罵倒少女とぼっちな僕
ヴォルフガング
第1話 彼女はそういうお年頃
「おはよう。今日はいつもより少し早い登校なのね、クソ天桐君? 好き」
「……お、おはよう、福地原さん。いつも無口なキミから話し掛けてくるのは珍しいね……?」
「何を言っているの、あなたは。今の私の言葉を聞いたのならもっと他に言うことがあるでしょう、クソ天桐君? 好き」
「……え、ええと、色々とツッコミたいのは山々なんだけど、ツッコミどころが多すぎてどこからツッコめばいいのやら……」
「あなた、テストの点数は良いクセにそんなこともわからないの、クソ天桐君? 好き」
「……そ、それじゃあツッコませてもらうけれど、どうして僕のことをクソ天桐って呼ぶの?」
「クソにクソと言って何が悪いのかしら、クソ天桐君? 好き」
「……うん、なぜかはわからないけれど、福地原さんが僕のことをクソだと思っているのはわかったよ。じゃあその、『好き』って言うのは……?」
「言葉通りの意味よ。私はあなたを好いている。いくらあなたが鈍感で彼女がいなくて友達もいない寂しい男子でもそれくらいはわかるでしょう、クソ天桐君? 好き」
「……どうして僕に彼女や友達がいないってわかるのさ?」
「それはもう、この高校に入学してから3ヶ月――いえ、あなたと隣の席になってから1ヵ月という間、あなたのことを執拗なまでにねっとりじっくり観察し続けたからよ、クソ天桐君? 好き」
「それってストーカー――」
「何を言っているの? 好きな人をストーキングするのは恋愛の基本中の基本じゃない。机に向かってお勉強ばかりしているから、この程度の常識が抜け落ちてしまうのよ、クソ天桐君? 好き」
「取り敢えず、その語尾に『クソ天桐君? 好き』と言うのは止めてみようか」
「彼女も友達もいない勉強一筋のあなたを好いてくれる女の子なんて、私くらいなものよ? この地球上でただ1つだけの好意を捨て去ってもいいというの、クソ天桐君? 好き」
「確かに僕を好きになってくれる女の子はいないかもしれないけれど、僕の名前は宗司って言うんだ。苗字がダメならせめて名前で呼んで欲しい」
「クソウジと呼べだなんて、あなたにはソッチ系の素質があるようね、クソ天桐君? 好き」
「言ってない、一言も言ってない」
「ちなみに、知らないと思うから一応言っておくけれど、私の名前は『かすり』というのよ。覚えておきなさい、クソウジ」
「呼び方がひどくなってるし、好きも無くなったね」
「心配無用よ。クソにたかるウジ虫のように、あなたも成長してハエの如く空へと羽ばたけるようになるわ、クソウジ」
「福地原さんは僕のことが好きなの? 嫌いなの? それともただ罵倒したいだけなの?」
「好きでもあり嫌いでもあり罵倒もしたい――そんなお年頃よ、クソウジ」
「うん、もうわかった。クソ天桐でいいから、クソウジだけはやめて」
「意外と根性が無いのね。そんなことでこの先も私と付き合っていけると思っているの、クソ天桐君? 好き」
「出来れば、福地原さんとの関係はこれっきりで終わりにしたいんだけど」
「私としても大変遺憾なのだけれど、席がお隣という以上、これからも関係は続いていくのよ、クソ天桐君? 好き」
「僕の事が好きなのに関係が続いていくのは遺憾とか、どういうひねくれ方をしているのさ」
「そんなの、照れ隠しに決まっているじゃない。ああもう、変な事を言わせないで頂戴。ほら、私の頬はもう恥ずかしくて真っ赤よ、クソ天桐君? 好き」
「今更赤くなるの? これだけ好き好き言っておいて? やっぱり僕の事、からかってるだけなんでしょ?」
「わかるわ、あなたは彼女も友達もいない人間不信だもの。人の好意を素直に受け取れない――そんなお年頃なのね、クソ天桐君? 好き」
「僕は別に人間不信というわけではなくて、単に人付き合いが苦手なだけだよ」
「それは奇遇ね。私もコミュ障で人間不信で人間嫌いなのよ、クソ天桐君? 好き」
「どこら辺が奇遇なの? 僕はコミュ障でも人間不信でも人間嫌いでもないよ」
「そんなことより私、さっきから語尾に『クソ天桐君? 好き』って言い続けるの疲れちゃったから、止めてしまってもいいかしら?」
「それ、さっき僕が止めてってお願いしたヤツだからね?」
「やっぱり私たち気が合うのね」
「やっぱりって何? 今の今まで、気が合う要素が1つでもあったっけ?」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。こういうのは最初が肝心なのだから」
「もう、ちょっと何を言っているのかわからない……」
「それは由々しき問題ね。私の叔母が日本語学校の先生をやっているから、あとで紹介してあげましょう」
「いい、要らない。むしろ、キミがその学校へ転校することを強く希望するよ」
「……あなた、私のこと嫌いなの?」
「むしろここまでの会話を経て、僕がキミに好意を持つ理由に1つでも心当たりがあるのなら教えて欲しいくらいだよ」
「自分で言うのも何だけれど、好きな人にストレートに好きと言える女の子、そうはいないと思うのよ」
「そこにだけは絶望的に同意するよ」
「それなら、あなたは私の事が好きということでいいじゃない」
「『それなら』っていう言葉の使い方を正しく覚えておいた方がいいよ、その日本語学校に勤めている叔母さんに」
「あなた、まさか年上好き? いくら私でも年齢だけは叔母には勝てないわ」
「僕はその人に会った事はないけれど、年齢以外でもキミの叔母さんの方が勝っている部分は多いと思うよ」
「やっぱりあなたは年上好きだったのね。そういうことなら、これから私も年上っぽい威厳で接しないといけないわね」
「いい。もうこれ以上、余計なことしなくていいから」
「おうおうオメーよぉ、ちょっち金貸してくんねぇ? アタイ、今ものごっそい金欠でさぁ。クソ天桐、好き」
「それ年上でも何でもないよね。好意を示しているようだけれど、ただのカツアゲだよね。それとお金は貸さないよ」
「人がせっかく頑張ってキャラ変をしてみたというのに、労いの言葉1つも無いなんて心無い人ね」
「心無いのはそっちでしょ、カツアゲ犯」
「その心無いカツアゲ犯から1つ、忠告してあげるわ」
「……一応、聞いておくよ」
「もうホームルームが始まっていて、担任の先生が私たちを睨んでいるわ」
「そういう常識はあるんだね……いや、ご忠告どうも」
〇--------------------【あとがき】--------------------〇
さて、あとがきです。
この小説は全5話から成る短編であり、「第2回G'sこえけん」の応募作品でもあります。
【こえけん】の募集テーマを拝読した時、「クセつよ」という単語にのみ反応して出来たキャラクターが、この『福地原かすり』という女の子です。
もはや募集テーマのヒロイン像から大きく振り切ってしまった感のある彼女ですが、筆者自身が楽しんで書いているので、これはこれで良しとしておきます。
各話、毎日お昼の12時に定期更新されていきますので「続きを読んでみたいなぁ」と思ってしまわれた方、最後までお付き合い頂けたら幸いです。
by ヴォルフガング
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