飛空艇の魔法商店~安心安全魔女の店。どんな場所でも配達します~

アジの干物@ディープニャン

プロローグ

「なあ、 小さな魔女の妖精さんリトル・ウィッチ・ブラウニーって知っているか?」


「あれだろ。ダンジョンに潜っていると偶に会うっていう、アイテムの移動販売所」


「あの話って本当なのか?」


「さあね。でも……本当だったら、いつか会うんじゃないか?」


 





 惑星イールナーグの空では魔素マナが舞い踊ります。

 大地のくびきから解き放たれた遥か高い上空を、魔素マナの風が吹き、雲を運んでいきます。


 照り付ける日の光と雲の作る影の間に、一隻の船が浮いていました。

 

 船の背中には赤レンガ造りの屋根をのせた、二階建ての一軒家が建っています。少し大きめの裏庭には両端に大きな木と池があり、間に挟まれて畑がありました。



 静かで透明な空気が周りを優しく包む朝でした。

 一階のお店のドアがベルを鳴らして開きました。

 ドアベルを鳴らして出て来たのは、ちっちゃな影でした。 

 影は長い金髪に、緑の目をした小柄な女の子です。黒いローブに編み上げブーツを身に着けています。

 彼女は看板を店仕舞いクローズから営業中オープンに変えると、空を見上げました。

 彼女の名前はエリシア・パルトナ―。

 このお店の店長代理です。


「今日は浮遊大陸ゴリランドが綺麗に見えます」


 空——この船より高く、雲よりも高く遠い空の上を飛ぶ大陸が、澄んだ空気の中で美しく輝いていました。

 大陸の下部に埋没した沢山の魔素マナの結晶が、きらきらと輝いていました。属性によって違う輝きは、お互いに影響して七つに色を変化させていきます。

 水の魔素マナが集まり水流となって大陸へ降り注ぎ、木の魔素マナは大木を生い茂らせ、風の魔素は突風を吹きすさび、木々を揺らしています。

 雄大な大陸は今日も変わらぬ姿を見せてくれます。


 エリシアは暫くその景色を楽しむと、店の中へ戻っていきました。

 軽快なベルの音と共にドアが閉まります。

 

 店の看板にはこう書かれていました。

 

 エリシア・パルトナ―の魔法専門店。

 

 ここはちっちゃな魔女が経営する魔法専門店。

 病の薬にポーションからアミュレット、果ては魔法道具まで、何でも取り揃えて、お客様をお待ちしております。


 ご依頼があれば、どんな場所でも配達します。

 ちょっとそこまで町の中、遠くの町でも承ります。

 ダンジョンの中だってへっちゃらです。


 どこにでも現れる彼女はいつの間にかこう呼ばれていました。


  小さな魔女の妖精さんリトル・ウィッチ・ブラウニーと。

  

 何かご入り用の際は、どうぞエリシア・パルトナ―の魔法専門店へどうぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る