転職人生

@tenshokujinsei

第1話 はじめに

「誠に残念ではございますが今回登録を見合わせていただくことになりました。

ご希望に添えず恐縮ですが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。」


2022年11月某日、まさかのメッセージを受信。とうとう日雇い派遣の登録さえも断られた。しかも応募申請していた2社とも。電子メールで送っていた履歴書に貼ってある写真も6年前に撮ったもの。若作りにも限界があるのか。写真を改めて見返し、鏡に映った実物の顔と見比べてみる。肌の艶もなくなった茶褐色のガサガサした皮膚。この数年でできた目の下の黒いシミは残ったまま。白髪も目立つようになった。鼻毛も白色になることを最近はじめて知った。あまりにも写真と乖離している。2023年1月で43歳になる。

もう諦めさえも漂う中でのこの出来事は深刻さと絶望感をさらに色濃く加速させる。

もうすぐ2022年が終わる。ヒートテックを着ないと寒さを防げなくなってきたこの季節。寂しさと虚しさを余計に感じる出来事だ。

今年、人生で初めて覚えた煙草をふかしに自宅の玄関の外へ。


この一年で経験した会社は正社員の会社で4社。バイトを含めれば7社。

この一年間、同僚社員との大喧嘩、妻の浮気、自殺未遂、公共の場所での大絶叫を経験した。

つい昨日も近所のレジのバイトをたった5日目の勤務で辞めてきたばかりだ。理由は、怖いお局のおばさんに強い口調で叱責され、それが許せず、もう一緒に働く事は困難であると店長に伝えたからだ。おばさんの言っている事は正しいのだろう。それは知っている。自分が仕事の手順の確認不足と、満足させるだけの仕事のパフォーマンスを行っていなかったから注意を受けたのだろう。しかし、まだ5日目の勤務の仕事で慣れていない時期なのに、それまで優しく接してくれていたと思っていたのに、急に堪忍袋の緒が切れたかのように突然変貌した姿にショックを受けた。そしてのべつ幕無しに畳みかけるように怒る姿に、この人とは一線を画した。もうこのおばさんとは一緒に働けない。退職を覚悟した。いつものように。

この手の話を何年も聞かされていて慣れている友達は、「やめ癖がすごいですね(笑)」と言って笑っていた。

思えば、この1年、転職を繰り返したし、半年間タクシードライバーで沢山の人を乗せた事もあって、色々な人との出会いがあった。そしてこれまで経験した事のない経験もした。

いや、この一年に限った事ではない。就職氷河期世代と呼ばれていた2003年の就活から現在まで約20年の間で約20社を経験することになった。そしてもうすぐ43歳となる現在も、転職活動をし、将来が白紙である。妻もいて小学校2年生の男の子と幼稚園年長の男の子のまだまだ可愛くて愛おしい子供が二人もいる。お金もどんどん無くなる。年金は払えないから今年一年間は全額免除にしてもらっている。その分将来受け取れる金額は少なくなるのだろう。国民健康保険に加入した。保険料がこんなにも高額であることを身に染みて理解した。この数か月は両親から毎月、この税金を含めた援助金と救援物資を受け取っている。親のありがたみと健康保険証の存在に改めてありがたさを覚えた。この先どうなるか分からない。昨年、ボランティアで炊き出しをして生活困窮者にお弁当をふるまっていた自分がまさか、逆の立場になりそうな状況になるなんて思ってもいなかった。

医療商社で薬事業務をしていた去年の年収は、人生で最高記録の555万円。それが今年の年収は、現時点で125万円ほど。今年のお正月に厄払いをした神社で、会社を辞めずにいつまでも働けますようにと願った願掛けは空しく8日間でその会社は辞めた。この神社のご利益はないという事だけが証明された。

もう転職ばかりする人生は嫌だ。

次に入社する会社が最後の会社で定年まで働いてやると、これまで何度言った事だろうか。

だが今回は本当に切に願う。そのために、心の断捨離をしたいと考えた。自分の膿を全てさらけ出し、自分の反省すべき事、失敗談や怒られた事、ネガティブな事にスポットを当てて、二度と繰り返さないために供養をしたいと考えた。

この小説は、大学を卒業してから現在まで働いた会社、職場を時系列順に並べた回顧録である。

現在お世話になっている認知行動療法の機関の臨床心理士の先生や、精神科の先生、就労支援センターの担当者のおじさんの言われる通り、自分の不得意な事、得意な事を列記し、怒られないための環境整理をし、自分の特性に合って長く務める事ができそうな職場探しを再度見つけようと思ったのである。

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