ…」
しばらく沈黙が続く
わたし「…あの…」
だれか:「なに?」
わたし:「このバスは、どこに向かってるんですか?」
だれか:「(少し驚いて)これから行く先が、分かってないの?」
わたし:「え?あ…は、はい」
だれか:「…忘れてしまった?」
わたし:「忘れたっていうか…気が付いたらバスに乗っていて…あはは…すいません…」
だれか:「…なるほど。別に問題はないわ
このバスはね、植物園に向かっているのよ」
わたし:「…植物園?」
だれか:「そう。植物園」
わたし:「…なんで、植物園…?」
だれか:「戻らなきゃいけないから」
わたし:「…戻る?」
だれか:「そう」
わたし:「…私が?」
だれか:「そう」
わたし:「…あなたも?」
だれか:「そうね」
わたし:「…そう、なんですか」
だれか:「会いたい人に会うために、みんな植物園に行くのよ」
わたし:「そう、なんですか?」
だれか:「…」
わたし:「…あの、あなたも、会いたい人が、植物園にいるんですか?」
だれか:「…私は、職員だから」
わたし:「あぁ…なるほど…」
だれか:「…」
わたし:「…あの」
だれか:「…なに」
わたし:「いま、何時か分かりますかね?」
だれか:「ごめんなさい、詳しい時刻は分からないわ」
わたし:「あ、そうなんですね…
外は薄暗いけど、ほかに走ってる車もないし…
これじゃあ夜明けなのか夕方なのか分からないなぁ…」
だれか:「…」
わたし:「…」
だれか:「…このバスはね」
わたし:「…え?」
だれか:「このバスは、『あなたたち』を乗せるためのバスなの」
わたし:「…わたし、たち?」
だれか:「そう。あなたは思い出せないようだから、勝手に喋るけれど。
私はあなたたちの引率、ガイドってやつね」
わたし:「え、でもさっき植物園で働いているって」
だれか:「このバスは、植物園のバスなの」
わたし:「はぁ…えっと、植物園に来るお客さんを乗せるための送迎バス、ってことですか?」
だれか:「…逆ね…あと乗せるのは、『植物園に来る客』じゃない」
わたし:「…逆?」
だれか:「もうすぐ着くわよ」
わたし:「…えっ…あぁ、植物園…?」
だれか:「さ、降りるわよ」
わたし:「…降り、ないとダメですよね…」
だれか:「そうね」
わたし:「…」
だれか:「本当に、忘れているのね」
わたし:「えっ?」
だれか:「(小声で)忘れるなんて、どれだけ長く帰って来なかったのかしら…」
わたし:「あ、あの…」
だれか:「いいわ、着いてきて」
わたし:「あっ…は、はい…!」
二人、バスから降りる
だれか:「…ここが入口」
わたし:「真っ白な建物ですね…」
だれか:「入るわよ」
わたし:「あっ、はい!
…わ、中も真っ白…」
だれか:「あなた、自分の部屋の場所、覚えてないわよね?」
わたし:「え?部屋があるんですか?植物園に?」
だれか:「ええ、一人一人、部屋を割り当てられているから」
わたし:「なんか…思っていた植物園とはだいぶ違うんですね…」
だれか:「それで、あなたの部屋。覚えてないんでしょ?」
わたし:「あ、はい…」
だれか:「ちょっと失礼」
服を脱がせようとする
わたし:「え、ちょ、ちょっと!!なにするんですか!!」
だれか:「いいから!!」
わたし:「なにがっ!いいんですかっ!!
いきなりっ!服をっ!!脱がせようとっ!!!しないでくださいっ!!!!」
だれか:「体のっ!傷を見ればっ!!ある程度のっ!!!見当がつくのよっ!!!!」
わたし:「……へ?傷?」
服を押さえてた力が抜けて、服をめくられる
だれか:「そう!ほら次、後ろ向く!!」
わたし:「〜っっ!!はぁい!!!(ヤケクソ)」
背中から腹部にかけてある大きな傷を見る
だれか:「…この傷…」
わたし:「…何か、分かりましたか?」
だれか:「…えぇ。だいたい。」
わたし:「ほんとですか?」
だれか:「ニ階・西か、四階・西、四階・北辺りのはず…」
わたし:「…???」
だれか:「ちょっと管理センターに寄るわ」
わたし:「あ、はい。そこに行けば、部屋が分かるんですか?
…っていうか、個室?
…自分の好きな植物を集めた、バーチャル植物園、的な事なのかな?」
だれか:「…バーチャルじゃないわよ」
わたし:「あ…聞こえてました?…すいません…」
だれか:「(ため息)」
わたし:「…あ、あはは…」
だれか:「ちょっと見てくるから、ここで待っていてくれる?」
『中央管理室』と書かれたプレートのついた部屋に入っていく『だれか』
わたし:「『中央管理室』…」
だれか:「勝手にどこか行かないように!」
わたし:「わ、分かりました…」
『だれか』がファイルをめくって何かの資料を見ている
「(独り言)…なんで、何も覚えてないんだろう…
これって…死後の世界だったり、するのかな…」
だれか:「何バカなこと言ってるの?死んでないわよ、まだ」
わたし:「うわっ!びっくりした!!」
だれか:「死んでたほうが、良かったのかもね…」
わたし:「えっ?…それってどういう…」
だれか:「さ。調べてきたから。
これからあなたの部屋に向かいます」
わたし:「あ、やっぱり部屋、あるんですね」
だれか:「あるって言ったじゃない」
わたし:「…そう、なんですけど…」
だれか:「もう少し行ったところにエスカレーターがあるから」
わたし:「はい………あの…」
だれか:「なに?」
わたし:「私はなんで、何も覚えてないんでしょうか…」
だれか:「さぁ、私には分からないわ」
わたし:「ですよねぇ…」
だれか:「でも、ここに来たばかりの人は、覚えていない人の方が多いわね」
わたし:「そう、なんですか…」
だれか:「あなたは長い間、ここに帰って来なかったから、記憶が薄らいでしまったんだと思う」
わたし:「…帰って、こなかったから?」
だれか:「そう。そういう人もいるわ。
外に出たはいいけど、『自分がどこにいるのか』わからなくなっちゃうって」
わたし:「…自分が、どこにいるのか?」
だれか:「それでも、忘れてしまっても。
ある日バスに乗って帰ってくるのよ」
わたし:「…」
だれか:「並の精神じゃここには居続けられないから。そのためにバスがあるの」
わたし:「…ここって…本当に植物園なんですか?」
だれか:「…そうよ」
わたし:「展示物とか、見当たらないんですけど…」
だれか:「………」
わたし:「なんで、答えてくれないんですか…?」
だれか「…あなたの部屋に戻れば、記憶は戻る。
でも、あなたは『ここに居るのが耐えられなくて外に出た』って事を忘れないで…」
わたし「…部屋に行くの、怖いです…」
だれか「…そうね。それでも、戻らないといけないの」
ドアばかりが左右に並んだ廊下を進む二人
わたし「………これ、全部部屋なんですか?
ドアがたくさん並んでるけど、ドアの間隔、おかしいですよね?
これじゃあ、人一人分の幅しか、ないですよ…?」
だれか「…」
ある部屋の前で立ち止まる
扉の上のプレートには五桁の数字が書かれている
だれか:「…ここが、あなたの部屋よ」
わたし:「………嫌だ」
だれか:「…開けて」
わたし:「開けたくない!」
だれか「開けるしかないのよ!ほら!!」
SE:ドアが開く音
『だれか』によって、扉が開かれる
開いた扉の中には、縦長の水槽があり、中には後ろを向いた裸の人間が浸かっている
わたし「(だんだん息が荒くなる)…これは…えっ?…すい、そう?
この、中にいる、のって…」
だれか「…この部屋は、ナンバー【41926】
脳・脊椎・肺と肝臓の一部が破損。
…水槽の中にいるのは…
事故で脳死した………あなたの体よ」
わたし「…っ!ぅあ、あっ、あああ、ああああぁ!!!!」
だれか「…思い出した?」
わたし「…そうだ、思い出した…
…この水槽は…」
だれか「こちら側から見るものではない…
脳死した、いわゆる『植物人間』となった人を展示している施設。
…生きた新鮮な内臓を、提供する施設なの」
帰る場所は、植物園【0:0:2】10分程度 嵩祢茅英(かさねちえ) @chielilly
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