第51話

「あんなのおかしいわ!」

 帰り道、秋子は怒りのあまりそういった。

「ああ、僕もあんな誕生日会ははじめてだね」

「はじめてどころじゃないわ。狂ってたわよ。雪ちゃんはあんな化粧だし、飯島くんは部屋でなにもいわずに本ばっかり読んで、ハッピーバースデーを弾く電子ピアノは壊れているわ、ケーキもパンと生クリームでつくったものやら……なにがおかしいって、雪ちゃんはそれをさも世界一の支配人のような顔をするんですもの」

「まあ、でも、僕はそれなりに楽しんだつもりだよ、ほら、秋ちゃんも笑ってたじゃないか」

「私は、笑わなきゃかえってあのひとたちがかえって喜ぶと思ったから笑ったの。……あの人たちは人形遊びしてるつもりなんだわ」

「人形遊び?」

「そうよ。観念だけで自分を動かして、人も一緒に巻き込んで楽しんでいるんだわ。タチが悪いわ」

「……君は雪子さんのことが好きだと思っていたけど」

「ええ、好きよ、いまでも。だからあんな振る舞いは我慢できないの」


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