第51話 その名は風野茂英(ふうのもえ)②
■風野英夏(ふうのえなつ):
邦洲国通算成績:139試合(1051回1/3)、78勝46敗、1204奪三振、奪三振率10.31、防御率3.15、WHIP1.35
大陸国通算成績:323試合(1976回1/3)、123勝109敗、1918奪三振、奪三振率8.73、防御率4.24、WHIP1.35
邦洲国リーグ一年目の1990年、投手4冠(防御率・勝利・勝率・奪三振)、新人王、最優秀選手(MVP)、沢宮賞を受賞。
その後、4年連続で最多勝と最多奪三振を獲得。
大陸国リーグ1年目の1995年、13勝、236奪三振、防御率2.54をマークし、最多奪三振と新人王を戴冠。その他、防御率2位、サイ・ジャンボ賞(最優秀投手賞)で4位。※四死球も大陸国で2番目に多かった。
その後、3年連続2桁勝利を記録。
独特でダイナミックな投法。球種はほとんど、ストレートとフォークボールの2つだけ。
打者の有利な小さい球場として有名な「クールズ・フィールド」で史上唯一のノーヒットノーランを記録。
後年、またもや打者有利な球場の「オリオン・パーク・アット・キャプテン・ヤーズ」で史上唯一のノーヒットノーランを記録。
いずれも風野英夏以外にノーヒットノーランを達成した者はいない――。
『彼女はまさに伝説だったよ。この地にいる人たちなら覚えているさ。彼女は、一度死んでいた野球を再び蘇らせたってね』
風野英夏を知る人は語る。
大陸国のベースボールは、ファンからの信頼を失っていた。
ドラッグ問題、DV問題、酷使される選手たちの相次ぐストライキ――不愉快な醜聞が長期間にわたって続き、金儲けと権力争いばかりに明け暮れる大陸国球界を見て、ファンたちは失望し、どんどん野球観戦から離れていく真っ最中にあった。
しかし、風野が現れた。
たった一人の女性が持ち込んだ旋風に、大陸は熱狂した。
『信じられないほどダイナミックなフォーム。そしてストレートとスプリットしか投げない、とてもシンプルな投球。なのにメジャーリーグの大打者たちをどんどん三振に斬って捨てる快活さ。――そりゃあもう、気持ちよかったね! 胸がすかっとするというのはこういうことさ!』
史上唯一のノーヒットノーランの達成。
そのニュースが大陸全土に広がった時、ファンたちの歓喜の声は大爆発した。
『彼女がいたから、もう一度ベースボールを信じようと思ったのさ。なあに、球団なんかじゃないよ。私たちが信じるのは、誰もできなかったノーヒットノーランの達成とか、そういう奇跡の瞬間――つまり、最高に盛り上がった試合の中で一瞬だけ煌めく、ベースボールの神様が時々起こしてくれる気まぐれってやつさ。私たちは
そして、風野はシルフェンズの英雄になった。
今もなお、この地にはその旋風の名残が脈々と受け継がれている――。
◇◇◇
トルネード投法。
身体の回転及び捻りの力を腕に乗せながら、一気にボールを放つ投法。背筋、腹筋、下半身の力を腕に伝えることで球速と球威が増す。
ダイナミックなそのフォームが竜巻に似ていることから、ファンにより付けられた名前。
ボールの握り方を見て球種を読もうとしても、ボールがほとんど体に遮られて中々見えず、球種が読みにくい。また普通の投球フォームと違うテンポで投げる為、タイミングが取りにくい。そういった特徴からリリースポイントが分かりにくく、総じて打者から見たときに打ち難い投げ方である。
一方で、体を強く捩じるトルネード投法では体軸や目線がぶれやすく、制球が悪化しやすい。また、強靭な下半身及び高いバランス感覚がなければ習得自体がそもそも難しい。
「Hey! That’s TORNADO!」
往来のファンたちが騒いだ。かつて熱狂した夢の続きが、その欠片がそこにあったからだ。
そしてそこにはトルネードがあった。
その名は
■1回表:マハ市選抜男子高校生チームの攻撃。
「はっや」
試合早々、俺は思わずうなってしまった。
あの風野という少女、まだ中学三年生の年齢だというのに、時速90マイル(≒144km/h)超えのストレートをぽんぽこ投げるのだ。球速で言えばうちの緒方並だ。制球は少々問題がありそうだが、それにしたって恐ろしい。
速い球は緒方で慣れているから大丈夫、とは言い切れない。
トルネード投法には癖がある。
(速度も速いけど、それだけで考えたらダメなんだ。相手はトルネード投法、つまりリリースポイントもタイミングも分かりづらい。速いストレート以上に打ちづらいストレートを投げてくるんだ)
マハ市選抜に選ばれているメンバーたちは、腐っても選ばれたエリートたちである。多少の速球ならば試合中に慣れて合わせられる。
だがしかし、1番打者はあっさりフライアウト。2番打者は三振。三番打者も凡退。
上位打線があっさりと三者凡退で切り捨てられてしまった。
三人がみな口をそろえて言う。「リリースポイントが分かりにくかった」と。
(うーん、俺も一打席目は捨てるか? ステータスオープンがあるからカット気味に粘りたいが)
トルネード投法ははったりでも何でもない。レジェンドの娘がトルネード投法をしっかりと使いこなしているのを見て、俺は危機感を少し高めた。
■1回裏:マハ市選抜男子高校生チームの守備。
トルネード投法で向こうに持っていかれたギャラリーの関心を再び引き戻すにはどうすればいいか。
答えは簡単で、同じぐらいに見ていて楽しい球を投げてしまえばいいのだ。
(そう、皆さんお待ちかね、イーファスピッチだ!)
満を持して、先頭打者に投げるイーファスピッチ。
だが、ぱきょ、といきなり一球目から合わされてしまった。
センターフライか、と背後を振り返ってみると、やはりセンターであっさり捕球されて終了。たった一球で先頭打者を処理。ざっとこんなものである。
ギャラリーからはどよめきと拍手。やはりTVに出演したという実績は大きい。観客の空気を味方に出来ている実感がある。
(さーて、もう少しイーファスピッチで戦うかね)
続く第二打者を前に、俺はワインドアップに構えながら考えた。
もう少しだけ丁寧に説明しておくと、俺のイーファスピッチにはいくつか種類がある。
すなわち、山なりになっているだけの普通のフォーシーム(直球)もイーファスピッチ。
オーバースローやスリークォータから投げる、カーブ回転成分を強めにかけてリリースするスローカーブもイーファスピッチ。
サイドスローからスライダー回転を強めにかけてリリースする球もイーファスピッチ。
サイドスロー~アンダースローから投げる、サークルチェンジの握りでシュート回転成分を強くかけてリリースする球もイーファスピッチ。
そしてサイドスローから押し出すようなナックルで投げる山なりの無回転ボールもイーファスピッチ(※ただし未完成)。
要するにイーファスピッチでも、スライド回転~シュート回転までの変化で横の揺さぶりをかけて投げているのだ。
ピッチングトンネル的には山の頂点がちょうどそこに当たるので、そこで見極めれば軌道は予想できるのかもしれない。直進成分が少ない分、通常の投球と違って、球の縫い目を見て回転を判断される危険性も上がる。
だがそれは言い換えれば、目線を上にあげてのスイングを強要できるとも言える。通常のスイングとは全然違う姿勢を強要できるので、力の入り方も全然異なるし、長打も難しくなる。
「Strike, three!」
第二打者をイーファスピッチ(サークルチェンジ)で仕留めて、三振でバッターアウト。
第三打者もあっさりフライアウトに仕留めて終了。なよなよした男のへろへろの球なんてぶっとばしてやるぜ、と息巻いている連中なもんだから、フライアウトで殺すのは案外難しくない。
(うーん、こりゃあ投手戦って感じになりそうだな)
均衡が長引きそうな、苦しい耐久戦の様相。観客たちの歓声を受けながら、俺はそんなことを考えていた。
――――――
■今後やりたいこと
①ホッシとみんなの成長を描きたい
進捗:みんなの覚悟UP+みんなの技術UP×2
ホッシの大陸球の慣れUP+ショーケースで結果をたくさん残す+新しい変化球
②ホッシが海外でステータスオープンを活かしたビジネスを始めたいそうです
進捗:学長にスポンサーになる交渉中+ショーケースで人材発掘+自前で野球イベント企画
野球データ統計調査委員会の設立+TV番組出演により知名度UP
③ホッシが海外で凄い選手に出会うようです
進捗:リトルリーグの子たちと仲良くなる+レジェンドの娘に興味を持たれる
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