第28話 『 人の黒歴史暴いて楽しいか? 』

 かくしてアマガミさんが僕の自宅に来ることが決定した、その放課後。


「よし。それじゃあ、行こうか」

「お、おう」


 やや緊張した面つきで頷いたアマガミさん。

 僕らはほぼ同タイミングで鞄を肩に掛けると、付き合いたてのカップルのようなぎこちない足取りで教室を出ていく。


「今更だけど、本当に行っていいのか?」

「勿論。あ、でもアマガミさんが嫌なら……」

「嫌じゃない! 嫌じゃないけど……その、女が男の家に行くのって……なんか……つ、付き合ってるみたい……」


 アマガミさんが真っ赤な顔を俯かせて何かごにょごにょと呟いている。


「あ、あたしに二言はねぇ。行くって決めたら、行く!」

「そんなに気合入れて向かうほど立派な家でもないよ」


 両脇を引き締めて気合を整えるアマガミさんに、僕は思わず苦笑。


 ……まぁ、アマガミさんが緊張している理由も分からなくもない。


 僕だって平常心を装っているだけで、内心では少し緊張している。


「(女子をお家に誘うって、今思い返してみれば初めてだな)」


 男友達でも初めて来客してもらう時は緊張するのだから、これが異性の友達となればその倍は緊張する。


「(でも、アマガミさんもちょっと緊張してくれてるのは嬉しいかも)」


 これがもし男慣れしている女性だったら、もっとリラックスしている状態だと思う。


 今のアマガミさんは分かりやすく緊張しているので、たぶん男子の家、及び他人の家にはあまり遊びにいったことがないのではないのだろうか。


「アマガミさんは誰かのお家に遊びに行ったことってあるの?」

「人の黒歴史暴いて楽しいのか?」


 ふと気になって質問すると、アマガミさんから返って来たのはドスの効いた声と背筋が凍るほどの睥睨だった。

 そのあまりに強烈な睥睨に僕は頬を引きつらせながら、


「ごめん。今の質問はなしで」

「ふんっ。狂狼のアマガミ様が誰かとつるむわけねえだろ」

「……それが答えみたいなもんなんだよなぁ」


 答えてはくれなかったけど、態度で丸分かりだった。


「――でも、それはとても光栄なことだな」

「あ、どういう意味だ?」


 ふと、僕がぽつりと呟いた言葉に、アマガミさんが怪訝に眉を寄せる。

 そんな彼女に、僕は微笑みながら、


「だって、アマガミさんの初めては僕がもらっていい、ってことでしょ」

「~~~~っ⁉」


 アマガミさんの友達の家に遊びに行く。その初めてを僕が貰っていいなんて、なんだか恐縮で、けれどそれ以上に嬉しかった。

 彼女の初めては僕のもの、という思い出は、存外嬉しいもので。


「お、おま……あたしを家に誘ったのってやっぱり……っ⁉」

「どうしたのアマガミさん? いつになく顔を赤くして?」


 これまで以上に顔を真っ赤にしているアマガミさん。どうして彼女がそんな反応をしているのか分からず、僕は首を捻るばかりだった。


「そ、そういうのはナシだからな!」

「? なに、そういうのって?」

「くうっ⁉ ボッチの変態! すけこまし! エロ助!」

「今の会話に僕がアマガミさんに罵られるような発言あったかな⁉」

「お前は全体的に無自覚なんだよ! もっとこう! 女心ってやつを分かれっ!」


 顔を真っ赤にして、目を潤ませて叫ぶアマガミさん。そんな彼女の主張に、思い当たる節が全くない僕はただただ困惑するばかりで。


「僕はただ、アマガミさんの初めてをもらえるのが嬉しいって言っただけで……」

「公衆の面前で破廉恥なこというな⁉」

「言ってないけど⁉」


 後にアマガミさんが僕の発言を何か勘違いしていたということは、僕らが家に着く一歩手前で発覚することになるのだった。



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