第27話 『 アマガミさんとお誘い 』

「なあ、ボッチってどれくらいゲーム持ってるんだ?」


 とある日の休み時間。

 ふとアマガミさんがそんな質問を投げかけてきた。


「どうしたの急に?」

「少し気になってさ。ほら、お前ってあたしによくこのゲームが面白いって教えてくれんだろ」

「……うん」

「たまにあたしがオススメ聞くと、即座に答えてくれるじゃんか。家庭用ゲーム然りソシャゲ然り」

「基本どのジャンルにも手を出してるからね」

「あぁ。おすすめのギャルゲーなんか勧められた時は流石のあたしも引いたが」

「ご、ごめんね?」


 オタクあるあるなんだけど、自分の好きな話題を話すときって妙なスイッチが入ってつい余計な話までしてしまうのだ。

 謝ると、アマガミさんは「いいよ好きなんだろ」とフォローしてくれつつ、


「だからお前がどんだけゲーム持ってんのか気になってさ」

「それで聞いてきたと」


「そう」と指を鳴らして肯定するアマガミさん。

 僕はなるほど、と納得しつつ、頭の中で所持しているゲームソフトの本数を思い出す。


「うーん。だいたい150本くらい?」

「きもっ」


 答えたらドン引きされた。


「あはは。アマガミさんの感想もなんとなく分かるけど。流石にド直球に悪態吐かれるのは傷つくなぁ」

「悪ぃ悪ぃ。エグイ数が出てきて思わず引いちまった」


 まぁ、普通の人ならゲームソフトなんて所持していて数本だろう。ゲームをそれなりにやっている人で十数本。

 そうしてみると、たしかに僕が答えた数字はちょっとキモいかも。


「お前ってやっぱゲーマーだな」

「否定はできないかな。ゲームって楽しいし。遊んでるとつい他のジャンルにも手を出したくなっちゃって違うソフト買っちゃうんだ」

「その気持ちも分からなくもないけど……でも150かぁ。すげぇな」

「家に帰ってきちんと数えたらそれ以上はあると思うよ」

「まだあんのかよ⁉」


 アマガミさんが大仰に驚く。


「でも、そんだけ持ってるのちょっと羨ましいかも。あたし、ツイッチのソフト数本持ってるくらいで、あとはソシャゲしかやってねぇから」


 ゲーム機って高い、と顔をしかめるアマガミさん。その気持ち分かるなぁ、と僕は微笑を浮べて共感する。


「アマガミさん、ソシャゲなら結構やってるもんね」

「コイツがあれば無料で遊べるからな」


 と言って、アマガミさんはスマホをひらひらと振る。


「基本お金ない学生の心強い味方だもんねソシャゲは。最近はグラフィック綺麗なものも多いし、戦闘グラフィックも派手になったもんだよ。まぁ、代りに内部ストレージ持っていかれるけど」


 高画像にモーション数。ゲーム内BGMと、ゲームのクオリティを上げていけばそれに比例して必要なデータ量も多くなってしまう。逆にとにかくコスト削減してゲームを作ると、低クオリティなものが出来上がってしまいユーザーから見向きもされない上にSNSでは批評だらけになってしまう。


 これがソシャゲの難しいところであり、課題と問題だ。今の時代、予算削減して作りましたー、なんてソシャゲは絶対に流行らない。


 まぁでも、そんなゲーム業界の問題はアマガミさんには関係なくて。


「あたしは楽しければなんでもいいわ。内部ストレージとか高グラフィックがどうとかよく分かんねぇし」

「あはは。大抵の人はそうだよね」


 アマガミさんのように、大抵の人たちは『楽しく遊べればそれでいい』で、僕や誠二くんのようにゲームオタクスイッチが入って議論が始まったりしない。

 まぁ、アマガミさんのその考えが一番正しかったりするけど。

 きっと全てのゲーム会社がユーザーに求めているのは、アマガミさんのように『自分たちの作ったゲームで楽しく遊んで欲しい』という願いだと思うから。


「僕もアマガミさんを見習わないと」

「今の会話のどこにあたしを見習う要素が出てきたんだよ?」

「僕はアマガミさんの生きる姿勢から色々と学ばせてもらってるよ」

「はぁ。余計意味分かんねぇこと言うなよ。あたしは好きに生きてるだけだ」

「その姿勢が既に憧れなんだよなぁ」


 やっぱりアマガミさんはカッコいい。

 羨望を宿した視線を送るとアマガミさんは照れたように「こっち見んな」とそっぽを向いた。普段は眉間に皺を寄せて怖いのに、こういうところは可愛いんだよなぁ。

 そんな彼女の可愛い反応を堪能すること数秒。熱の冷めた頬が僕に向き直ると、羨ましそうに息をついた。


「でも、そんなにたくさんゲームあったら毎日退屈しなさそうだな」

「全部やってるわけじゃないよ。最近はもっぱらツイッチかPCゲームしかやらないし」

「PCってあれか? よく実況者が使ってるようなバカデカいやつか?」

「アマガミさんが想像しているようなものかは分からないけど、それなりに大きいかな」


 答えると、アマガミさんが少し興味を持ったように聞いてくる。


「なぁなぁ。やっぱデカい画面でゲームするとテンション上がるのか?」

「そうだね。今はもうその感覚薄れちゃったけど、初めて遊んだ時は凄く感動したな」

「くあぁぁぁ。いいなぁ。あたしも一回でいいから大画面でゲームしてみてぇ」

「なら僕の家来る?」

「え」

「え」


 僕の何気ない提案に、アマガミさんが目を見開いたまま硬直した。

 それから僕らの間に微妙な空気が五秒ほど流れる。


「い、行って、いいのか?」

「う、うん。アマガミさんが嫌じゃなければだけど」

「え、その……や、っとだな……い、嫌じゃない。お、お前が嫌じゃないなら」

「ぼ、僕は構わないよ」


 ぎこちなく頷けば、アマガミさんは頬を上気させて僕を上目遣いで見つめながら――


「なら、行く」

「は、はい」


 こうして、アマガミさんが僕のお家に来ることが決まったのだった。


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