第24話 幸せって、退屈かもね。
「飽きないね~」
「楽しい」
「あっはっはっは」
三人とも、水着で海遊びが気に入ったみたいですよ。
よかったね……でも俺はもう飽きたよ!
飽きるくらい遊んでも、寒くならないのがこの国は過ごしやすいね……。何ヶ月経ったのでしょうか。
この国は、まだ暦が発明されてないってよ。宗教がないからか曜日というのもないし。クリスマスもないし、誕生日もなし。
悪魔ももちろん、そんな概念なし。自分の年齢も知らないし。
穀物を作っていたら、季節の概念ありそうなもんだが、魔法の影響ですね。魔法を使えばあまり季節は関係なく育てられるみたいなんですよ。完全ハウス栽培感覚ってことですかね。
雪がふるほど寒い時期があれば、冬の概念がありそうだが、そういったこともなし。
そんなわけで、俺がこの世界にやってきて、何ヶ月なのかはわかりませんが……。無人島に行ったときのように、一日経ったら正の字を書くようにしてました。
――そんなわけで、ゆきうと一緒になって四人暮らしとなってから、150日ほど過ぎたのが今です。
その間に人間と俺たちのいろいろな交流によって、この国の生活水準はかなり向上した。
まず水不足の解消。小さな人間たちにはとても掘れない井戸だが、俺とあいらん達の魔法を駆使することで井戸をいくつか作った。
人間も悪魔も、地下を掘れば水があるということは知らなかったそうだ。小さな人間にとって地下水のありかは遠すぎるのだろう。
そして衛生面の改善。病気や虫歯が多いんだよ。
人間たちはなまじ魔法があるから表面上はキレイで、臭くもないんだが、微生物の存在を知らないからですかね。殺菌とか知らんのでしょう、石鹸とか歯磨きとか洗剤とかがなかった。いわゆるドラッグストアに売ってる系のものね。あいらんが作れる。これらを普及させました。
あとは瓦礫の除去とか……。小さな人間は単純にデカい石だの、倒木だのがどかせない。街や道にあったら諦めるという選択肢しかなかったようで。俺は単純に巨人として、重機の役割をすることが多かった。
ブルドーザーもロードローラーも。建築の場面ではクレーンとしても。俺は幼稚園の男の子が将来なりたい職業かよ。
そこまでするのは善意だけじゃなく、人間から得るものも大きいからだ。
下着や水着はもちろん、あいらんたちの着る服も作ってもらっている。タオルやシーツ、ふきんとかもね。
人間は蚕が虫だからなのか、布系は得意だね。どんだけ虫中心なんだよっていうくらいに。
逆に防虫についても人間は得意だ。ドラッグストア系だと防虫剤だけは人間から俺たちに提供してもらうものだ。
ゴキブリは見たことないが、蚊にハエ、蜂にムカデなどなど……害虫はたくさんいる。悪魔は魔法で倒せばいいという考えのようだが、俺は見るのもイヤだ。ましてや殺したムカデを掴んで捨てるなんてやりたくないね。
蚊は小さな人間よりでかい俺の方が魅力的なんだろう。めちゃくちゃ寄ってくるからな。防虫大事。
「そろそろご飯にするよ~」
ゆきうがランチタイムを宣言した。
料理はあいらんとゆきうが交代しながら作っている。あいらんは自己流、ゆきうは俺の知識で料理を作るようになった。
料理というか……食材や調味料についても、人間たちに貢献している。
そう、海に近寄ることもできない人間たちは塩も不足していた。塩といえば岩塩で、かなり貴重な存在だったのだ。
海水から塩を手に入れて、人間たちにも供給するようになった。
そして油だ。これはそもそも存在してなかった。牛や豚を食べないから動物性の脂を知らない、バターもないのだが植物油もなかった。
オリーブは見当たらなかったが、ごまがあったのでゴマ油が作成できた。
「今日はイカを炒めたよ~」
ランチはイカとにんにくの芽のごま油炒めですよ。ビールによく合うぜ。ファンタジーな世界だが、出てくる料理は町中華っぽいという状況だ。エビと青菜の塩炒めとか絶品ですよ。
ゆきうはすっかり、炒めもの、揚げ物が得意になった。
もともとゆきうは貝を食べるのが好きだったそうで、シーフード料理を作るのにハマっている。
シーフードも人間たちとの交易対象だ。池や沼から魚は食べていたようだが、イカやタコ、エビ、貝などは食べていなかった。
小さな人間にとっては、しじみや小エビでも十分な大きさだそうだ。大きいものは俺たちが食べて、小さなものは人間に。そして人間からはビールをもらうぜ。
召喚される前には飲んだことなかったが、ビールはうまいね。ちなみに酔っ払うということはない。小さな人間が飲んでも平気なようにアルコールが薄いのかもしれない。だから俺が飲んでもオッケーとしてくれ。
なお明らかに酒って感じのものも人間からもらっているが、それは調理用として使っている。アサリの酒蒸しとか。
しかし、イカとビールってサイコーだな。
天気もいいしな……。
「バカンスってこんな感じなのかもしれないけどなあ……」
ビーチサイドで水着姿の美少女たちと、シーフード食べてビールを飲む。いい休日というか、余生というか。
羨ましいと思う人も多いだろう。理想的な生活といっても良いだろう。
でもなあ……高校生が異世界に来てやることじゃないだろ……。
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