2話 帰る場所
リョーマが部屋を出からて少し歩いたところでカイルの声を聞いた、コープと話しているようだった。
カイルもペペリアもダンチダンズに入ってからは2年程経っていたがダンジョンに行く時に集まる以外では長時間話すことは少なく、少し会話を交わすと大抵ペペリアが散歩に行くかどこからか仕入れた噂を人に広める為にいなくなってしまっていた。
何を話しているのかと思えばペペリアのことを話をしているようだ、自分の情報をペペリアに知られたら翌日にはダンチダンズのメンバーの半数以上に広まると自分の噂を広められた時のことを交えながら説明をして、「不用意にぺぺリアに悩み相談なんかはしないほうがいいぞ」と締めくくった。
「部屋の空きはあった?」
2人の話が丁度終わった様子を見てカイルに声をかけた、振り向いた2人の身長は頭2つ分も離れていてまるで親子のように見える。
「ありましたよ、少し話したらペペリアはすぐあっちに行っちゃいましたけど」
畑がいくつもあるエリアを指さして少し呆れたように言った。
「またトマトでも食べてるのかな、ペペリアはいつもトマトばかりとってるね」
リョーマは微笑みながらそういった、確かに育てている野菜は美味しいからその気持ちもリョーマには分かる。
畑でとれたものは皆で共有する事になっていて、ダンチダンズで食事を出すときには畑の管理人がペペリアの食事からトマトを抜いて畑泥棒のバランスを取っているのを度々見た。
クラウスが食事から野菜を度々抜かれているのを見て、その理由を初めて聞いたときに畑の管理人に迷惑をかけないように畑からは食べないとリョーマは決めていた。
「リョーマさんさっき部屋の場所も聞いたので1回部屋に行ってきます、荷物もまだ運んでないので後でまた話を聞きに来ますね」
コープはそう言うとリョーマの返事も聞かずに駆け出して山のような荷物を今できたばかりの自分の部屋に運び始めた。
「コープの荷物はカイルとは真逆だな」
リョーマはカイルがダンチダンズに来た時を思い出してそう言った、カイルが身に着けていた時に目立つのはの故郷の服だという白い服装だけでコープのように離れていても分かるような大荷物は持っていなかったからだ。
「そうですね、もう数年たつんですね」
カイルは懐かしむようにそう言ってこの村にきたときのことを思い出していた。
「明日はダンジョンに行くんですよね」
ふとカイルが思い出したように言った。
「少し早いけど皆の装備の調整をしてきます、3号室とはいえ何があるか分かりませんから」
「あぁ、助かるよ」
リョーマはそう言ってコープが帰ってくるまでの間何をしようと考え始めた。
「お帰り、クラウス」
日が沈み少し暗くなりだした頃、クラウスが家に戻ると大鍋をかき混ぜているジリアが部屋の奥から振り返ってクラウスの帰りを迎えた。
「ただいま、母さん」
「リョーマは一緒じゃないの?」
今度は大鍋をかき混ぜながら振り返ることはなく大鍋に向いたまま、クラウスに問いかけてそれから大鍋の中身を少しすくい味を見た。
「コープって新人志望が今日の昼頃来てさ、いろいろ施設をまわってるんじゃないかな」
鍛錬でかいた汗を水桶にためた水で流し、顔についた水を拭きながらそう答えた。
「そっか、また宝探し目的で入団したのかい?」「途中で入団した人にもベルちゃんを探していることを教えたほうがいいんじゃないの?」「ご飯はもう食べる?」と
グツグツと大鍋を煮立たせている火を止め、ジリアは気になっていることを返答を待たずに一気に伝えた。
クラウスはジリアが継ぎ目なく質問するのに慣れているのか話に割って入ろうとせず。
話を全部聞いてから大鍋を覗き込みながら少し考え、「リョーマを待ってから食べるよ、もう少しで帰ってくると思うし」と言って「目的は分からないけど明日ダンチに行く時にでもベルの事は言うよ、ベルが見つかった時に探しているのを知らない人がいたら困るからさ」と今度はクラウスが継ぎ目なく返答した。
そんなやり取りがあってから1時間ほど経ち、ダンジョンのことやコープの事を考えながらも食事だけでも先に済ませようかと思い始めた頃ようやく扉がキィーっと音を立てて開き、リョーマがいつもより少しだけ疲れた様子で「ただいま」と言ったのを聞いた。
クラウスは空腹を満たす事とリョーマに疲れている訳を聞くことのどちらを優先しようかと考えたが待っている1時間の間に大鍋の中の具材を全種類1つずつ食べ、小型の鳥の骨付き肉に至っては3つも食べたことを思い出して先に疲れている訳を聞くことにした。
「おかえり、大分疲れてるな」
「あぁ、コープからの質問攻めがすごくてな、2日分の会話を先取りした気分だよ」
そう言いながらリョーマは大鍋の中を少しの間覗き込んだ、急に忙しくなった一日の最後の楽しみを何で始めるか決めかねているようだ。
クラウスがその様子を見てもう待ちきれないという風に大鍋の中の具材をまた1つずつ全種類よそった。
「もう食べたんじゃないのか?」
リョーマはクラウスの皿の中に残った骨を見ながらそう問いかけ自分の皿に具材を取り分けた、2つ目の骨付き肉も皿によそうと具材の旨味ととスパイスが溶け出したスープもあふれんばかりに注いだ。
「明日ダンチに行くからな、ベルのこともある…… 3号室に行くとは言え何があるか分からないし前日にはできるだけ一人では飯を食いたくない」
リョーマの目に映るクラウスは聞くまでもなくあの日を思い出しているように見えた。
その姿を見たリョーマは昼に一度開けた記憶の引き出しを再び開けて、あの日のことを思い出した。
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