第35話 化け物

「…………フレイド……フレイド……フレイド」暗い空間でやさしい女の声が聞こえる。


「なんだ」


「フレイド、怪我をしているのね」


「怪我?」


「私が治してあげる。けど気をつけて私ができることは――」


「どういうことだ? お前はいったい 誰 な ん だ」



 目が覚めるとハルトはテントの中にいた。隣にはログが寝ている。

 

「夢か……」


 先刻は戦いだったどうやら死にかけたが生きていたようだ。野営地に帰ってくることができたらしい。右腕がなくなってこれからどうしようかとハルトは漠然と考えたが、実はなにも考えてなかった。頭がぼうっとしていたが半身を起こすと不思議なことに食われたはずの右腕があることに気がついた。


「な、なんだこれは!!」


 確かに自分は魔物に右腕を食いちぎられたはずだ。なんで右腕があるのかわからない。あの魔物との戦い、あれは夢だったのだろうか。しかし夢なら服の右の袖だけが切り取られているのが説明がつかない。

「どうなってる。右腕が再生している? トカゲみたいに? いや確かに食いちぎられたはずだ……」

「何だうるせえぞ」と隣で寝ていたログが起きて言ってきた。

「ログ、右腕が! 右腕が生えているんだ! なくなったはずなのに」

「……頭おかしいのか?」

「いや右腕が無くなったはずなのに……」

「うるさい黙れ」

「そうだ、あの2人は!?」

 そこでハルトはテントから出てきた。中等生の二人はハルトの方を向いた。ふたりとも目を丸くしてハルトを眺めた。

「おっお前その腕はどうした? なんで戻っている?」とセレナがおろおろしていった。

「その反応というとやっぱり夢じゃなかったんだ」

「あ……ああ、あのあと僕が君の腕を止血して君を抱えてここまで運んだんだ、なんで腕が……」そうノアがおずおずと答えた。

「さあ、僕にもわからないんだ。気がついたら治ってた」

「はあ? 化け物か?」とセレナが言った。

「なんともないの?」そうノアがたずねた。

「ええ、普通に動きますし」

「なんなんだ君は?」

「人間じゃねえよこいつ」とセレナがいじった。

「とにかく夜起こったことは三人の秘密にしましょう。バレたらケイトさんがうるさいから」

 セレナとノアは顔を見合わせて呆然とした。


「また何騒いでんだ?」と今度はログがテントから出てきた。

「ログ君ちょうど良かった。これ火傷の薬だ、使ってくれ」とノアがログに向かって小瓶を投げた。

「ログ、悪かったな」と気まずそうにセレナがいった。

「ふん、あんな炎魔法大したことない」とログが鼻で答える。

 そしてハルトとログは腹を鳴らした。

「ああ、そうだお前たち腹減ってるだろう?」とセレナが聞いた。

「「まあ」」

「ケイトにバレないように寮から隠し持って来たんだ」

 セレナはカバンからパンやチーズやベーコンや卵を取り出した。

「ずるいぞ、お前たち、持ち込み禁止じゃないのか?」

「ふん、ログ、事前に準備するのも魔法使いの心得なんだよ。わかる? バレなきゃいいの」

 そうしてベーコンを焼いて4人で食べているとマリーとレミリアもその匂いで起きてきて6人で仲良く食べながら夜を過ごしたのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 翌朝になって6人を集めてケイトが説教した。

「昨日はあってならないことが起きた。魔法使い同士で争うなんてとんでもないことだ。本来、三日間の行程だが途中で帰ることとする」

「ちょっとまってください。そんな争いだなんてただの自習ですって」とセレナが口ごたえした。

「なんだと?」

「なあログ」とセレナがログの肩に手を回した。

「あっ? ああ」と生返事をする。

「だが怪我してるじゃないか?」

「火傷は大したことないよな?」

「まあ」

「お前たちいきなり仲良くなったな、まあいいそれなら課外授業を続ける。でも今度喧嘩してみろ。その時点で中止するからな。それにしてもハルト、その袖はどうした? なんで千切れている?」

「これは……」

「まったくだらしないな。魔法使いたるもの身だしなみも重要なのだ。では出発するぞ」とケイトがいった。

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