第16話 悪魔の支払い『リボ払い』

「おい! ログ! 起きないか!」と昼寝していたログはケイトに叩き起こされた。

 午後になってまた森の広場に集められた。


「おいおいレミリアの奴とマリーも来てないじゃないか」とログが悪態を吐いた。

「あの二人は初歩の魔法ができた、だから今回の実習は免除だ。ログは引き続き運動魔法で、ハルトはまずの魔力ソウルの使い方から教えなければいけないな」

「ケイトさん、待ってください。僕も魔法具を手に入れました。これで魔法ができます」とリボ払いで購入した杖を構えた。

「おいハルト、なんだそのダサい杖は?」そうログが言ってきた。

「だ、ダサくないだろう。ははっセンスが悪いなーログは。ケイトさん、僕も魔法具を買ってきました。ケイトさん、それでどうやって魔法を発動するのですか?」

「はあ?」

「そういえばこう唱えてましたね『レイ・ポジチオーネ!』」と勢いよく言って杖を振ったが石は微動だにしない。

「あのね。ただの道具を持っても魔法具とは言わないの」とケイトが呆れながら言った。

「え?」

「それにしてもその杖、もしかしてあの購買の杖を買ったのではないのか?」そうケイトが気がつく。

「そうです。よく知ってますね」

(確かあの杖、購買でずっと売れ残ってて……値段が確か8万マネーぐらいしたような……)と考えた、「ハルトよくそんなお金持ってたな」

「お金がないから、リボ払いで買ったんですよ」

「なんだと!」


(確かあの購買の利率は年間14%だったな。それを8万マネーで月々の返済が1000マネーで計算すると……)

「ハルト、私の魔法計算によると返済には19年以上かかる計算だ」

「魔法計算ってなんだよ」そうログが突っ込んだ。

「はあ」

「はあじゃない! 貴様、自分が何をしたのかわかっているのか!? いいか! 8万マネーの買い物が、総額で23万マネーにもなる。利息にすると15万マネーは余分に払うことになるんだ!」

「えっ! そんなに」

「そうだ! お前はリボ払いを甘く見ている。あんなものは悪だ! 人間を堕落させて地獄の返済生活に陥れる罠なんだ!」

「……でももう買っちゃいましたし」

「……」

「けど8万マネーで魔法具が手に入って、魔法が使えるようなら安いもんですよ。ハハッ……」

「ハルト、もしかして杖があれば魔法が発動できると思っているのか?」

「えっ違うのですか?」

 ケイトはハルトの胸ぐらを掴んだ。

「この、大馬鹿者! だから購買のババアに騙されるんだ!」ケイトは怒りすぎて口調が悪くなっていた。

「いや。ちょ」

「コゥラ! ハルト! お前は馬鹿なのか」と詰め寄った。

「えぇ……」

「お前は想像力が無いのか、計画性もなくものを買って借金地獄になりたいのか? そんなことで! 魔法が極められると思っているのか?」



「ケイト、初等生には優しく指導してあげないとな」と不意に見知らぬ声が聞こえた。 

 みんな声の方を向くとそこには金髪で碧眼の少年が立っていた。

「リーク君!」そうケイトは驚いていた。

「相変わらずだな」

「リーク君、体調は大丈夫なの?」と打って変わってケイトが優しい口調で言う。

「ああ、だいぶ良くなったよ」

 ハルトもログもその人物のことなんて誰か知らなかったから冷ややかにその光景を眺めていた。


「紹介しよう。この人はリーク・リクドフィン、私と同じ上等生で、生徒会のメンバーだ」

「よろしく、新入生」


「あれ俺リーク・リクドフィンって知ってるぞ」とログが呟いた。

「へ、知り合いか?」

「いや、そんなんじゃなくて、なんだったっけなー」


「ログも名前ぐらい知っているかもな」そうケイトが嬉々として答える「リーク君は初等生のときも中等生のときも優等生として学校に表彰された生徒なんだ」

 ハルトにはリーク・リクドフィンはただの少年に思えた。容姿端麗で、物静かな少年だった。しかし腰に黄金の短剣を携えていたのだった。


「でもリーク君、本当に体調は大丈夫なの?」とまたケイトが気遣う。

「ああ、悪くはない。君の担当は問題児ばかりなんだって? その問題児たちの指導を君一人に任せて悪いな。本来上等生全員で取り組むべき問題なのにな。申し訳ない」

「いや、そんなのいいのよ」


「おいハルト、なんかケイトの奴やさしくねえか?」と小声で言った。

「ああ」

 ハルトにはケイトの態度が奇妙に感じられた。いつも自分たち初等生にはつっけんどんな厳しい態度で接しているリークに対しては甲斐甲斐しく、母性あふれる態度だった。ルトはこれはもしかしてと思った。というか意外とわかりやすい人間だと呆れていた。


「あの、もしリーク君、さえよければ一緒に指導してくれないかしら? わたし1人で2人教えるの大変で」

「ああ、いいよ」

 それでハルトはケイトがログをリークがみることとなった。


「よし、再開するぞ」と気を取り直してケイトが宣言する。

「ねえ、ケイトさん。どうして僕は魔法が使えないのです。ちゃんと魔法具だって買ってきたのですよ」

「ハルト、君にはまず魔法具と魔力ソウルの説明からおこなう必要があるな。いいか、魔法具というのは別に特殊なアイテムのことではない」

「??」

「これがだ」とホウキを見せてきた。「けどハルトの魔法具ではない。私はこの魔法具を媒体にしてでないと魔法を発動ができない。だけどハルトがこのホウキを使っても魔法は発動しない」

「はあ……どういうことです?」

「これはただのホウキだ。だけど自分自身にとっては特別なアイテムなのだ。簡単にいえば魔法具自体はなんでもいいのだ。いいか、杖でも指輪でも短剣でも、どのような形でも構わない。だけど自分の魔法具でなければ魔法は使えない。故に適当なものを持って呪文を唱えても魔法は発動しない」

「はあ、魔法具を入手するんです?」

「それはその道具でずっと魔法の修練することだ。自分の成長、魔力ソウルが目覚めるのと共に道具も魔力ソウルを帯びる。だから魔法の特訓で何度も何度も同じ『モノ』を持って行い。次第にそれが魔法具となるのだ。だから魔法具という固有の『モノ』というわけじゃない。己にとって特別な『モノ』が魔法具なのだ」

「へえ、つまり自分の魔法具がなければ発動しないわけですね」

「簡単にいえば魔法具というのは魔法を使うための媒体だ。逆言えばどんな偉大な魔法使いも自分の魔法具を手にしていなければ魔法は発動できないのだ」


「ならその魔法具を失くしたらどうするのです? 見つからなければ一生魔法を使えないじゃないですか?」

「魔法使いが魔法具を失くすなんてことありえない」

「どうしてです?」

「ハルトにはまだ難しいかもしれないが、感じるのだ。魔法具がどこにあるというのを魔法使い本人にはわかるのだ」

「それなら例えば魔法具が杖だったりしたら使っているうちに折れたりしたらどうするのです? 10年同じ魔法具を使っても壊れたら魔法が発動できなくなるのでしょう?」

「基本的に魔法具が壊れることはない」

「壊れない? どうして」

「魔法具は自分の魔法の媒体になっている。だから徐々に自分の魔力ソウルを帯びて頑丈になっていく。つまりだ。年月をかけて自分の魔力ソウルが魔法具に宿るのだ。だから壊れない。自分自身の体が自分の魔法で壊れないのと同じだ。魔法使いにとって魔法具とは特別なのだ」

「なるほど魔法具ね。けど僕はこんな平凡な杖でいいんですか?」

「まあ別に悪いことじゃないさ。一般的には杖なんかが多いね、伝統的な魔法具だし、ある地方だと十字架とかも多かったりする。親が魔法使いの場合、子供が幼少のころに買い与えることが多いからここの生徒も杖が魔法具の人が多い。そうだ。さっき他人の魔法具では魔法が発動できないと言ったが例外的がある。伝統的な魔法使いの一族は先祖から代々魔法具を受け継いでいくことがある。同じ血族が使った魔法具なら最初から魔法が発動しやすかったりするのだ」

「それはどうしてです?」

「さあ、詳しいことはわからないが自分と先祖の魔力ソウルが似ているからという説もある。例えば同じ寮のレミリア・カーバインは剣を持っていただろう。カーバイン家の剣は有名だからな。カーバインの一族は当主と認められたら魔法具を次の世代に継承するようだ。名家っていうのはそうやって魔法が堪能になっていくのだな」

「まあ魔法具のことはわかりましたがそれでつまりならどうやって魔法が発動できるようになるのですか?」

「それは日々の鍛錬しかない。そもそもハルトはまだ魔力ソウルが覚醒してない。だからこれから徐々に魔力ソウルを呼び起こしていくしかないだろう」

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