第10話 相談

 配信を終え、あのショートカットアイテムを使ってダンジョンの入口へとひとっ飛びしてきた私は仮面やカメラ機材をカバンの中に入れて帰宅する。いつもよりも歌ったし体は動かしたしで疲労が半端ないわけだけど私にはまだやることが残ってるんだ。


「ただいまー」


「おかえりなさい。遅かったわね。晩御飯もうできてるわよ」


 家に帰ると既にお母さんが晩御飯を作ってくれていたようダイニングの方から香ってくる料理の匂いが私の腹の虫を刺激してくる。


「はーい」


 そう返事をして私は手を洗いに行く。すでにお父さんも帰ってきているようでシンクの方で鍋やらフライパンを洗っている姿が見える。


「おっ、今日は帰ってくるの遅かったな。友達と遊んでたのか?」


「いや、そう言う訳じゃないんだけど……ていうかそのことで今日お母さんとお父さんに話があるんだ。聞いてくれる?」





「なるほど、ダンジョン配信か。まあ良いんじゃないか?」


「そうね。別に個人情報さえ出さなかったら続ければいいと思うわよ」


 ダンジョン配信の事を話すと二人とも思いのほか好印象だったようで私の配信活動を肯定してくれる。まさかここまですんなりと行くとは思っていなかったから、驚いたな。


「それで収益化って奴があってその申請をするのに保護者の同意が必要なの。あと銀行口座も」


「なるほどね。まあ別に良いわよ」


「良いの? じゃあ今度の土曜日に口座開設行きたいんだけど」


「分かったわ」


 お母さんからの了承も貰ってようやく収益化の申請をすることができるようになる。そのことに私は今後の配信の質をどうやって上げようかとそれはもうニコニコで考えながら晩御飯を食べるのであった。ちなみにお母さんが作った晩御飯はいつも通り絶品だった。



 ♢



「うわ~、収益化の申請できるようになったしマイク買えるかもしれないな~」


 晩御飯を食べ終わり、風呂から上がって自分の部屋で髪の毛を乾かしながら携帯を眺める。今日の配信の反響が知りたくて配信の呟きの返信欄を見たかったのだ。いつの間にかフォロワー数が50万人を超えた自分のアカウントを開く。


『今日の配信もマジでやばかった』

『ボス部屋単独攻略とかすごすぎ』

『マナちゃーん。面白かったよー。お疲れさまー』

『次いつやるのかな』


 良かった。概ね皆の反応が良さげで私は一人にやつく。てか待って。一番上のこの人って。


『配信楽しかったです。思わず仕事も忘れて見入ってしまいました』


 AZUSAからリプ来てるんだけど。うわぁ、やっぱり本当だったんだ。まるで夢が現実まで延長しているかのような不思議な感覚。


『配信見ていただいてありがとうございました。AZUSAさんのアドバイスめちゃくちゃ助かりました!』


 さん付けはしているがいつまで経っても慣れない。私にとってはAZUSAという一つのシンボルのような物なのだ。神様に対して「さん」を付けることで親近感が湧いちゃうみたいな、そんな感覚になってしまう。


 それからAZUSAへの返信をした後にリプ欄の皆にも出来るだけ返事をしていく。一通り返信を終えたところで携帯から目を離し、一息をつく。


「次の配信いつにしようかな」


 明日は美穂ちゃんと遊ぶ約束をしているため出来ない。するとすれば明後日だけど。収益化は申請してからもかなり時間がかかるし今のところお金は入らないけど単純に趣味として配信が楽しい。


 一人でダンジョン攻略をしていたときは歌に入り込んで思いっきり体を動かせるのが楽しかったけど、ダンジョン配信はあの時のAZUSAみたいにステージでライブをやっているかのような感覚になれるから一人の時よりも楽しい。


「そうだ。明日は配信やらないってちゃんと言っておかないと」


 そうして再度携帯を手に取って呟く。


『明日は配信お休みします。すみません』


 そう打つと、どんどんいいねが付いていく。更にリプライもたくさん来て、しばらくの間その返信に追われるのであった。





「梓、話って?」


「今日、歌姫の配信を見ていたんだけどさ」


「知ってるわ。私も配信見てたからあなたがコメントを打っているのも見てたわよ」


 まさかのマネージャーの白石までもが配信を見ていたとは思わず驚くと同時に自身が仕事もせずにずっと配信を見ていたのがバレたのではないかと一瞬ヒヤッとする。


 しかし、すぐに取り戻して梓は話を続ける。今日、衝撃的な配信を目の当たりにして彼の心に火が付いたのだ。


「話って言うのはさ。歌姫に曲を提供したいなと思ったんだ。事務所に話を通しておいてくれないか?」


「まさかあなたにそこまで言わせるほどとはね。まあ今日の配信を見たならそう思うか」


 梓は今まで人に対して曲を提供したことがない。なぜなら自分以外の人の歌に自分以上の魅力を見出したことが無かったから。しかし、今回のマナに関しては聞き惚れるまでに気に入っていた。だが、配信で歌っていたのはあくまでAZUSA本人のために書いた歌だ。


 もしも梓がマナのために歌を書き上げ、その最高の状態で彼女が歌えばどれほど素晴らしいものになるのか、彼は知りたくなった。


「彼女は僕なんか超えるよ。そのくらい眩しいんだ」 

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