第50話 どっちが悪かって? 聞くヤツの方がヤバいだろ。
「小さな体で超怪力! 謎のマスクマン、ワカルティーの入場だーッ!」
「「わあああああああ」」
わかるてぃは、マスクマンとしてデビューさせることにした。体型だと男か女かもわからない。そこを利用することにしたのだ。
とりあえず俺はリングインが待たれており、対戦相手はどうやったって絶対に悪役になるわけですよ。ヒールね。
そこで俺の対戦相手が、マスクマン。いいでしょー。赤くてサンダーでライガーな感じだよ。
「なにが勇者だ、体がでかいだけのマヌケー!」
ワカルティー選手がわかりやすい挑発を行う。無論、俺がそう仕込んでいる。
それを見て、小さな人間たちが次々に声をあげる。
「なんだこいつはー!」
「生意気なんだよー!」
「こんなチビに負けるなー!」
その声に応えるように拳をあげると、ワーっと歓声があがる。
俺は今人気絶頂。そこにマスクマンというヒールが登場。オーディエンスは熱狂、会場のボルテージは最高潮。イエ―。
今はこれでいい。
「おい、ワカルティー。俺が体がでかいだけか、試してみるんだな」
「「わあああああああ」」
「がんばれー! ユウー!」
「ゆうしゃの力を見せてやれー!」
まあ、ほんとは俺は体がでかいだけですけどね!
なんの力もなく、単に男が女児より強いの当たり前ってだけの話!
「俺に勝てるわけ、ないだろー!!」
当たり前のことを叫ぶ俺。身長は40cmくらい低いし、体重は3倍くらいあるよ。
「「うおおおおお!」」
これから女児と闘う俺を応援する観客。イカれた世界だぜ。
「負けるかっ!」
男子に挑もうと気合を入れるわかるてぃ。健気だなあ。
「「ブ――――――――――――――!!」」
いくらヒール役のマスクマンとはいえ、ここまでブーイングされることもないだろと対戦相手の俺は思いますよ。いや思い通りなんですけども。
まあ、これからの闘いを見たら、わかるてぃのファンもできるだろう。
両者、リングイン。
おたがい肩を回したり、足をブラブラさせたりします。必要かどうかというより、その方がそれっぽいからです。
ここでアナウンスがスタート。
「本日のメインイベントは、我らが勇者のユウと、男か女かもわからない謎のマスクマン、ワカルティーのシングルマッチ。時間無制限、一本勝負」
魔法の使い方で聞いたことがないと思うが、観客に聞こえるように空から声が出るという魔法ね。マジカル館内放送。
「さて、本試合の実況はつるやが務めさせていただきます」
普段の実況は俺だが、俺の試合のときの実況はつるや。単純に他にできるやつがいないという消去法。
「解説はシンシャ王女にお願いしております」
普段は解説も俺だが、俺の試合のときはシンシャが行うことに。どうせ俺を贔屓するだろうが、相手はヒールなので問題はない。
「レフェリーはしまん」
しまんはレフェリーの服が似合う。理由はそれだけ。
わかるてぃが怪しい動作を見せるが、それを俺は見ないふり。
「おらー!」
無防備な俺の膝に、ワカルティーの前蹴り!
「ぐふう!」
ゴングが鳴る前の反則攻撃に、深刻なダメージを受けたふりをする俺。
当然のことだが、小学三年生の前蹴りなど、大した痛みではない。
一応、もともと体の大きさの割にはわかるてぃは怪力だし、さらに強化魔法によりパワーアップしている。よって俺を持ち上げたりはできるのだが、スピードとかテクニックがないからね。
「なんということでしょう、試合開始前なのにキックをしましたよ!」
「なんと卑怯で卑劣な。これは女子ですね」
当てるなよ。最悪な理由で当てるなよ。男か女かもわからない謎のマスクマンだって言ってんだろ。解説のシンシャだけは事前に打ち合わせしてないんだよね。しときゃよかったね。
「おらおらー!」
ガンガンに蹴られる俺。痛いか気持ちいいかでいうと、気持ちいいくらい。もっと体重を乗せて蹴らないとな。
「「ブ――――――――――――――!!」」
鳴り響くブーイング。ブーイングをする気持ちよさが、観客にもわかってきたんだと思う。ヒールのマスクマン、いいですね。
ここでしまんが、ゴングを要求。
カーン!
魔法によるゴングを鳴らしたような音。なんとなくこれが試合開始の合図だとは理解した観客。
「「うおおおおお!」」
ありがちな、本当にありがちな。マンネリといってもいいプロレスの始まり。
それが今、この異世界で。最も盛り上がる、最高の娯楽として存在していた。伝道師ってのはこんな気持ちだったのかね。
膝をついた状態のままの俺。
「おりゃあー!」
「ぐはあ!」
ワカルティーの先制攻撃。グーパンチ。これも反則。だが、やれと言ったのは俺。
「おっと、ワカルティー選手、顔を拳で殴りました」
「これだから女は。でも勇者様には通用しませんよ」
いや、さすがにグーで顔殴られたら痛えよ。あと女って言うなって。
「「BOOOOOOOO!!」」
観客からブーイング。予想通りの展開。なんか発音よくなってない?
「おりゃ! おりゃ!」
倒れ込んだ俺に、ガンガン蹴りを食らわすワカルティー。もちろん俺がね。
ピクリとも動かない俺。わざとね。
「弱いなあ、勇者ってやつはー!」
わかるてぃは本当に筋がいい。完璧なヒールです。パーペキだよパーペキ。
「ゆうしゃーっ!」
「がんばれ、勇者様ーっ!」
女児にやられている男に声援が。そんなこと異世界じゃないと、ありえないですねえ。がんばらなくても、俺は勝てるしな。
しかし、自分の好きなレスラーを応援する。それは王道のプロレスの楽しみ方なんですよ。
よし、そろそろ、反撃するかね。立ち上がり、胸を張る。
「おい、ワカルティー! ……ぜんぜん効かねえなあ」
普通は強がりというか、煽りで言うものですが。本当に効いてない。やっぱり体格的にしまんとか、ふんにゃのキックのほうが強いんですよ。
「なんだと、このやろー!」
わかるてぃは、俺の首を引っ掴んで左腕でホールドし、右足を抱えあげて、そのまま後ろにぶん投げる。フィッシャーマンズ・バスターと呼ばれるようなプロレス技だ。
これはね、痛いですよ。それなりに。
こういう投げ技をくらうとさ。やっぱね、プロレスをしてる感じ。楽しいです。
「おっと、ワカルティー選手、大技が出ましたねー。これは強力じゃないですか」
「まあ、勇者様には効きません」
解説できてねえー!
すごい技だって言わないと。盛り上がらんでしょうよ。ったく。
「やるじゃねえか、ワカルティー! 今のは効いたぜ」
しょうがないから自分で言います。大変だぜ。
次は俺が攻撃しよう。
「次はこっちの番だ!」
「こいよ、こいよー!」
俺は、わかるてぃを捕まえると、たかーく持ち上げて、ゆっくりと後ろに倒す。ブレーンバスターだ。あんまり痛くならないようにね。
それでもこういった技は派手だ。特に小さい人間たちにとって、ブレーンバスターなんてマンションを見上げるような感じですよ。拍手喝采。
倒れているわかるてぃに、シューティングスタープレス……をしたらヤバいので、手を叩いて挑発。
「おいおいおい、ブレーンバスターの一発で立てないのかー?」
バカにしているようだが、これは休憩時間を与えている。
観客は、普通に喜んでいる。
「じょーとーだよ、じょうとー!」
ワカルティーは呼吸を整えて立ち上がった。よしよし。
「そうこなくっちゃなあ! すごいじゃないか、謎のマスクマンワカルティー!」
わかるてぃは、決して弱くないのだと。俺の口から言うことで、観客にわからせる。今回は圧勝しちゃ駄目なんすよ。また闘うから。そのための謎のマスクマンの設定ね。
「うん! がんばる! へへっ」
違う違う。あんたヒールなんですよ。悪役。反応がいい子すぎるって。
俺に褒められて嬉しいなあ、じゃないのよ。かわいすぎか。女の子だってバレるだろ。
「おや、なんか可愛らしいポーズですけど」
「腹のたつ女ですね」
シンシャ王女はすげーわ。逆にすげーわ。なんでこれで悪態つけんだよ。
んー、俺はこれにどう対応したらいいんだよ。えっとー。
「そうだな、かなり頑張らないと、俺には勝てないからなあ!」
「がんばって、たおすぞー!」
逆転しとるなあ……。俺がヒールっぽくなっとるがな。
というか、こんなベビーフェイスのマスクマンいる? いねえよなあ?
「がんばれ、ワカルティー!」
「ワカルティー、負けるなー!」
ほらみろ、人間たちがワカルティーの応援を! そうなっちゃうでしょ!
いや、これはでも嬉しいぞ!
「勇者様、そんなちっこいブス女、やっつけちゃってー!」
嬉しくないねえ……。シンシャ王女のクソみたいな応援、全然嬉しくないねえ。
「「ゆ、う、しゃ! ゆ、う、しゃ!」」
「「ワカルティー!! ワカルティー!!」」
なんと、俺とワカルティー、どっちのファンも同じくらいに! すっげーいいじゃん! まさかの展開だ!
「いくぞー!」
「やるぞー!」
俺たちは、明るく激しく楽しいプロレスを繰り広げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます