第49話

 飯島が退学したことを秋子は夏樹づたいに聞いた。

「おどろかないのかい?」

「おどろいているわ」

「でもそういう顔じゃない」

「感覚が麻痺しているの、色々あったから」

「まあ、それはそうだ……あんまり一緒に入れなくてごめんよ」

「それはいいの。ゼミが順調なんでしょう」

「ああ、うん、それはそうなんだけど」

 夏樹はこんなにも冷淡な恋人の声をはじめて聴いた。顔もやつれ、かさつき、美しさが手のひらから零れかけている。しかし決して醜いわけではない。秋子は無地になりつつあった。魔法が解け、装飾の剥がれ、家具を取り除かれた王室のように。

「雪子さんに連絡は?」

「つかないわ、まったく」

「じゃあどこにいるかもわからないわけだ」

「ええ」

「元気出しなよ。前もいったけど、これからもずっと会えないわけじゃないさ」

「……わたし、昨日、夢を見たの」

「え?」

「夢でね、わたしは雪ちゃんの死を知らされるの。警察の方が来て、淡々と川岸で遺体が見つかりましたって。心中じゃないかって。あの飯島というのに毒されて、雪ちゃんは死んでしまうの」

「でも夢だろう?」

「ええ、夢ね、きっと」

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