温い部屋の中で

鷹簸

前書き

「厚生労働省が初めて小中高生の自殺者が500人に上ったと発表しました。

 背景には電子機器の普及が____」

憂鬱な朝のニュースをスマホで見ながら俺は電車に揺られる。

もう、そんなに増えたのか。

昨年400人を超したと大騒ぎしていたのに。

スマホを切ったのに車内のミニテレビで同じニュースが流れる。

ふと、一人声を荒げた。

「政府の人間は何をやってるんだ!?

 何が異次元の少子化対策だ!?口だけは達者だな!!」

多分50代後半だろうか。

認知症なのかそれとも本気でキレているのか、わからない。

「次は、縫ヶ丘ぬいがおか―――。縫ヶ丘―――。

 お出口は、右側です」

アナウンス後、突如電車は急ブレーキをした。

「お客様には大変ご迷惑をおかけしますが、

 当駅、及び本車両にて人身事故が発生した為、

 復旧までしばらくお待ちください」

元々静かだった車内はさらに静かになった。

車内広告の音声がこんなにもよく聞こえるのは初めてかもしれない。

しばらくして、先頭車両のドアが開いた。

ギリギリホームに入っていたようだ。

一つのドアから数百人が出ていく。

通勤ラッシュよりも酷い押し具合に負けず、俺は進む。

ホームに出て、真っ先に視線が向いたのは不自然すぎるブルーシートだ。

風で一瞬、ひらりと舞い、見えた中身は顔のない高校生男子の遺体だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

温い部屋の中で 鷹簸 @tacahishi-13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る