エピローグ
それからはこれまたいろいろと忙しかった。
アイゼンたちへの島の説明や移住の手続き、アイゼンのやらかしたことの収拾の付け方などやることは山済みだった。
最終的にアイゼンの後始末のほとんどはあの三馬鹿に任せることになってしまった。アイゼンの手下のガキたちはアイゼンがやろうとしていたことは全く知らずに利用されていただけだったので、組織はそのままで三馬鹿を新しい頭として取りまとめてもらうことになった。
戦った廃工場は、鉄の巨人がボロボロにしてしまったのでそのまま放置。中の鉄はどうにか有効活用してもらえるように三馬鹿には頼んであるがどうなるかはわからない。だけど、もともとこの街にあったものだ。きっとなにか使い道が見つかるだろう。
そんなこんなでバタバタしていて三日ほどこの街で足止めを喰らうことになってしまった。だが、それも昨日までの話で、今日は午前中にやり残したことを終わらせて、午後にはこの街を離れる。
もう時刻は正午になろうとしている。太陽は頭上に輝き、真下に広がる寂れた街を照らしていた。
「「「兄貴ィ!」」」
甲板で船の出発を待っていると、下から複数人の俺を呼ぶ声が聞こえた。
呼ばれるままに声のした方向へ向かってみると、船の下で三馬鹿がこちらを見上げていた。その周りには手下になったガキどもが囲っている。
「兄貴、お元気で!」
「こっちに来たらすぐ連絡してください!すぐに駆け付けますんで」
「お元気で!」
かわるがわる色々叫んでいるが、ほとんど絶叫に近いので半分くらいは聞き取れない。それでもなんとなく別れの挨拶なんだろうなとはわかったが、あの叫びに声を出して答えるのは恥ずかしかったので見える位置で上から手を振って応える。
ちょうどいいのか悪いのか、手を振り始めると同時に出発の汽笛の音が周囲一帯に響き渡った。
錨が上がって、ゆっくりと動きだす船、港には見送りが複数人。俺の横には別れを惜しんで泣いてるやつもいるし、なんとも不可思議な気分になる。なんで俺よりも少ない日数しかいないシリウスが泣いてるんだろう?
まっすぐ帰ればここから一日乗っていれば島まで付くはずなのだが、帰りはちょっと寄り道が入るので、島に帰るのは三日後になる。
「おい、犬。泣いてないで、ちゃんとエリーゼに頼んだのか?」
「ううっ、いい奴らだったな。……ちゃんと頼んであるよ。アイゼンにも話は通してあるから……。三人ともほんといい奴らだった」
なんか途中からあいつら死んだみたいになってるが、別に死んでもないし連れていけないから置いてっただけなんだがな。
寄り道についてはシリウスの頼みなのだが、内容がオモシロくないのでそれについては省略する。
てな感じで、三日間の船旅(間に上陸あり)で島の近海までやってきた。
島が見える距離まで来る頃には自然と甲板にみんな集まっていた。
晴天の空の中、なんか白い鳥がいっぱい飛んでいる。カモメかな?トンビかな?なんでもいいや。彼らは潮風の中をすいすいと飛んでいる。
そんなものには目もくれず、正面にある変な様相の島を見てアイゼンとエリーゼが唖然としている。
「なあ、あの島ほんとに大丈夫なのか?……大丈夫じゃないだろ」
「ま、真っ白だよね……?あの島、建物も見えないけど……」
ちょうど今いるところからだと、北区しか見えていないので建造物はほとんど見えず、見えるのは白い雪に覆われた部分とその真ん中に建った細長い塔だけだ。しかも今日は機嫌が悪いらしく、見るからに北区の天気は大荒れ、吹雪いている。ここに今日から住むなんて言われたら唖然とするし、困惑だってする。
「安心しろ。住むのはあそこじゃなくて逆側だから」
「そうだぞ、今あそこに住んでるのはイカれた一家だけだからな」
俺の補足にしたり顔でシリウスが無駄な補足を加える。
あそこに住んでいる一家は北区をあんな風にしてしまった責任から住み続けてるだけで決してイカれてるわけじゃない。と心の中でフォローしておく。ちなみに一番悪いのはその一家ではなく、俺なのだとは口が裂けても言えない。
「「ほんとに?」」
「ほんと、ほんと。もう少しすれば居住区も見えてくるはずだから」
疑心暗鬼なままの二人をなだめて、船が大回りで島の反対側を目指して移動するのをそのまま見続けていた。
船が動くにつれて視点がずれ、吹雪の横から東区が少しずつ見えてくるとようやく安堵の表情を二人が浮かべ始める。
「これが、……魔術師の島」
「ああ、そうだ。これからお前たちの住むことになる島だ。これが人工島ドライ」
アイゼンの呟きに胸を張って答える。
南区の正面まで来た船が港に入るために少しづつ減速を始めている。これだけ近くまで来ると甲板にいる俺たちの視界には島の細かい光景まで見えてくる。すなわち島民の生活だ。
もう数分もすれば港に泊まるだろう。その前に甲板の先頭に行き、島に背を向けて
「ようこそ!魔法使いの島へ」
自分の中の最高の笑顔で新しく島へ来てくれた二人の異能者を大手を振って迎え入れる。
これは俺が決めている儀式のようなものだ。島に来るとき、みな新しい環境に不安を持っている。それを少しでも和らげられるように、笑顔で迎え入れるんだ。
新しく島民になる二人は俺の演技染みた動きと言葉にクスリと笑った。
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あとがき(https://kakuyomu.jp/users/Nun1121/news/16817330659390867032)
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