第38話 誘拐
「ううぅ……」レミリアが起き上がると周りは岩肌に囲まれた洞窟の中だった。しかし洞窟の中だというのに発光性の微生物が天井や壁にへばりついていて洞窟の中はピンクや白に光っていて明るかった。
そしてすぐに手首と足首が鉄の枷で縛られていることがわかった。
「気がついたか」
「ハッ!」
声の方を向くと男と銀色の甲冑が立っていた。
「貴様はスタンダール!」
「おやおや、覚えていてくれたの? あの学校で先生として赴任したとき君に授業をしていないんだけどな」
「貴様……学校に潜入して生徒を殺した大罪人め! 魔法使いの汚点が!」
「私は悪魔になるつもりなんかなかったんだ。けどあのハルト君のせいで今では魔法協会から追われる立場になってしまった」
「ハルトごときにやられた貴様が私に敵うと思うなよ! 今すぐこの枷を外せ!」
「ふふふっ随分強気だな」
「その隣の鎧姿の奴は誰だ?」
「誰? おやハルトくんから聞かなかったか? これが私の魔法具だよ」
「魔法具だと!?」
「そう君に攻撃して気を失わせてここへ連れてきたのも魔法具である彼がやってくれたのさ」
「彼だと?」
銀色の甲冑は話を聞いて腕を組んで頷いている。中には誰もいないというのに人間のように振る舞っていた。
「なっなんだこいつ? 魔法具のくせに人間みたいに動きやがって」
「この鎧は戦乱の時代にクラウゼル・オッペンハイマー・シュトラウスが身につけていた物、私はその子孫だ。だから今でもクラウゼルが私の
「くっ! 悪魔に堕ちた貴様がなんのようだ? 私はレミリア・カーバインだ、カーバイン家の者だ! こんなことをしてただで済むと思うなよ 私の父や兄が黙っていないぞ」
「私は君には用はないさ。ただ君を拉致するように依頼されただけだからな」
「何だと?」
するとレミリアとスタンダールの間の地面が盛り上がったと思ったらモグラのように地中から人間が出てきた。それは巨漢のデブだった。巨漢デブは笑みを浮かべながらよだれを垂らしながらレミリアを見下ろしている。
「やっと来たな」とスタンダールが言った。
「なっなんだそいつは」そうレミリアは驚いた。
「約束通りさらってきたぜ、さあ金を払ってもらおう」
「バカが……コイツではないわ……」と巨漢デブはこもった声で話した。奇妙なのはそれだけではない。口を全く動かさずに喋っていたのだった。
「えぇ?!」
「まあいい」
すると巨漢デブは口を大きく開けるとその真っ暗な口の中から片目が見えた。
「なっ何だそいつは!? こいつ人間じゃないぞ!」とレミリアが怯えた。
「なに言ってんだ?」そう背後にいたスタンダールが言った。
今度は巨漢デブの口から右腕が出てきた。
「なっ!」とスタンダールも驚いた。
「私に近づくな!!」レミリアは後ずさりしながらそう叫んだ。
その口から出た右腕がレミリアの顔を掴んだ。
「『
レミリアは気を失って地面に横になった。
「貴様、人間じゃなかったのか?! 確か寄生人とかいう魔物だろう」
「わかったら消えろ。オマエはもう用済みだ……」
「おいふざけるな。人間じゃないのかなにか知らないが金は払ってもらうぞ」
「金……金……フフフ」
「嫌なら無理矢理にでも金はいただいていく」
「誰か……来る」
「ああ? とぼけるな」
巨漢デブは頭から地面に潜っていった。
「おいこら! 待ててめえ!」
足音が洞窟の入口の方から響いてきたと思ったらハルトがやってきた。
「スタンダール!? まさか貴様が」
「おやおやハルトくん、君まで現れるとは」
「スタンダールなんの用だ?! 僕に復讐するためか?」
「復讐? 確かに君とは戦ったが君とは何もないじゃないか、そんなものには興味がない。だから言っただろう金のためだって」
「何だと!?」
「それにしてもよくここがわかったね」
「レミリアが教えてくれた。このレミリアの魔法具がレミリアに近づくと震えるんだ」
「ふーん」
「貴様の目的は知らない。だが言っておくがお前は一度僕に負けている。そう簡単にリベンジできると思うなよ」ハルトはスタンダールを指さした「もう貴様の弱点もわかっている。貴様はその鎧を動かすことにかなりの負担がかかる。だから貴様本体が弱点だ。僕も腕を上げた。その鎧だって常人にとっては脅威だが、
「へえ」とスタンダールは余裕な口調である。
ハルトは
ハルトは鎧の後ろにいるスタンダールに向けて駆けていった、常人よりはるかに早い速度で。だが鎧の右ストレートがハルトの顔面にめり込んだ。
そして左アッパーでハルトの身体は後ろに吹き飛んだ。
(なっ……以前とは甲冑の速さもパワーも別物だ?!)
ハルトは口から流れ出た血を手で拭った。
「ハルトくん、考え方を変えたんだ。操ると思うから駄目なんだ。私はこのクラウゼルの鎧に
「あっああああああ!!!!」と威勢よく叫んでハルトは立ち上がった「舐めるな! 絶対に倒す! もう許さねえ」
ハルトは全身に
「なに!?」
「他人の魔法具は使えるわけないだろう。バカめ」
甲冑から反撃を食らってハルトは完全にダウンした。
「ふふふっ私は自分のことをドライな人間だと思っていた。復讐とか報復なんて無関係な人間だと思っていた。金さえ稼げればそれでいいと考えていた。だけど今ここで君がボコボコになってるのを見てすこぶる気分がいい。このまま殺しちゃおうかなー」
唐突に鎧が腕を上げてなにかを弾いた。カーンという甲高い音が響いてナイフが地面に落ちたのだった。
「誰だ!?」
「……殺ったと思ったのに」と洞窟の入口にログが立っていた。
「ログ……来るのが遅えよ」
「悪かったな。だがお前が戦ったからやつの
「お仲間が増えたというわけか」
「悪魔が、よくもうちの
「ふん、お前たちなんか全然こわかないけどな。だけどお前たちなんか相手にしても意味がないんでね。ここは退散させてもらう」スタンダールは鎧の背中に乗っておぶってもらった。そしてものすごい速度で洞窟の奥に向かって走っていった。
「おいログ逃げるぞ!」
「待て、レミリアは無事だ。生きている。あいつを追うのは目的ではない」
「レミリア、レミリア」とハルトは呼びかけた。
レミリアは静かに目を開けた。
「ハルト……助けに来てくれたの?」
「ああ、大丈夫か? 怪我はないか?」
「ハルト、あんたのほうがよっぽど酷い顔してるよ」
「うるさい」
レミリアは枷を外して立ち上がった。
「さあ行こう」とログが言った。
そこハルトは地面の異変に気がついた。
「うん? おいレミリアここなんか土が盛り上がってるけどなにかあったか?」
レミリアは振り返った。
「いいや、なんでもない」
村を追放された僕は魔法学校に入学してS級美少女たちと学園生活を送る。 タガネ安 @Magic-Ways
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