第88話 船橋港周辺の歴史
スポット巡りの朝が来た。朝6時に起きて綾は朝食を作り、裕子はまだ寝ていた。朝食は食パンにカレーペーストを塗って、スライスチーズを乗せてトースターで焼いた後にレタス、目玉焼きを乗せたパンだけで全部食えるセットらしい。これに牛乳とコーンスープを注いで裕子を起こして二人で食べた。
「とりあえず、身近な場所から行ってみる?どうせ誰もいないだろうけど。」
綾はネットでいわゆるスポットというのをあらかた目星を付けて順番に回る予定を決めていたので、帰りに寄れるけど明るいうちに下見できればいいかなと船橋港を目指すことにした。船橋港周辺の変遷は実に目まぐるしくて、現在も船橋港は漁港と商業港が存在しているのだが、ここを埋め立て始めたところからすべてが始まる。戦前は今の国道14号線から南は全部海だったのだが、戦後間もない頃に埋め立てが始まり、埋め立てで漁業補償で一揉めしつつもいろいろ抱えながらも埋め立ては進んで広大な敷地が生まれ競馬場が出来て、その競馬場のコース内にオートレース場を作ってしまうというエクストリームなことを始めたり、飛行場の横にサーキットを作って、その手前に船橋ヘルスセンターがあるというのが1965年の話だ。都心からかなり近い場所に競馬場、オートレース場、サーキット、飛行場、海水浴場、遊園地がセットであるなんていうのはまさに遊びの街と言ってもいいだろう。その中で、最初に消えたのは飛行場とサーキットで、サーキットの跡地に競馬場のコース内側にあったオートレース場が移転して、遊園地=船橋ヘルスセンターの3施設体制が1970年代まで続き、船橋ヘルスセンターの跡地には当時日本最大のショッピングセンター、ららぽーと船橋が建って、さらにサーキット跡地に世界最大屋内スキー場としてザウスが建設され、それも10年ほどで消えて時は飛んで2016年にはオートレース場も無くなり、今はららぽーとと競馬場とイケアとなったわけだ。
そんな背景の埋め立て地区の突端にあるのが船橋港、正確には千葉港船橋東埠頭で、整備が終わり運用されたのは1970年後半に入ってからだ。そんな場所の一角を周回できる道路がある、これも正確には1区画の矩形を1周するだけなのだが1周=4コーナーと見立てて当時の走り屋たちが夜な夜な集まっては膝スリやドリフトを披露する場だったらしい。昭和63年当時だとこのあたりに存在する施設はららぽーととオートレース場のみでオートレース場の北西側に船橋ヘルスセンターが営業していた頃、ゴールデンビーチと呼ばれた海水浴場(正確には仕切りがされていて海に隣接したプールだった)の跡地を埋め立ててドライブインシアターにしていたくらいで周辺には倉庫くらいしかなかったのでこうした違法行為をするには格好の場所となっていたようだ。
「へー、ららぽーとは思ったほど変わってないのね!」
綾はららぽーとにはたまに行っていたので令和と昭和のららぽーとの違いは判るけど、建物は変わっても建ってる場所は同じなので印象としては今ほど周辺の道路や駐車場や構築物が洗練されてはいないが同じっぽい。という意味である。道路自体大きく付け替えはされてないがところによって無いところに建物が建っていて、有るはずの場所に建物が無い。といった印象くらいだろう。特にこの区域はスクラップアンドビルドのペースが早いのでちょっと時間が経つと建物が入れ替わっていたり増えていたりという感じである。
ららぽーとを左に見ながら湾岸道路をくぐると左コーナーがあり次の信号を右に曲がればいわゆる船橋港のスポットでこのあたりもほぼそんな感じの差でしかなく道路の付け替えはされてない。
「わー!着いた!なんか道路にブラックマークや、バイクの部品が散乱してるー!」
着いたのはまだまだ朝なのでそういった人達はほとんどいないが、夜はガチでギャラリーも集まるから練習という名目でちらちらと走ってる人がいた。まだ朝早い、休日なので物流も動いてない感じだからかもしれないが。とりあえず、ぐる珍してる人はほぼいないのでそのまま突端まで行くと釣りをしている人がかなりいる。ここは釣りスポットとしてもそこそこ有名なので釣り人と走り屋の攻防とかあったのだろうか?
とりあえず、埠頭にオートバイを止めて歩いてみることにした。歩いてみると思いっきり関係者以外立ち入り禁止の看板が立ってるにも関わらず結構な人が釣りしていたり散歩していたり。接岸している船員もいるようだ。夏の朝早い時間に海風で暑さもまだまだの時間なのでこうした散歩をするにはいい時間。
歩いてみるとおそらくギャラリーコーナーらしき場所があったり、コーナーごとにパーツの破片が散乱していたりと週末の夜にはいかないほうがいいんだろうな。という痕跡が沢山あった。
「こう見るとやっぱり夜に来なくてよかったねー。」
あからさまに治安が悪そうなのでスポット巡りはやはりピーク時間に行くにはちょっと勇気が要りそうだ。
「綾ちゃん、次はどこに行くの?」
裕子は見るよりも走りたさそうにしているがこの時間になると釣り客や散歩している人が多いので意味もなくぐるぐる同じところを回っても面白くはないという顔をして次の目的地に行きたがってそうにしていたので、さっさと次の目的地に向かうことにした。
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