第14話 ゴブキン、無双しすぎてしまう
吾輩がシュウをオーディションの第一合格者に選んだのは、当然リッチの作戦だった。
少し前、リッチは吾輩にこう囁いた。
『ごにょごにょごにょ(訳:ルール違反をした応募者にペナルティを与えつつ、できるだけ早く合格者を決めて戦いに移行するために、シュウをホンマバキと戦わせて、そのまま合格者にするのがいいじゃろ)』
まあ、そういうわけで、吾輩はシュウを無理やり合格させたのだった。
吾輩はこのとき初めて人間に申し訳ないという気持ちを抱いた。
ほんの僅かだったが。
そしてその後、吾輩とリッチは着々とオーディションを進めていった。オラついたやつは何人かいたものの、攻撃した時点でペナルティを受けると理解したのか、イキるだけで終わっていた。ちなみにもう一人の審査員であるシュウは調子が悪いといってどこかへ行ってしまった。戦いに間に合えばいいのだが。
そして、いよいよオーディションが終わり、即座に戦いが始まった。
一人目。料理系ダンチューバーのアマギゴエ。
「あなたも食材になってもらいまああああああああす」
「遅い」
「うぎゃああああああああああああああああああああ」
二人目。ファッション系ダンチューバーの渋谷パルパル。
「ねえ、ゴブキン! その服ダサいからウチがパルコで一緒に選んであげるよ!」
「真面目にやれ」
「きゃあああああああああああああああああああああ」
三人目。ソロ探索系ダンチューバーのロロロロ・ソロ。
「儂は常に一人でダンジョンに潜ってきた。なぜ一人で潜るのか。そんなに知りたいのか。しかたないな、教えてやろう。そうだな時は十年前……いや、十二年、いや十三年前に遡る。あのとき儂はしがない会社員で——」
「話が長い」
「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
はっきり言ってしまおう。
結果は最悪だった。
吾輩とリッチは集まった参加者の中からできるだけ強いダンチューバーを選んだはずだった。シュウにあらかじめ強そうな奴が集まるように頼んでおいたのだから、そこらへんは問題なかったはずだ。
だが、見通しが甘かった。
ダンチューバーは——この世界の冒険者は吾輩が思っていたよりも弱いようである。さすがに勇者クラスの冒険者がくるとは期待していなかったが、もう少し骨のある奴が一人くらいはいてもおかしくないと思っていた。
シュウはその知名度を利用して確かに強いとされるダンチューバーを集めてくれたのだろう。だがシュウにとっての強いと吾輩にとっての強いがイコールであるとは限らない。強いとはあくまで主観的な印象に過ぎないのだから。
最初は有名ダンチューバーがあっさりと倒される様子を見て、視聴者も盛り上がってくれていたが、同じような展開が何回も続けば、さすがに飽きがくるようだった。
:なあ、なんかずっと同じじゃね?
:人類弱過ぎwwwwwwもっとマシなやついねえのかよwwwwww
:それ言うんならお前が行ってこいよ
:これじゃあ無双っていうかいじめだよなもはや
:出オチすぎてなんかつまんないかも……
:まあ、所詮ゴブリンだってことだな。イロモノ枠は一瞬で飽きられるから
まずい、と思う。
視聴者を盛り上げて、ラスト・ダンジョンの知名度を上げるための『ゴブリンキング・ダウン』だったはずなのに、吾輩が強すぎるせいでその計画もおじゃんになりそうになっていた。
何か手を打たなければ……。
しかし吾輩に打開策を考えるようなことができるとは思えない。
そしてそんなことを考えていたら、いつの間にかオーディションの合格者を全員倒してしまっていた。ちなみにシュウはどこかに逃げていた。
しまった……。
手を抜いて戦えばいいと思われるかもしれないが、しかしこれでも最大限手を抜いているのだ。それでも殴ってきたやつが勝手に自滅していくのだから、どうしようもない。
イベントが失敗に終わったと思い、吾輩は肩を落とす。
すると、その肩を何者かに叩かれた。
吾輩は首を振る。
そこにいたのはリッチだった。
「お主、まだ終わったわけではないぞ」
「なんだって?」
リッチは何を言っているのだろう。
吾輩は言った。
「終わったわけではないとはどういうことだ? もう合格者は全員吾輩が倒してしまったんだ。『ゴブリンキング・ダウン』はこれで終了だろう」
「合格者がいないのなら増やせばいいじゃろ」
「増やせばいいって、でもいくら不合格者から合格者を選んだとしても、実力は合格者たちよりも下なんだぞ? 同じことだと思うが」
「誰も不合格者から選べなどは言っとらん。視野を広くもて」
「視野?」
何の話をしているのだろうか。
どこを探したって、吾輩よりも強い人間なんて……ん。
人間?
「まさか」
「そうじゃ」
リッチは言った。
「ここにいるじゃろ。お主よりも強い存在——我が」
にやりとリッチは笑う。
それはつまり、これから吾輩とリッチが戦うことを意味していた。
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