第一章:リトルリーグ時代にガチな野球をして、"神童"になる

第1話 リトル時代:前世で培った野球知識で女の子たちをボッコボコに仕留めていく(ぐう畜クソ野郎) 前編


 女子野球が全盛を誇り、一方、か弱い男子が野球をやるなんて……と思われているこの時代。

 この俺、星上雅久ほしがみまさひさは、とある・・・野心を抱いていた。


(ひょっとして、小学校時代にリトルリーグでクソほど無双したら、もしかしたら将来のプロ野球のスター選手たちとワンチャン仲良くできるんじゃね?

 そして美人で金持ちのプロ野球選手の奥さんと結婚して、専業主夫になれるんじゃね?)


 人生のサクセスストーリー。

 はっきり言って、下衆みたいな考えに他ならない。

 カス野郎と罵られても仕方あるまい。


 だが少し冷静に考えてほしい。

 何でも分析できる『ステータスオープン』なんてスキルを手に入れたら、まず考えるのはお金儲けだと思うのだ。金をがっぽり儲けて優雅な老後を過ごしたい。

 それが俺の本心なのだ。


 そんな俺が真っ先に注目したのは、野球である。


 ・セイバーメトリクスの概念が存在していない

 ・練習における常識が旧態依然としている

 ・そもそも守備の概念が驚くほど古い

 ・変化球の研究もまだまだ進んでいない


 こんな状況の野球をみて、俺は一体何を思ったか?


(こいつは使える。こいつは上手い事やれば一儲け・・・できるぞ! でかいビジネスの匂いがする!!)


 ……。

 …………。


 再度言うが、カス野郎といわれても仕方あるまい。






 ◇◇◇






 リトルリーグで活躍しまくり、前世の処世術で爽やかな少年のようにふるまい、そうしたら何ができるか?

 比較的イケメンに生まれたこの顔に加えて、小さいころから栄養と睡眠と筋トレとストレッチに気を付けて過ごし、締まった身体を手に入れたらどうなるか?


「ねえ君、すごかったね! もしよかったら連絡先交換しようよ?」

「えっ、お、おう、うん……」


 答え:連絡先交換がすごく簡単。

 幼い頃からスポーツに打ち込んできた、純朴な野球少年――いや、野球少女たちに付け入ることなど、造作もないことである。


 俺はこの日、恵体の超有望選手、緒方睦に目を付けたのだった。


(よしよし、緒方睦おがたむつ、ね。10歳なのにリトルリーグのメジャー部門9歳~12歳で活躍していて、OPS 2.1の超大型スラッガー。そんな子が将来大成しないはずがないんだよなあ!)


 リトルリーグには上手い選手がたくさんいるが、その中でも緒方は飛びぬけている。Contact%/コンタクト率が9割。これだけ長身なのにも関わらず、悪球にもよくコンタクトしている。

 これは、ただ単に力押ししているだけでは達成できない数字だ。紛れもなくバットコントロールがいい証拠。


 後は選球眼さえついていけば、期待の選手として活躍できるだろう。


「ねえ、もしよかったら今度一緒に練習する? 俺は投げたいし、君は打ちたいし、いい練習になると思うんだ」

「!? お、おう、そうかよ……考えとく……」


 周囲がざわざわしている。

 野球をやっている数少ない男子でイケメンの俺。そして異性から憧れの女子扱いされているオーガ娘。そりゃあ周囲からも注目されるだろう。

 だが俺は純粋に、打算だけ・・・・で近づいている。周囲できゃあきゃあ言ってるだけの連中とは違うのだ。俺には実力があるのだ。






 ◇◇◇






 こんな感じで下心と打算で動いている俺だが、一方でリトルリーグでの活躍も怠らない。

 リトルリーグで無双。実際のところそれは、そんなに難しい話ではないのだ。


 身体能力。

 子供のうちは成長速度で体格に大きな差がつくとはいえど、

 ①タンパク質を中心とした高い栄養

 ②質の良い十分な睡眠

 ③過度にならない適度な運動

 ……に気を付けていれば、不健康な生活を送っている奴らなんかよりもよほど恵まれた肉体を作り上げることができる。


 制球能力。

 制球と一口に言ってしまうのは非常に難しいが、要するに

 ①反復練習

 ②安定した投球フォームを作るための下半身の筋トレ

 ③長いイニングを投げ切るスタミナ作り

 ④上手い選手の投球フォームの観察

 ……に他ならない。①は理想的な投球フォームを身に染み込ませるための練習であり、②③はせっかく覚えた投球術を疲れ果てた状態でもしっかり再現できるようにするための訓練、そして④は①で練習する理想的な投球フォームの学習である。


 子供のうちは、そもそも根気が続かない。

 根気強く何か一つのことに打ち込むことができたら、もうその時点ですでに大きな才能なのである。

 そんな子供は百人に一人もいないものなのだ。

 野球にしたって同じこと。子供のころからリトルリーグに通っている子供たちが、果たして寸暇も惜しんで野球ただ一つに打ち込んでいるかというとそうではないはず。

 俺のように高い意識で取り組んでいる子供なんて、そうそういるはずがない。


 科学的かつ効率的なトレーニングを子供の頃から続けていれば、リトルリーグの水準であれば十分に無双することができる。

 こんなのは当たり前のことなのだ。


(ましてや俺にはステータスオープンがある。相手の苦手な配球はもちろん、相手の苦手な変化球だって簡単にわかる。ビデオ分析とかしなくてもいい。俺はいわば、百戦錬磨のスコアラーから情報を取り寄せることができるような状況なんだから)


 そうなのだ。

 子供のころから高め続けてきた肉体能力に付け加えて、この分析スキル:ステータスオープンである。

 相手の弱点を突くような嫌らしいピッチングを続けるだけ。せっかく弱点が存在するのだから、そこを突かないわけにはいくまい。弱点に付け込まないのはぬるい・・・のだ。


 もちろんこの『ステータスオープン』は、分析相手を目で眺めることが絶対条件だ。

 なので事前分析はできない。

 試合をするまでにあらかじめ情報を集める……ということはできないので、俺ができることはただ一つ。


 投球術をひたすら高めて、どんな状況でも対応できるような器用なピッチングを実現する。

 泥臭いことではあるが、こればかりはそれしかないのだ。


(後はまあ、頭脳かな。リトルリーグぐらいの年齢の子供なら、配球を工夫するだけで、簡単に出し抜けるし)


 配球に関して、ここで一つ補足しようと思う。


 この世界でもデータ野球の概念は存在する。合理的で科学的な野球をしようという考え自体は、一部の若手から"新しい考え"として提言されている。


 ただし、ここは異世界。

 多種多様な種族が一律なプレーをするより、自分の身体能力頼りのプレーをすればいい……と考えている"若干大味な野球観"がいまだに根強く残っている。


 そりゃあ少しは便利だろうが、データ通りに野球が進むはずがない。

 苦労してまで膨大なデータを取ったところで、そんなに長年の勘と経験則から大きく外れるような結論は出るはずもない――というわけだ。

 実際、どこかの球団が苦労してデータを取ったものの、長年の経験則で周知の事実とほとんど同じことが証明されたせいで、「ほらやっぱりね」とデータ野球は軽んじられることになった。


 俺のように、ずばっとセイバーメトリクスの数値そのものが見えるならともかく、普通の人は、まず膨大な試合の資料を漁ってデータをかき集めるところから始めないといけないわけで。

 そんなことまでしてデータをかき集めるお金があるなら、質のいいコーチを一人でも獲得し、質のいい選手を一人でもスカウトしろ、となるわけだ。


 なまじ下手に「経験則は正しかった!」というデータが出てしまったせいで、データ野球の考えが浸透するのは遅くなってしまったのだ。


 というわけで、データに基づく配球ももちろん研究が遅れることになった。

 ――俺が美味しい・・・・状況だと感じるのも無理はないだろう。


 超一般的な「基本はアウトローに配球しろ!」とか、その程度の配球術は周知されているが、所詮はその程度。

 俺のように、「コース別打率」や「球種別打率」に基づいた配球まではそんなに研究が深まっていない。


 俺が配球で無双できるわけだ。リトルリーグともなれば敵なしと言って過言ではない。


(肉体作り、制球練習、そして配球。これで勝てない投手がいるはずないよな?)


 リードに長けた捕手。守備に優れた名手。俊足巧打のリードオフマン。驚異的なスラッガー。

 そういった仲間がいれば、より万全の体制になるだろう。


 だが野球は――投手が投げなくては始まらない。

 絶対的な投手が一人いれば、仲間に頼らなくとも、ある程度は勝利を呼び込むことができる。


 そして俺は、他のリトルリーグの子たちにはない絶対的なものがある。

 それは転生者である知識。

 要するに、大人が本気で頭を使えば、お子ちゃまなんか余裕でハメ殺せる、ということである。


 再三言うが、俺はカス野郎である。

 この世界で男として生まれた以上、そしてステータスオープンが使える以上――それを最大限に活かさない道理はない。


 肉体作りも、制球練習も、そして配球も――全ては愚直なまでの、勝利のための努力なのだ。


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