第38話 安西さんと常連さん
「いらっしゃいませ! あ、
「
「はい、今日と明日はバイトなんですよ。あ、いつものでいいですか?」
「うん、頼むよ」
体育祭まで一週間を切る中、俺は今日もバイトに励んでいた。月曜日で開店直後ということもあり、お客さんは少なめ。常連の吉岡さんを席に案内して、俺は町さんに注文を伝えに行き、ビールを注いだ。
「よし、7対3」
成功率は低めだが、最近は泡の量も調節できるようになった。
安西さんが教えてくれたおかげだな。
「お待たせしました」
「ありがとう」
ビールを吉岡さんが座っている席に持っていくと、吉岡さんは届いてすぐビールをごくごくと飲み始めた。
働き始めたら、こんな風になるんだろうか。酔っぱらって安西さんに介抱されている吉岡さんを見ているため、とたんに怖くなってくる。居酒屋で働いてるとは思えない考えな気がするけど、今からでも注意しないと。安西さんに介抱されかねない。
「そういえば、さっきから杏里ちゃんの姿が見えないけど、どこにいるんだい?」
「安西さんは学校でリレーの練習をしているんですよ。今度、学校で体育祭があって」
最近は昼休みにも、委員長に連れられている姿をよく目にしている。残り1週間とはいえ、委員長も頑張り過ぎじゃないだろうか。
「そうか、そんな時期か。それにしても杏里ちゃんがリレーとはね」
「何かあったんですか?」
前にも休憩中に安西さんが、中学生のときに何かをしていたと言っていた気がする。その時は聞きそびれていたけど、そのことだろうか。
「あれ? 斉藤くんは知らないのか。そうか、それは見たら驚くと思うよ。それはそれは――」
それは? と続きを聞こうと思ったところで、町さんが料理を運んできた。
「吉岡さん、あんまり斉藤くんにちょっかいかけないでくださいね? はい、これ、いつものです」
「お、これだよこれ、いつもありがとうね」
「いえいえ、こちらこそですよ。さ、斉藤くんも戻って注文とってきてね?」
そう告げられ、周りを見ると、お客さんがたくさん座っていた。B卓さんが、手を挙げながら店員を呼んでいる。
「はい、今から向かいます!」
『あ、じゃあ、こっちも注文いい?』
「はい、すぐに伺います!」
『こっちも!』
注文を受けたタイミングで、次々と他の席からも注文を呼ぶ声が聞こえてきた。
「はい、少々お待ちください!」
安西さん、早く帰ってきて。
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