第41話 安西さんと全員リレー
昼休憩が終わり、自分の席に戻ると、あれだけ午前中に安西さんを取り囲んでいた人達は、次の競技の応援のためにテントの前に出ていた。
午前の部は棒倒しと400メートルリレー、綱引きに応援ダンスで、出場する残りの騎馬戦とリレーは最後の種目。
とりあえずそれまで暇なので、競技を見に行こうとしたら、教室から戻ってきた
「眠り姫、すごかったな」
「そうだね。あんなに走れるなんて知らなかった。あ、でも、立橋もすごかったぞ?」
「ありがとう。……でもちょっとあれだよな、言葉にはしにくいけど、あれ」
安西さんの陰に隠れてしまっているが、立橋君も最終走者で一位だった。クラスメイトの女子が歓声を上げていたのは言うまでもない。それでもあれだけの差を縮めて一位になった安西さんに注目が集まっているのがまだ悔しいのだろう、椅子に座った瞬間に溜息を吐いていた。
「まぁ、安西さんはいつも寝てるから」
「だよなぁ。あれは反則だって! 眠り姫じゃなかったのかっていうさ」
「
そんな安西さんの話をしていたら、
そう思ったけれど、天江の表情は真剣なものだった。
「ごめん立橋、なんかあるみたいだわ」
「俺のことなんか気にせず行ってこいって。そういや天江さん、斉藤のこと芳樹って呼ぶよな」
「ああ、天江は幼馴染なんだよ。じゃあ、俺行くから」
そう言って、立橋君と別れ、俺は天江と下駄箱まで来ていた。
「それで、どうしたんだ?」
「あのさ、芳樹。私の代わりにリレー出てくれない?」
「は?」
いきなりのこと過ぎてなにか分からず、思わず変な声が漏れてしまう。リレー?
「リレーに出てくれってどういうことだ?」
「さっき部活の先輩が代わりに走ってくれないかって、頼んできたんだよね。午前の競技で足を挫いたみたいでさ」
「それで俺に代走をってか、嫌だぞ?」
安西さんや天江、クラスメイトのためなら引き受けていた。ただ、いくらお節介といわれている俺でも、知らないひとのために、リレーを2回も走りたいとは思えない。走るのは苦手なんだ。
「それがね、聞いてよ。その先輩、安西さんの前に走るんだってさ」
「…………」
「安西さんにかっこいいところ見せたくない?」
全員リレーは他のリレー種目とは違い、学年で分かれていない。リレーの順番も3年生、2年生、1年生と決められている。その2年の先輩が怪我をした。
今年の体育祭は安西さんとは何もやっていない。気になるこの前で格好つけたいと思うのは当然だ。こんな機会はない。でも走るのだけは――。
「あ~あ、いいんだ。分かったよ、昔から走るのだけは下手だもんね、芳樹は。あ~あ。今日、もっと人気になっちゃった安西さん、告白されて、誰かと付き合っちゃうな~」
「やるよ、やってやるよ!」
安西さんにかっこいいところを見せてやる!
* * *
そして迎えた全員リレー。3年生からバトンを受け取った俺は、前へ一歩足をだそうとした。その瞬間だった。
「あ、これだめだ。倒れる」
目の前に地面が広がっていた。
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