第四章:みっちり合理的なトレーニングをしてきたし俺たち無双できるなと思ったら、好敵手たちも強くなってないか!?
第1話 高校二年生になったら後輩ができる……ってコト!?①
いよいよ新生ときめき学園、始動します。
新しいメンバーが加わってチームはどう活性化するか、引き続きどうぞお楽しみください。
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『ときめき学園、春の選抜に出場! 21世紀枠に突如現れたダークホースか!?』
『名門進学校、ときめき学園の躍進に迫る。食事と筋トレを重視し、スポーツ理論を積極的に取り入れる新しい形の"練習"とは(1)』
『特別企画! ときめき学園の練習メニュー大公開! 練習風景の動画はこちら』
『これからの高校野球を考える ~近江県に現れた新生野球部、変わる東山道地区の勢力図~』
『徹底議論! 根性論と精神論が通じない現代の子供たち。逆境に弱い子供たちは果たして、きちんと努力することができるのか? 科学的トレーニングは本当に子供の精神の成長を促すことができるのか?』
『科学的・合理的なトレーニングは虐待!? 高校球児には高校球児らしく野球をさせるべし! ~元名門校の監督が語る野球の理念~』
『データで野球はできない、野球は人が行うもの――惑う若者たち、"科学"神話の崩壊』
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報道によってスポンサーから収益を得ているマスメディアは、連日の特ダネに飢えている。一人でも多くの人に視聴されることが職責であり使命。それこそネタがなければ作り出せ、と言われるぐらいに苛烈な職場である。
編成局の中にスポーツ部を持つもの、報道局の中にスポーツ部を持つもの、制作部の中にスポーツ担当を置いているもの、アナウンス室にスポーツ担当アナウンサーを置いているもの。
スポーツを報道する体制はそれぞれ異なるが、共通することとしては「スポーツで話題を作り続けることは難しい」というごく当たり前の事実。
目ぼしい話題があれば、それをなるべく長い間取り扱っておきたい。次のネタを探すまでの時間稼ぎにもなるし、思わぬネタが芋づる式に出てくることもある。
だからこそ「根性論や精神論は古い!」と主張し、何かと目立つような華々しい結果を残してきたときめき学園は、とにかく話題にしやすかった。
なるべく報道が過激になるように。
とにかく精神論・根性論との対立を煽った。
旧態依然としている野球界を変えようとする新しい考え方、と持ち上げながら、一方で先人達への畏敬がないと扱き下ろす。
実に簡単なことである。この論法はどんな分野でも使えるレトリックなのだ。
古い先駆者と新しい若者の対立をあおるのは、昔から今まで続く『鉄板』のエンターテインメント。目論見通り本当に対立してくれたら、それこそセンセーショナルな話題になるし、長く話題を提供し続けてくれるネタになる。
それゆえにときめき学園はもてはやされた。
合理的なトレーニングを追求する、新時代の学園だと。
そして同様にときめき学園は扱き下ろしもされた。
先人達への敬意を持たない、無礼極まりない連中だとも。
全ては、報道を面白くするため。それこそがメディアの存在意義。
そう固く信じる組織の理念によって、今日も報道が作られていく。
かくして、衆目を集めたときめき学園の、新たな受難の年が幕を開けたのだった――。
◇◇◇
「何でこんな連中を21世紀枠なんかに選んでしまったのか? 近江県高野連は腐敗しているのか?」
そんな声も多く上がった。
だが、それでも事実、ときめき学園は近江県の代表として、21世紀枠に出場して、春の選抜を戦った。
結果は三回戦進出。準々決勝には残れなかったものの、堂々たる結果である。記念大会である今回は、全国から36校が参加して、ベスト16位まで残った。1回戦で敗退することも多い21世紀枠でありながら、この奮闘は驚嘆に値することである。
森近と緒方の力投。緒方と羽谷の好守。甲野の巧みなリード。そして羽谷、森近、緒方、甲野の打撃。
傑出した上位打線陣の活躍と、やや身体能力頼みではあるもののやるべきことをシンプルにこなす他メンバーの活躍により、ときめき学園は快進撃を続けた。
結果、全国の他の強豪を抑えて、堂々のベスト16位入りなのだから、文句の付け所はない。
続く、春季
今年は3位決定戦で敗退したものの、エース投手の一角、星上抜きでここまで登り詰めたのは大健闘と言えよう。
■ときめき学園の戦績(1年目)
○大陸選抜高等学校野球大会(春の選抜):
参加なし
○春季東山道地区高等学校野球大会:
近江県大会 3位
○大陸高等学校野球選手権大会(夏の甲子園):
近江県予選大会 準優勝
○秋季東山道地区高等学校野球大会:
近江県大会 準優勝
東山道地区大会 ベスト8
■ときめき学園の戦績(2年目)
○大陸選抜高等学校野球大会(春の選抜):
21世紀枠出場 ベスト16位
○春季東山道地区高等学校野球大会:
近江県大会 4位
ときめき学園は、極めて野球に強い学校になった。
県下でも有数の野球名門高校に生まれ変わった。そして、進学にも力を入れている風変わりな高校としての立ち位置を確立した。
そして夏。
ときめき学園をがらりと変えてしまった男が帰ってくる。
大陸から、新たなる野球を持ち帰って。
ときめき学園の二年目の夏が始まる。新しく入ってきた1年生からすれば、いよいよ待ちに待った偉大なる先輩との初対面が、すぐそばまで控えていた。
◇◇◇
『大陸国 ブサスカ州大会(State Championship) 男子野球の部:優勝』
『大陸国 ブサスカ州大会(State Championship) 男子野球の部:三冠(最優秀選手賞、最優秀投手賞、首位打者賞)』
『Atlas Got Talent出場 Top10受賞』
『VideoTube STREAMERS AWARDS 話題賞』
『マハ市英語弁論大会 個人スピーカー賞 BEST8』
『第37回 ブサスカ州チャリティ活動表彰式 「社会ボランティア賞」・「学生ボランティア賞」※企業共同受賞』
華々しい垂れ幕の数々。
帰国早々、俺はちょっとげんなりしてしまった。どの垂れ幕にも堂々と描かれている『星上雅久』の文字がちょっと辛い。これは実績が欲しい高校あるあるなのだが、ちょっと結果を出すとああやって垂れ幕をかけられてしまうのだ。
ぶっちゃけると『マハ市英語弁論大会 個人スピーカー賞 BEST8』なんて、出場者が30人しかいないスピーチ大会だし、並べられるとちょっと恥ずかしい。だがあの垂れ幕一つ一つがお金になるのだから、我慢するほかない。
もちろんあれらも、学校のプレゼンス向上のための活動の一環。PTAの皆様、教育委員会の皆様に、我が高校は頑張っていますよとアピールするためのものなのだ。
「後でPTA会報とかOGOB後援会会報に載せるための寄稿文も書かなきゃ……はあ」
星上雅久。
向こうの教育課程で飛び級してしまったので、高校
超優秀な学業成績を修めながら、「古文・漢文」「倫理政経」「邦洲史」「数学Ⅲ・C」「保健体育」を勉強するためだけに学校に通う変な男が誕生した瞬間であった。
◇◇◇
「Chu 賢くってごめんね」
「ふざけてんじゃねえよお前何で飛び級してんだよ!」
緒方との漫才で始まった野球部員紹介。集まってきた新入生たちは、一瞬で俺のことを理解したらしい。つまり「すごく変な人だ」と。
俺だって別に飛び級したくて飛び級したわけではない。ただ時間割的にガンガン詰め込めるものを詰め込んで、後はさぼろうと思っていたら、勝手に進級してしまったのだ。アオカケス大学付属高校側も、良かれと思って進級させたっぽいので、これは俺の確認ミスだ。邦洲国ではすでに義務教育課程じゃないので、別に問題ないことになっている。
「ごめんごめん、三年生の星上です。留年できるか確認してきたら学校からOK出たので、もしかしたら留年するかもです。ピッチャーやってます。先発も中継ぎも抑えもできます。皆よろしくね」
クソ適当な自己紹介。
一年生たちはざわざわとし始めて、二年生以上のもう俺に慣れっこな連中だけ「ほんとお前は滅茶苦茶だよなあ」と苦笑している。
まあ、海外から帰ってきたチームメイトがいきなり飛び級してたら、誰だって驚く。
「ちなみに、ピッチャーできる子はいる? 森近と緒方の負担を減らしたいから遠慮なく手を挙げてね」
まだ動揺が収まりきっていない一年たちに問いかける。
この子たちを上手く育てながら、俺たちは新しいチームを組まないといけない。
人数が増えるのは、基本的にはいいことなのだ。
一年生だけで26名とは豪勢なチームになったものだが、全体の練習バランスを崩すのは少々憚られる。
なので、俺たち先輩が、新しいチームの形をハンドリングしてあげないといけない。
――今年こそ甲子園に出場を。
昨年の夏、あと一歩で届かなかった世界がある。その先に進むことは、俺たちの悲願であった。
星上雅久、17歳。
高校二年目の夏は、もうすぐそばまで近づいていた――。
――――――
さあ、これにて波乱(?)の新章スタートとなりました。
今までのときめき学園と違うのは、丸一年たっぷりと練習してきたチームメイト+即戦力級の新入生たちで構成され直した、より精強な面々になったというところ。
ここから思いっきり活躍させていくので、ご期待ください!
新一年の紹介は少々お待ちください。
例によっておもしれー奴らが入ってきてます。。。
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