誕生日
『お誕生日おめでとう』
22:00前、今日誕生日だったけ?と、思い出したように送られてきたLINEが2件。
うつ病になってしまった高校の時の友達と、中野からだった。
私を祝う人は少ない。
このLINEで、今日って私の誕生日だったんだなって、気づく。
中野は、昨日、私にネックレスをくれた。それは、誕生日プレゼントだったのか。このLINEを見るまでプレゼントの意図が分からずにいた。
何も言わずに、俺でごめんみたいな感じに私に渡されたネックレス。心の綺麗な子だったら、わぁーきれい!と、素直に喜べたのかな。私は申し訳ない気持ちと、その愛の重さに、心がギュッと締め付けられていた。そのネックレスは、今、引き出しの中にしまってある。
回転寿司の出口の扉を開ける。
奏人と話していたい。このままいたい。曖昧で、汚くて、惨めで、何かにすがっていないと生きてられない私は、どんどん奏人から離れていく。どんなに近くにいたって離れていく気がする。
「はい、これ」
奏人は、お寿司のキャラクターの大きなぬいぐるみを私に差し出す。
「どうしたの? ポイント貯めないともらえないやつ」
ずっと私が欲しかったぬいぐるみ。ポイントは、1年限定だからいつもポイントが溜まらず、もらえなかった。なんで、ポイントの有効期限は1年なんだろうと、
「お寿司が好きすぎて通い詰めたら、ここまでポイント溜まった。あげる」
「これ、くれるの?」
「うん」
「ありがとう」
真っ直ぐ奏人を見れなくて、ぬいぐるみを見てお礼を言った。
嬉しい。すごく嬉しい。高いプレゼントよりも、このぬいぐるみの方が嬉しかった。回転寿司に通う奏人の姿が浮かぶ。
奏人は、私が本当に欲しい物が分かる人だ。お金とか、豪華さじゃなく、ちゃんと大事な事を私に教えてくれる人だった。そんな奏人にどんなに救われてきたか。夜道に蛍光灯がパッついた気持ちになる。心細い気持ちに希望をもたらす。
私は奏人と付き合って4年。奏人の後ろを歩いてきた。君の歩く道はここだよって、足元を照らされて生きてきた。奏人と出会う前の私が、どうやって生きてきたのかは今となっては思い出せない。ずっと奏人が私の人生にいた気がする。
「少し歩いて帰る?」
明日の仕事の事なんていい。ただ、隣をもう一度だけ歩いてみたい。
「俺もそう思ってた」
奏人の優しい声が心に浸透する。
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