第52話 レシート
月曜の朝。綾はこの週末を昭和37年の沼津で過ごした。夢の中では昭和37年のみんなが出てきてにこやかに笑っていた。霧のように彼らは消えて行き、はっと目が覚めた時は令和5年であった。
「そっかぁ、もう会えない人たちなんだなぁ。そう考えるとタイムリープって切ないな。」
赤く目を少し腫らしていた綾はノスタルジーの世界に思いを馳せながらも日常に戻る。
朝の講義を終えて、夕方から神保町の出版社でアルバイトをする。どことなくぼんやりした月曜日だった。明日はCB72をバイク屋「ようこの」に返却に行かなければならない。そうなると、おそらく昭和37年に戻ることはきっと出来ないだろう。まさか、陽子さんに事の話をさらけ出しても信じてもらえないだろうし。
などと、心配と寂しさを抱えたまま月曜は終わった。
火曜日。CB72を返却しにバイク屋「ようこの」に向かう。CB72とはわずか数日の付き合いだったが、荒れた道路、長い距離をともにするとどこか相棒感が湧いてくる。レンタルバイクなども今は多くレンタルバイクで数日間のツーリングに行ったらきっとこんな気持ちになるのだろうな。とか考えながらバイク屋「ようこの」に到着してしまった。
「綾ちゃん、おかえりなさーい。」
陽子さんは明るい笑顔で迎えてくれた。
「CB72はどうだった?うふふ。」
「いいバイクでした!思い出も結構残ってちょっと寂しいかな?なんて思っちゃったりもします。」
綾はとりあえず気持ちだけは正直に陽子に伝えた。
「VTZ250だけど、エンジンの掛かりが悪かったのはガソリンの質だっただけよ?どこであんな古いガソリン入れたの?」
「!!!?」
綾は寂しい思い出が吹き飛んでVTZ250とともにした昭和63年の出来事を思い出した。そうだ、帰りにガスを入れたんだった。おもむろに財布に入っていたレシートを陽子に見せてしまった。おそらくそのガソリンスタンドはとっくに廃業しているだろうし、何より日付が昭和のままのレシートだ。
「綾ちゃん、このレシートって昭和63年じゃないの?あれれー?」
陽子は意地悪そうな顔をしながらも特に訝しそうな顔をしてはいなかった。そうだ、あの顔はCB72を貸し出してくれた時の顔だ。
「綾ちゃんにお願いがあるんだけど、これって変と思わないでね。VTZ250に乗って新潟にとある人に会ってきてほしいの」
綾はレシートに言及があると思ったら全然別の反応をされた上に敢えてVTZ250で新潟に行ってほしいと言われて困惑していた。勿論、綾も陽子に隠していることもあるし素っ頓狂なレシートを渡してしまったので成すがままに了承してしまった。ちなみに新潟までの往復の交通費諸々として5万円も渡されてしまった。
陽子はにこにこしながら、新潟にあるとあるゲームセンターの店長に会ってこれを渡してほしい。と伝えてきた。相手の名前は「玉澤裕子」。とりあえず裕子さんに会いに行って預かった手紙を渡す。あとは自由と言うことらしい。勿論自由とはVTZ250で行く以外は行程も宿も自由と言うことだ。
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