ツンデレ幼馴染とクーデレ子猫、二大ヒロイン女子高生に迫る!

キマシラス

第1話「夢と百合は一文字違い」

    燃えるように赤く長い髪を靡かせ、強欲にもメロンパンと鯛焼きを同時に咥えた女子高生が、照りつける日差しの下、熱されたコンクリートの上をNO靴下のまま履いたローファーで走っている。


「うわあ、遅刻遅刻、もうこれで今月二十回目だよぉ!!」


   彼女の名前は春野 緋美華、花も恥じらう女子高生。容姿も可愛いらしくて温和な性格、かつコミュニケーション能力も高く友人も多い。


けれど浮いた話は全く無い、男子には興味ないので彼氏はもちろん、彼女の気配もなし、故に玉砕覚悟でワンチャンスを狙う輩が後を絶たない。


そんな緋美華にも、この日、遂に運命の赤い糸で結ばれた相手と出会うことになる。


「えっ?ちょっ!」


   曲がり角からウエーブがかった茶髪に、切れ長の鋭い目つきが印象的な、緋美華と同じ学校の制服を着た女子が姿を現したのだ。


「うあああああああああああっ、ごめんなさいい止まれないいいいっ!!」

「え?」


  そして案の定、勢いあまった緋美華と、少女はぶつかって、お互いにバランスを崩し...


(うそっ、わたしチューされ...いや、してる!?)

   

  完全に事故なのだが、緋美華が少女を押し倒して、唇を塞ぐ形になってしまった。


これが、天真爛漫な少女と素直になれない少女の、後に結ばれる二人の運命的な出あーーーー


   

「ーーーいや、ひよりは幼馴染じゃん!運命的な出会いしたの生まれてすぐだよっ」


   ガバッと起き上がるなり、ひとりツッコミを入れる緋美華の姿は、隣で彼女の寝顔を眺めていた、現実世界の風見 ひよりを困惑させた。


「な...なによ...」

「あ...おはよ、ひより、現実でもキスする?」


   緋美華は寝ぼけ眼を擦りながら、冗談交じりに軽い感じで、ひよりに尋ねてみる。


「しないわよ、寝ぼけてないで着替えなさい」

「ちぇー!」

「さっさと着替えなさいよね、休みだからって適当に過ごしたら駄目よ!」


   御節介な母親の如き台詞を吐き捨て、ひよりは緋美華の部屋から出ていった。  


「もうっ、ひよりったら、休日くらいもっと気を抜けば良いのに〜!てかなんでいちいち私が着替え始めると出てくのさー!!!」


   幼馴染に対する不満から頬を膨らませつつ、緋美華は、パジャマからお気に入りの甘々なデザインの私服に着替え始めた。




   一方、外に出た風見 ひよりは、春野宅の玄関前で塀にもたれ掛かり、腕を組んで緋美華が着替え終わるのを待機中。


一見クールな彼女の姿は、幾度となく通りがかった女性たちのハートな視線を集めたのだが、ひより本人は全く気付かなかった。何故ならば。


(あの娘ったら本当に馬鹿ね、あんたなんかとキスなんて... ... ...





したいに決まってるでしょうが、好きなんだから、愛してるんだからああああああああ!!!)


   脳から、心臓から、溢れ出す緋美華への、煩悩...愛...という名の激流を堰き止め、声となって口から外に漏れるのを防ぐのに必死だからである。


(でも私は、サブカル方面のオタクだし)


   今どき普通だ、親しみやすい。


(そしてオタクだから、コミュ力ないし)

 

   必要最低限の会話で済ませる姿勢は、寧ろクールでカッコいいと評判だ。


...あと、それは偏見。


(見た目だって、良いわけじゃない...)


  普通に顔立ちは整っているぞ、喧嘩を売っているのだろうか。




「お待たせっ、ひよりっ、じゃあ行こ!」


  ひよりが落ち込んでいる間に準備を済ませた緋美華は、元気よく家から飛び出してきた。


「あ...あんたは...」


(ふふん、ひよりってば、震えるくらいか、皆に勝負服を選んでもらって正解だったよ)

    

   インスタのフォロワーや友人たちに、私が持っている服で一番可愛いのはどれかな?と聞いてみた甲斐もあったというものだ。


手応えあり!と、緋美華は空前絶後のあざとかわいいドヤ顔。もう勝った気でいやがる。


「可愛いとか思ってないわよ?!せいぜい兎とか狸レベルね!!」

「めっちゃ褒められててテンションあがる〜!ありがと、ひより〜!!」

   

   実際のところ緋美華が大勝利。素直になれないものの根が優しい子な為に、ツンツンしてしまいながらも人を傷つける事を言えないのが、風見 ひよりという女の子である。


緋美華はそんな幼馴染が可愛くて、通りがかった休日出勤中のOLや、ジョギングおばさんの視線も気にせず、ギューッと強く抱きしめた。


「お花畑が見えるわ...」

「わっ、ひより!?」

「がくっ」

   

   嗅いだ瞬間に美しい花畑を連想してしまうほどの、良い匂いを纏って、想いを寄せる女子に抱き着かれ、興奮と歓びのあまり、ひよりは白目を剥いて気絶してしまった。


「どうしよう、ひよりが天国に行っちゃった」

   

   お花畑が見えるとか言われたので、緋美華は余計に勘違いしてしまった。


「勝手に殺すんじゃないわよバカ!...確かに天国は味わったけど」

「お帰り、閻魔様いた?」

「地獄に落とされるような事はしてないわよ(あれ?私は素直になれないで嘘ばかりだから、死んだら地獄で舌抜かれたりするのかしら?!)」


    ひよりは段々と不安になってきたが、杞憂だ。死んだら産まれる前の暗闇へ還るのみで、地獄も天国もない。


「ハッ、こんな事してる場合じゃないわ、電車乗るの、間に合わなくなるじゃない」

「ギリギリ間に合ったとしても、駆け込み乗車はマナー違反だからね、よし、いくぞう!」


    幼馴染ふたりは、何処を目指して、手を繋いで走り出したのか。


それは最近オープンしたばかりの遊園地、学校休みを利用した緋美華とひよりの、本日の予定は、遊園地デートなのだ!

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