僕と拠り所
@toarukikorinojituwakaidan
第1話
もう十何年も前の話になる。
今の自分が、幼少期の頃の思い出せる記憶。
いじめられていたことだ。
いじめられてずっと一人だった。
もちろん…楽しい記憶や甘酸っぱい記憶、思い出せるものはあるが、皆影では、僕の悪口を言っていたのを聞いたことがある。
ことの発端は小学校小学年のある日のこと、
周りのみんなが、人と関わることに慣れてきた時にそれは起こる。
女子も男子もある程度自分達のグループって言うのがあって、休み時間なんかはそのグループで信頼度を強めていく…
なんて言ったら良いのかわからないが…
そんな感じのことしますよね?
私の場合はというと、全員と仲良くしたいなと思ってて、
みんなの意見に同調していました。
ある日、2つのグループが対立し、両方の
見方をしていた私は、はぶられた。
そのグループ同士の仲が元に戻っても、周りの私に対しての仲は戻らなかった…
あいつは嘘つきだと言われて、相手にされないなんてこともあり、あだ名はオオカミ少年だった。
私の話を聞いてくれるのは家族と塾の先生と唯一の親友くらいだった。
その親友とはある日の放課後、に出会った。
一人母の迎えを待ち、
横取りされて遊ばれ終わった後のブランコを漕いでいた。
ぐんぐんスピードを上げて
「あーしたてんきになーれ(明日天気になれ)」
と靴を飛ばすと、左足の靴が2つ地面に転がった。
びっくりして隣を見ると、そこにはサラサラと髪を靡かせて、ブランコを立ちながら漕いでいる、同じ年くらいの男の子がいた。
「はははっ楽しいねー!」
その男の子は笑顔で私の方を見て言った。
そんな顔で人から話しかけられるのはいつぶりだろうか…
あ…ああ、といつからいたであろうか見かけたたこともない人に私は少々返答に困る。
すると彼は口角を上げたまま私を見つめて言った。
「君が晴れというなら晴れるさ、雨なら雨になる。僕たちの靴は上を向いているよ!さぁ、どうだい?」
と聞かれ、少し黙って考えたのち、
「曇りだよ…毎日…」
と答えた。
すると彼はブランコの勢いを靴で無理やり止め動きを静止した。
「あんまり、考えすぎだよ。友達なんてみんな、いつかはいなくなるんだ。僕は別だけどね………そうだ!僕と君は友達になれると思う。君の名前教えてよ!」
おーいと遠くから手を振る姿が見える。
最近家にきた知らない父親だ。
走って、こちらへ向かってくるが、偽善ぶりやがって、どうせいつかはいなくなるんだ…
「パパー!遅いよー!お仕事大変だったの?」
本当は母親がよかったのにと思い、知らない男に抱きしめられると、暖かさも何も感じない。
僕は振り返り、
「木こりだよ!僕の名前は木こり!明日もまた、遊ぼうね!」
と、久しぶりの笑顔をちゃんとできているだろうかと気にしながら振り返った。
おら、行くぞと手を引っ張られる。
「誰と話してんだ、きもちわりぃ」
世の中の道理がわからなくなる。
この男にとって、僕は必要ないのだろうか。
母親も家族も、僕なんていらないのかと…
「そっか!木こりか!僕はミチオ!ミチオだよ!宜しくね!」
彼は隣に立って僕の腕を握りしめていた。
彼の手は他の誰よりも暖かかった。
父親と名乗る男の車に僕とミチオは乗った。
僕の大好きなカードが床に散乱しており、それを集めてミチオに教えようとすると、急ブレーキで体が前に吹っ飛ぶ、
「おい、さっきからうるせーんだよ。黙ってろ。こっちは疲れんだよ。」
僕とミチオは顔を合わせてくすくすと笑った。
自宅に着くと、離れの自室に走る。するとドアの目の前でミチオが言った。
「あのさ…誰かの家にお邪魔するのは初めてで…上がっても良いかな?」
もちろんと、階段をドタドタと降りてミチオの手を掴み部屋に入る。
ミチオの目はとても輝いていた。
「木こりくんの部屋かっこいいね!僕もここに住みたいな!」
と言ったので、
来たい時、好きなだけ来て!一緒に遊ぼうよ!
と言うと、ミチオは嬉しそうな顔をしてにっこりと微笑んだ。
冷蔵庫から、ラップに包まれた食べ物を出して、レンジで温める。
「一緒に食べよう!」
うんとミチオがうなづくと、2人でオレンジ色に光る箱の中で、くるくる回る食べ物を
まだかまだかと見つめる。
「これ、何やってるの?」
「レンジだよ!食べ物をあったかくしてるんだ!ミチオはレンジ知らないの?」
と聞くと、頷いた彼の靡く髪を見つめているとチーンと音がする。
出来たよ!と言ってラップを外すと良い匂いが部屋全体を包む。
「カレーだ!」
と僕が声を上げると、ミチオは首を傾げた。
「これ、おいしーの?いっつもこんなの食べてるの?」
そうだよと相槌を打ち、昨日自分で洗ったスプーンをミチオに渡す。
どうやらスプーンの使い方がわかっていないようだった。
ミチオの後ろに周り、手をとって使い方を教える。
湯気立つカレーに2人でフーッと息を吹きかけながら、ミチオの口へ入れると、目を輝かせながら、次々と口へと運んでいく。
「木こり、こんな美味しいの僕初めて食べたよ!カレーっていうのかい?美味しいなー!」
喜んでいるその顔が僕にはとても新鮮に映った。その顔を見ながら、食べ方の練習をしていると、ご飯粒とカレールーを口元にびっしりつけてミチオが口を開く
「でもね!僕のそばにいてくれる木こりの方があったかいや!」
そう言って、こちらを見つめる彼の笑顔に僕は久しぶりに嬉しいという気持ちを思い出した。
その時、
ガチャっとドアが開き、母親が入ってきた。
「いつもごめんね!何か食べたいものある?そうだ、ママと宿題やろうか!」
「ママおかえり!今日は学校で友達ができたんだ!ミチオっていうんだ!ママ遅いから、一緒にカレー食べてたんだけど、これから
一緒にお風呂に入って、カードゲームするんだ!」
「木こり?あんた何言ってんの?」
その時の記憶は鮮明に覚えている。
母は買い物袋をその場に落とし、突然泣き崩れた。
ごめんね。ごめんね。と繰り返してわんなん泣いていた。
僕とミチオはそれをただ見つめることしかできなかった。
「ママ…なんで泣いてるの。僕何か悪いことしたかな?そうだミチオ早く家に帰らなきゃ」
そういうと、ミチオはそっと僕の手を握り
シーと口元で人差し指を立て、僕の耳に口元を寄せる。
「木こり、僕はどうやら君のパパや、ママには見えていないようだ!これからは僕のことは2人の内緒にしよう!僕の帰ることろはここさ!僕も1人なんだ!君と同じだよ!だから、ずっと一緒にいられるよ!」
「そうだね!ミチオ!ずっと一緒だよ!」
と返答すると、
もう一度人差し指を口元に立てるミチオの後ろに、
「あんたは誰と話してるのよ」
と泣き崩れる母がいた。
母親を2人で宥めて、ご飯は食べたし今日は1人でお風呂に入るよ!と
誤魔化しながら離れから母屋へ向かう
一緒に行こうと母の手を取りミチオと2人で支えると、案外軽いんだなと、感じた。
玄関から廊下を渡り台所に着いた時、
そこには酒に溺れひどくふらついてる奴がいた。
「おーい、てめぇ、クソガキこらぁ、なんでそんなに、気持ち悪りぃんだよ」
と、小さなグラスを頭に投げつれられ、出血する。
「やめて…」
いつものように母親は叫んだが
大丈夫、痛みには慣れている。
この男が来てからはいつもこうだ、僕の世界をぐちゃぐちゃにする悪い奴。
こんな奴、いなくなれば良いのに…
「木こり、大丈夫?血が出てるじゃないか。すぐに止めないと…」
大丈夫だよと言いかけた時、目の前には拳があった。
痛いのは嫌だと、いつもは目を閉じてからくる痛みが、今日は………
全くなかった。目をゆっくり開けると
拳が、止まっている。
いや…ミチオがあいつの手を掴んでいる。
「木こり!目を閉じててよ!」
そういうと、ミチオはガブリとそいつの腕に噛み付いた。
「僕の祠に手を出すな。」
その言葉が聞こえて、目を開けると、
そいつの腕からはどんどん血が流れていく。
台所は辺り一面血で染まっていた。
あなたと駆け寄る母と、もがき苦しむ偽物の父を見ながら、その場に、倒れ込んだ。
「ミチオ?…何してるの?」
「大丈夫だよ。僕は君の味方だから。」
そこで記憶は途絶えた。
目を覚ますと、朝になっていてミチオの顔があった。
「おはよう」
「おはよう」
どうやら家には僕とミチオ以外いないようだ。
明らかにいつもとは違う1日を迎えていた。
その日、初めて、人からおはようと言われた気がした。
朝の身支度を終わらせて家を出ると、いつのまに準備を終わらせていたのか、僕と全く同じ格好をしているミチオがいる。
「多分、僕のことは、木こりしか見えていないから、あんまり大声で僕と話しちゃダメだよ!」
と言われたその時、とても不思議な感覚になった。
昨日の出来事や、ミチオの存在、これは夢なのかなと…
「ミチオ…」
なーにと、笑顔で髪を靡かせながら、こちらを見つめるその美しく輝く目を見た私は、言うことをやめた。
ミチオは通学路でも、授業中でも、いつでも、そばにいてくれた。
学校の皆んなからは余計に相手にされなくなった。
先生もあいつはおかしいんだと、言って、笑いものにしていた。
ある日の朝、ミチオと一緒に戦隊物のビデオを見ながら朝食をとっていると、母親が言った。
「木こり…入院してるお父さんね…腕、もう治らないみたいなの、今日は学校休んでお見舞いに行こうか?」
「別に…どっちでも良い」
と返答すると、じゃあ、と言って、僕の手を取る。
母の車にミチオと2人で乗り込み、久しぶりに学校に行かなくても良いんだなと、幸せな気持ちになった。
ミチオと、座席の上で覚えたてのカードゲームをしていると、ミチオは頭の回転が速いのか、すぐにカードの効果を理解し、僕では到底叶わない人になった。
でも時にわざと負けてくれたり、このタイミングではこのカードを使った方がいいよとアドバイスをもらって、僕がいつのまにか、教わる立場になってしまっていたが、それでもミチオは優しく、いつもの笑顔で僕を後ろから抱きしめてくれた。
車が止まり、大きな病院が目に入る。
僕は母に手を伸ばすと、微笑みながら手を握り返してくれた。
でも、僕がミチオに手を伸ばすと、母の目の色が変わり、腕を強く引っ張られる。
最近母が僕をまるでこの世のものではないという目で見てくることが多くなった。
薬の匂いがする、白で染まった廊下を歩くと、ドアの向こうに、あいつがいる。
あなた…と母が近寄ると、
「木こりには、悪いことをしたな…償いだよ…これが…日に日にあいつを見ると、イライラしてさ、本当に申し訳ない…」
と真っ白なシーツを片腕で手繰り寄せる男がいた。
グルルと唸りながら、綺麗な髪が逆立ち、怒りを抑えきれないという、ミチオの姿が見える。
「もうやめようよ…僕も疲れた」
病室の空気が凍りつく。
「木こり…ごめっ、ギャーーーーーーー」
突然男が暴れ出した。
「てめーのせいで腕なくなっただろうが、なんなんだよガキが!」
コツコツと踵の音を立ててミチオは男に向かって歩き始める。
「木こりがね、困っているんだよ、なのに、お前は、なーんにも知らない。自分、自分、自分、自分、自分、自分…だから人間は嫌いなんだよ。」
ギリギリとミチオの形相が変わっていく、異常に長い八重歯に吊り上がった目、それと、お尻からはふさふさと金色のしっぽのようなものが生えている。
悲鳴を上げながら、逃げ場のないベッドの上でジタバタするあいつの目は、確実にミチオを捉えている。
「僕は木こりを守ると決めたんだ、二度と手を出さないでくれ。」
ギャーギャー叫び泣いているあいつとそれを支える母と何事かと走ってきた看護師を背に
僕が駆け寄ると、ミチオは振り返って、いつもの笑顔で言った。
「僕がいれば大丈夫だから」
その言葉に癒されたまま、帰路に着いた。
あの父親はもう、うちに帰ってくることはなかった。
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