第34話 休日のひと時
『ニュースをお伝えします。先日起こったダンジョン内の魔物が外へと進出してきた事件について新たな進展がありました。星持ちの探索者、如月劉全氏が率いる討伐隊が昨日、大規模ダンジョン『摩天』へと乗り込み、見事制圧に成功したとのことです。ダンジョン協会はこの事件を受け、外へと進出する今回の事象を『ダンジョン暴走』と名付け、更なる調査を進めていく方針とのことです』
「大変なことになってるわね~」
「だね」
夏休み真っただ中の今、私は美穂ちゃんと一緒に昼食を食べながら店で流れるニュースを見ていた。ニュースの内容は以前AZUSAさんが声を奪われた魔物が居た魔天についてである。
そうして事件のあらましを話し終えるとテレビは中継へと切り替わる。中継の映像ではマイクを持った女性キャスターと黒髪長髪の逞しい体つきをした壮年の男性、そしてその横には茶髪の男性の姿が映っていた。
『今回は実際に討伐隊を率いていた如月劉全さんと吉野風雅さんにお越しいただきました。よろしくお願いします』
『よろしく~』
『……』
吉野風雅と紹介された男性は笑顔で朗らかな様子で挨拶をする。対する如月劉全はにこりともせずにただ頭を軽く下げるのみであった。
『あっ、すみません。ちょっと事情があって現在キャプテンは喋れなくてですね。質問は全部私が代わりに答えるって形でお願いします』
キャプテンというのは如月さんの別称だ。周囲の人がずっと如月さんの事をキャプテンという名で呼んでいることから世間へと浸透した呼び名であった。
それにしても事情があって喋れない? もしかしてこの人も……。
『では早速吉野さんにお聞きしたいのですが、ダンジョン暴走時に現れた魔物達が強力だとお聞きしました。具体的にはどのくらいの強さだったのでしょうか』
『そうですね。ダンジョン外部に居た魔物達でもレベル6はくだらないくらい強かったと思いますよ。ダンジョン内部はキャプテンしか戦っていないから分かりませんけど、たぶんレベル8くらい?』
『レベル8ですか! それは……』
それからもキャスターによる質問が吉野さん達へと投げかけられていく。その様子をぼんやりと眺めながら頼んだパスタを口へ運んでいく。
「茉奈、デザート頼む?」
「うん」
美穂ちゃんに言われてテレビからメニューへと目を移す。メニューを眺めながらも耳はテレビの音を捉え続けていた。
「じゃあ私はティラミスにしよっかな。茉奈は?」
「私はプリンが良いな」
「オッケー。じゃあ頼んじゃうね?」
「お願い」
「すみませーん」
美穂ちゃんが店員さんを呼び、プリンとティラミスを頼んでくれる。その間も私は店に流れているテレビを眺める。
『……という事は事件の原因となった魔物はもう摩天には居ないという事ですか?』
『如月によればどうやらそのようです』
やっぱり如月さんもあの魔物と接触していたんだ。インタビューの内容ではAZUSAさんと同じく如月さんも声を奪われてしまい、その際に摩天の外へと飛び去っていくのを見たのだという。
でもおかしいな。あの魔物はAZUSAさんから既に声を奪ってたのに如月さんの声を奪ったのか。あの時、AZUSAさんの身体を奪う事に執着していた魔物が何故、身体を奪わずに声だけ奪いそのまま去っていったのか。
「茉奈って夏休みも忙しい?」
「うん、そうだね。あんまり休みはないかも」
これから先、収録はほとんど毎日あったり、収録が無くても打ち合わせがあったりと大忙しだ。収録や打ち合わせが無い日はちょっと配信もしたいし、あの魔物を追ってダンジョン探索もしたいしとそちらに使う時間も考えればほとんど休みはないと言える。
「うん、美味し。茉奈も食べる?」
「良いの? ありがと。ていうか折角なら半分こする?」
「そうしよそうしよ」
運ばれてきたプリンとティラミスを両方堪能する私と美穂ちゃん。両方大好物だけど、量的にはそんなに要らなくて二つも頼みたくない私からすればまさに嬉しい一言であった。
「ごちそうさま。本当にいいの?」
「うん。だって今まで大分お世話になっちゃってるし」
カウンターで私が二人分のお代を払い終えると美穂ちゃんがそう言ってくる。
美穂ちゃんが私の配信用の衣服を買ってくれたお礼に今日は私が全部奢ると言って美穂ちゃんを誘ったのだ。午前中に美穂ちゃんが行きたいところで既に買い物も終え、昼休憩としてこの店に入っていた。
「それでこの後どうする? 午前は私の用事に大分付き合ってもらっちゃったし、午後は茉奈の行きたいところに付き合うよ」
「本当? それじゃあ図書館に行きたいな。ちょっと調べたいことがあるんだ」
調べたいこととはもちろんあの魔物についてだ。あの魔物を実際に見たのは私と梓さん、そして如月さんの三人だけだ。
ダンジョン協会の人達が調べているだろうけどもしかしたら私達しか分からないことがあるのかもしれない。
ネットで調べても魔物の生態はまだまだ誤情報が多くてどれが正しいのかが分からない。でも本なら専門家が書いているわけだしまだ信憑性はあるだろう。
遊びだというのに図書館という選択肢はないかもしれないけど。
「オッケー。それじゃ行こっか」
私からの提案を快く受け入れてくれた美穂ちゃん。そうして私達は店を出て、町にある図書館へと足を向けるのであった。
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