儚き獣

嵩祢茅英(かさねちえ)

儚き獣 序章【1:1:1】20分程度

男1人、女1人、不問1人

20分程度


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「儚き獣 序章」

作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)

女/ヤアヌ♀:

男/ジャン♂:

???/ノーヴェ(不問):

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朝、家の中でバタバタと用意をする男女


男「ねぇ~、靴下がないんだけど~!!」


女「え~?引き出しの中、ちゃんと見た~?」


男「見たよ!全部かたっぽしかなかった!!」


女「かたっぽずつ違うの履いててもバレないんじゃない?」


男「昨日の靴下でもいいかな…って、穴開いてるじゃん!」


女「やっば、卵焼き焦げた…あ~もう!!」


男「仕方ない…コンビニで買うか…」


女「また!?コンビニのだと高いじゃん!三足千円ので十分だって!!」


男「じゃあ早く買ってきてよ!!んで、引き出しの中のかたっぽしかない靴下、全部捨てといて!!」


女「分かったから、早くご飯食べて!仕事に遅れちゃう!!」


???:こんな調子で朝から慌しい彼らですが、家での生活だけが不得意というわけでもなく。

ええ、想像されるとおり、会社でも失敗を繰り返し、怒られることすらなくなりました。

会社の人はみんなこう思っているはずです。

『早く辞めてくれないかな』と。

それは、分かっています。

気付いていないフリをして、毎日、仕事に行っているんです。

だってほら、仕事をしないと、生きていく事もできないから。

でも、そんな生活にも、限界を感じていたんです。


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女:私は、猫を飼っていました。野良猫が産んだであろう子猫を拾って、大事に大事に育てました。私は家族がいなかったので、その猫だけが、私の家族だったんです。


女:そんな猫が、夜になっても帰ってこない日がありました。いつもなら夕方には帰ってきて、ニャーニャーと足にまとわりつき、ご飯をねだるのに…

その日は窓を少しだけ開けて、布団に入りました。でも、心配で眠れなかったんです。迷子になったのかな、事故にあったのかも。そうじゃなかったとしても、誰かにエサをもらえてたらいいなぁ…そんなことばかり考えて、気がついたら朝になっていました。


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???:数日後。公園の砂場の横で、死んでいる猫を見つけました。


女「…お前、こんなところにいたんだね…」


???:猫はひどく汚れていました。土や砂が体中について、フサフサだった毛は束になり、ジャリジャリとしていました。


女「…この傷、どうしたの?」


???:猫の体には、複数の傷がありました。刃物で切られたような、そんな傷が。


女「…痛かったね…」


???:頭のうしろがへこんでいて、たくさんの血が、べっとりと付いていました。


女「誰に、やられたの?」


・・・


女:それから、公園のすみに猫を埋めました。

けれど手は合わせません。

安らかに、なんて、願えなかったから。


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女:それから毎日、公園に行きました。

そうすれば、猫を殺したやつがまた、同じようなことをすると思ったからです。


子供たちが楽しそうに遊んでいます。


けれどその中に、ただ立って喋っている子供たちがいます。

みんな嫌な笑い方をしています。

その中の一人がナイフを手に持って、カチャカチャと回して遊んでいました。


あ、コイツだ。

そう思いました。

そう思った瞬間、不思議と体が冷えたように感じました。

冷静に。確実に。そう行動できるように。

人間の体って不思議だなぁ、なんて思いながら。


・・・


???:そして女はハサミを手に、子供たちの元へ、駆けて行きました。


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男:僕が住んでいた部屋の隣に、小さい男の子が住んでいました。

歳は八つ。元気で、明るくて、よく笑う、そんな男の子でした。

その子は僕を見つけると、駆け寄ってきて抱きしめてくれます。

けれどその体はとても細く、風が吹いたら飛ばされてしまいそうでした。


男:ある日、僕が外に出ると、その子は玄関の前に座っていました。

ひざを抱えて俯いていましたが、僕に気がつくと顔をあげました。

いつもなら笑って僕の元へ駆けて来るのに、その日は目が合ったまま動きません。


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???:男の子の体には、たくさんのアザがありました。


男「どうしたの…これ…」


???:男の子はなにも言いません。


男「何があったの…?」


???:男の子の体に触れると、男の子の目から、涙がこぼれました。


男「痛いの?どうすればいい?」


???:体中のアザを、さすってやることしか出来ません。男の子は消え入りそうな声で、やっと言葉を出せました。たすけて、と。


男「分かった。もう大丈夫だよ」


・・・


男:そう声をかけると、男の子は気を失いました。

あんなに懐いてくれていたのに。なんで気付いてやれなかったんだろう。


きっとこの子は、我慢していたんだ。


骨のような体は、ご飯を食べさせてもらえなかったからだったんだ。

明るく振舞っていたのは、自分の親にそんなことをされていると、知られたくなかったからだったんだ。知られたら、親に捨てられると思ったんだ。


そんな親、いらないんじゃないか。

そう思いました。

そう思った瞬間、体が熱くなりました。

あの子を守るために、神様が力をくれたんだ、なんて思いながら。


・・・


???:そして男は包丁を手に、隣の部屋へ、入って行きました。


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男「やっぱり僕たち、普通の生活なんてできなかったね」


女「そうね…人を殺す才能しかなかったみたい」


男「…でもさ、自分の才能に気付かないまま死ぬ人だっているんだから、僕たちは幸せな方なんじゃないかな」


女「バカな事言わないで」


男「…」


女「…この生活を終わりにするなら、たくさんお花があるところに行きたい」


男「花?どこにあるの?」


女「どこでもいい。花がたくさんあって、私が花に埋もれてしまうような、そんなところ」


男「ふーん………僕も…」


女「…ん?」


男「僕も一緒に行っていい?その、花しかないようなところ」


女「…うん。いいよ。一緒に行こう」


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花畑に倒れ込む


男「いいにおい」


女「ラベンダーっていうんだって」


男「目を開けたら、星がたくさん。空と星と、花しか見えない」


女「ここで眠ったら、とてもいい夢が見られそう」


男「ずっとここで、こうしていたいな…もう、疲れちゃった」


女「そうね…私も、疲れちゃった」


男「僕たちきっと、天国にはいけないね」


女「天国かぁ…」


男「…あーあ、花に生まれてれば、みんな僕のこと好きになってくれてたのかなぁ」


女「そうね………最後に」


男「うん?」


女「…名前…」


男「…なに?」


女「最後に、あなたの本当の名前を聞いてもいい?」


男「…いいよ。

じゃあ最後に、自己紹介をしようか。

僕の名前は―――――」


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???「あは! 見 ぃ つ け た」


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???「こんばんは」


女「…あなた、誰?」


???「んふっ

私の名前は、ノーヴェ。よろしく」


男「…僕たちに何か用?」


ノーヴェ「そんなに警戒しないで

私は、あなた達をスカウトに来たんだ」


女「…スカウト?スカウトって、何の?」


ノーヴェ「…人、殺、し」


男「っ!?」


ノーヴェ「んふふ」


女「…あなたと会ったこと、あったかしら?」


ノーヴェ「いいえいいえ!初めましてだよ

でもあなたたちの経歴は知ってる

だからね、ウチの組織のメンバーにどうかなぁって、スカウトに来たの」


男「人殺し、って言ってたけど」


ノーヴェ「ウン」


女「そんなこと、許されると思ってるの?」


ノーヴェ「…あはっ!自分を棚に上げて、よくそんな事が言えるねぇ…

でも…

そうだね、答えてあげる

『許される』とか『赦されない』とか、ウン、そういうのは関係ない

まだ正規雇用してないから詳しくは言えないけど、ウン、そこは気にしないで

必要なのは、殺しのスキル。そして、メンタル

あなた達はそのどちらもクリアしている

もちろん技術は磨いてもらうし、そのための訓練は私たちに任せてくれれば問題ない

…ここまでで、何か質問ある?」


男「質問…っていうか、疑問だらけなんだけど」


ノーヴェ「ウンウン、まぁ、普通はそうだよねぇ」


女「胡散臭いことこの上ないし」


ノーヴェ「んふ」


女「…私たち、生きることに疲れたの

社会不適合って言葉じゃ生ヌルいくらい、この世界は私たちには向いてなかった」


ノーヴェ「ウン、知ってる」


男「…あなたの話を聞いて、すぐに希望は持てないよ」


ノーヴェ「…ンー…それもそうね…

でも、あなた達、死ぬ気でしょ?」


女「…」


ノーヴェ「死んだ人間はスカウトできないから」


男「…」


ノーヴェ「ウンウン…だから、そう…

ここで死ぬって、その覚悟があるなら、

組織に入ってみて、それから決めてもいいんじゃない?」


男「…(溜息)だからさぁ、それって僕たちに何のメリットが(あるの?)」


ノーヴェ「五百万」


女「?」


ノーヴェ「ウチに所属した場合、月給五百万あげる」


女「はぁ?」


ノーヴェ「依頼がなければ土日祝日は基本休み

正月、お盆、GW…そういう世間では大体の人が休みってところも、ウン、休みだよ

ただ、ターゲットの休暇を狙って暗殺するって時はやっぱりあるから休めないこともあるけど、そこはほら『先方の都合』ってやつ

会社員だってそうでしょ?」


女「…」


男「訓練って、何するの?」


ノーヴェ「訓練ね

基本の歩き方、気配の消し方

それと武器の使い方

得意なものを伸ばしてもいいし、色んな武器をバランスよく使えるようになるのもいい

そこは追々、要相談って感じかな」


女「…断ったら?」


ノーヴェ「んー?別に、ここでサヨナラ」


男「今言ったこと、人に言われたらマズイんじゃないの?」


ノーヴェ「あはは!こんな話、信じる人がいると思う?」


女「…現に私たちも信じてないしね…」


ノーヴェ「そーゆーこと


…ンー、でもあなた達、ここで死ぬつもりだったんでしょ?でも、死のうと思っただけじゃ死ねないからさぁ…


私が殺してあげる

死体も絶対見つからない方法で」


女「…それって脅し?」


ノーヴェ「いやぁ!まさかまさか!

ただの親切心だよぉ」


女「…」


男「…僕たちに選択肢は、ないみたいだね」


ノーヴェ「んっふふ

じゃあ決まり、だね」


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ノーヴェ「あ、そうそう

組織を抜けたいなんて言わないでね?

その時は死んでもらうから

任務中に死ぬこともあるけど、そこは自己責任って事で」


男「…ブラック通り越してない?」


女「早まった、かな…?」


ノーヴェ「じゃあ、これからよろしくね

あ、それからウチではコードネームで呼び合うんだ


君が、ヤアヌ

そして君が、ジャン」


ヤアヌ「ヤアヌ…」


ジャン「ジャン…」


ノーヴェ「ウンウン!

そして私は司令部の一人、ノーヴェ

命令違反はお仕置きだから、注意してね」

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儚き獣 嵩祢茅英(かさねちえ) @chielilly

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