第1話 来訪者

 今日新入りが来るらしい――

 

 時計を見るともう昼になろうというときクラウスはようやく起床した。

 起きたばかりの目をこすりながら歩いていると誰かがそんな噂話をしていたのをクラウスは聞いて驚いた。

 なぜなら新人が来るときはいつも相談をして決めていたし、入団する前にはクラウスにも顔を合わせる事になっていたので会ったこともない人物がいきなり入団するのは初めてだったからだ。

 

 

「おい今日新入りが来るのか?聞いてないぞ」

 団長のリョーマにその事を確認するために村の中でも一番大きな扉を開けながら声を張り上げる。



 扉を開けるなり声を張り上げたので、屈んで作業をしていた背の高い男が体をビクッと震わせ一瞬動きが止まる程驚いた。


 「なんだクラウスさんか、びっくりさせないでくださいよ」

 「カイルか……そんなに驚くなよ、戦闘中にそんなことで動きを止めるやつまで守る余裕はないぞ」

 クラウスは呆れたようにそんなことを言ってほかに誰かいないか部屋を見まわした。 

 

 

 「リョーマさんは今いませんよ、ダンチダンズに入りたいとかいう人が来たらしくて」

 細かい作業を早々と終わらせてカイルが椅子に腰かけながらそう言った。

 「村の外からか?」

 「たぶんそうだと思いますよ、さっきペペリアがそんな話をしているのがこの部屋まで聞こえてきましたから」

 

 「またぺぺか、どこで噂を仕入れているのか分からないがなんでもすぐ言いふらすのをやめてくれと前言ったんだがな……」

 クラウスは小さくため息をついた。

 

 ペペリアはいつもどこからか噂を仕入れてきては誰彼構わず噂話を広めているので

 クラウスは困っていたが、一番の問題はそれではなかった。

 一番の問題は話を聞きに探しているときに限ってはすぐに見つからない事だった。

 

 「リョーマがどこにいるか聞いてるか?」

 既に探しに行く準備を始めながら、クラウスは聞いた。

 

 「後でまたここに来るって言ってましたよ」

 カイルが話を続けようとしたとき不意に部屋の扉が開く。

 2人の会話は途切れ、それと同時に扉を見た。


 「おはようクラウス、やっと起きたの?もう昼過ぎだよ」

 開いた扉からそんなことを言いながらリョーマは入ってきた。

 そこにもう1人、クラウスには見慣れない顔があった。


 「初めまして、クラウスさん」

 「クラウス、さっき起きたばかりで知らないだろうから説明しておくよ」

 部屋に入ってくるなりクラウスに話しかけてきた少年を見ながらリョーマは話を続けた。

 「コープって名前でダンチダンズの噂を聞いて遠くから歩いてきたらしいよ」

 

 「そうか、今日の朝来たのか?」

 いつの間にかカイルと話している少年を見ながらクラウスは相槌を打つ。

 「いや、ついさっき到着したばかりだよ、ダンチダンズに入りたいって言ってたから1回ダンチを一緒に見てきたんだ」

 

 

 「ダンチの噂を聞いてダンチを見に来たらリョーマさんとたまたまあってそのまま連れて行ってくれたんです」

 コープはカイルと話しながらもこちらの話を聞いているのか、声を張り上げて一言だけリョーマとクラウスの話に割って入ってきた。


 「カイル、悪いんだけどペペに空き部屋があるかどうか調べておいてもらってもいいかい?」


 カイルはリョーマの頼みを聞くとうなずき部屋をでて足音を響かせながら歩いて行った。

 クラウスは何か考えていたようだったが、ダンチダンズに入るのが楽しみで仕方がないという様子を隠さない少年を見てようやく口を開く。

 

 「ダンチがどういうところか知ってるのか? 単に好奇心だけで入ろうとしているなら一旦考えたほうがいい、探索するときは細心の注意を払うが死人が出ることもあるんだぞ」

 「分かってます、それでも行きたいんです」

 

 

 コープは言葉では分かってると言ってはいたがとても分かっているようには見えない


 それでもどうしても行きたがっているような様子を見て返答に困ったのか、クラウスはリョーマに視線を向けた。

 

 「まぁいいんじゃないか、皆目的があってダンチの探索を手伝ってくれてるんだから、探索中に見つかる道具を見て宝探し気分のやつらもいるだろう?」

 


 リョーマは優しく諭すように問いかけるとクラウスは何か言いたいことでもあるかのような素振りを見せたが何も言わずに黙っていた。

 「コープ、後でカイルが部屋を教えてくれるから話を聞いてくるといい、ダンチの事もまた後で教えてあげるよ」

 「ありがとうございます、リョーマさん」

 コープはリョーマの言葉を聞いた途端 嬉しそうに笑うと駆け足で部屋を飛び出して行ってしまった。


 

 「明日1回ダンチに連れて行ってみようか、3号室なら大丈夫だろう」

 リョーマは椅子に腰かけながら、黙ってしまったクラウスに話しかけた。

 

 「そんなにすぐ決めていいのか?前は入団前にもっと時間をかけていただろう」

 「良いよ、クラウスもこの前の21号室のヤツを見ただろう?今までと違う、死人もしばらく出ていなかったのに急に3人も死んだ、3年前ダンジョンに生物が現れるようになったみたいにまた何か変わってきてる」

 

 リョーマの口調は次第に早くなり、コープ達が部屋にいたなら見せていなかったであろう、感情がこもった声になった。誰が聞いても様子が違うのは分かるほどに。

 「そろそろベルも見つけたい、行方不明になってからもう3年だぞベルがまだ無事なら早く助けたい。少ない号数の部屋から慣らしていけば大丈夫だろうし団員は多いほうが良い」


 

 「ベルなら無事さ、そう思って探すしかない 何があっても探し出すと覚悟を決めてこの組織を作ったはずだろ」

 クラウスはリョーマの肩に手を置いて手に力を込め、それからそんなことを言った。


 「そうだな、クラウスには子供のころから助けてもらってばかりだ」

 

 その時クラウスはきっとリョーマが今までにあった色々なことを思い出しているのだと思った。

 クラウスもベルやリョーマと色々な場所に行ったことを思い出したが、最後に思い浮かんだのは3年前に急にベルがいなくなってしまった日の事だった。

 


 「後でコープに戦えるのかどうかは聞いておけよ、いくら守るといっても何もできないんじゃ話にならないからな」

 そう言うとクラウスは歩き出し「剣の手入れをしてくる、またお前に壊されちゃたまらない」とワザとらしく声を張り上げ部屋を出て行った。


 リョーマは何かを思い出したのか笑みを浮かべ、ふぅっと息をついてから部屋から出るのだった。

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