僕らの三分間戦争
遠藤渓太
第1話
テンテテレレレン、お決まりの効果音からロード画面に入った。
アップデートが完了するまでスマホを触る右手が小刻みに震える。
長いようで短いロード画面を終えると、今シーズンの最終順位が発表された。今まで全世界
でトップ百位を取れたことがなかったが、今シーズンはとても調子がよく、最高四十位台ま
で上り詰めることができていた。その後は順位を落としてしまったが、それでもトップ百に
は入っているはずだった。
結果は見事世界九十一位。自分では最高の出来だった。自分の部屋で一人だったが、声が出
てしまった。世界の中で自分の上に九十人しかいないと考えると、顔を緩めずにはいられな
かった。
何分か余韻に浸っていたが、ふと中川に自慢しようと電話をかけた。中川はこのゲームで最
高七十位台を記録していて、プロゲーマーとも面識があるという噂もあった。その一方で、
中川と私は同じクラスで、同じ学校に通っている高校生という側面もあった。ただ、このゲ
ームのゲーム性上、中川とはあまり仲が良くなかった。同じゲームをやっているという観点
を除けば、関わる友達も違えば、趣味も真逆だった。
ここでこのゲームの説明を軽くすると、オンラインかつ一対一で戦い、相手の砦を落とすこ
とが目的になっている。また、事前に構成する八枚のカードの中で四枚を手札として、ゲー
ム内に登場させることができる。ただ、カードには一長一短の特徴があるので、出すタイミ
ングを考えなければ十分にカードの個性を生かすことができない。そのため、プレイヤー自
身の戦術が大切になってくる。私は三銃士というカードを主軸として八枚のカードを構成
し、勝ち続けてきた。相手のカードは相手がそのカードを登場させない限り分からないため、
探り探りカードを出していく必要がある。つまり、その場その場で対策を考える必要があり、
考えることが多いのだ。その分勝てた時の快感は堪らない。その快感を求めて日々ゲームに
いそしんでいるという訳だ。だからこそ、負けた時の悔しさは途轍もないものだ。敗因が頭
をめぐり、あの時ああしていればという後悔があふれ出てくるのだ。それを勝者側から言わ
れることがどれだけつらいことか。中川に何度も言われて怒りを覚えたのを今も忘れない。
説明が長くなってしまったが、中川が電話に出たところで話を戻そうと思う。
「ん、遠藤か、どうした?」
「今シーズンどうだった?」
私は食い気味に答えた。
「忙しくて全然やれてない」
中川は吐き捨てるように答えた。
「俺ようやく世界二ケタとれたよ」
とにやつきながら言う私に嫌気がさしたのか、
「どうせアイツ使って勝ってるんだろ。」
「俺はアイツ使わないで七十位だからな」と言い返してきた。
アイツとは今最強と呼ばれているカードのことで、中川は持っていなかった。私はというと
偶然ガチャで引き当ててしまい、それからずっとデッキの中に入れていた。だからといって
私の実力が足りてない訳じゃない。そうイラついて、
「じゃあ今から証明してやるよ」
と言ってしまった。
「ふーん、今の言い方だとアイツ使わない感じだけど大丈夫そう?」
中川が痛いところを突いてくる。
「アイツ使わなくても勝てるって言ってんだろ」
強気になるしかなかった。
相手のデッキは十中八九迫撃デッキだ。うまく使いこなせば最強とまで言われていて、多く
のプロ選手が使用しているデッキでもある。ならば私がすべきことは......
ゲームが始まった。三分間、長くても五分間という短い間であるため、一秒たりとも見逃せ
ない緊迫感のある試合になる。
「ふん、やっぱり三銃士しか使えないじゃん」
中川が小馬鹿にしてくる。
ただ、やはり序盤は迫撃デッキが優位に試合を進めた。小物と呼ばれる一体の体力が少ない
代わりに大量に登場することができるカードをうまく使いこなしていた。一般的に私の使
っている三銃士デッキでは、小物に対処する手段が少なく、そのまま負けてしまうケースが
多い。
「やっぱ小物きついでしょ」
中川が登場させた小物のカードが、私の砦を攻撃している。何とかギリギリ耐えたが、砦の
体力はほとんど残っていない。
「次が最後か」
次の私の攻撃で勝負が決するとわかり、最後の三銃士を登場させる。
「小物に対処できないでしょ、その攻め意味ないよ」
「やっぱアイツいないとだめだね、遠藤は」
そう鼻で笑った中川が小物を登場させ、私の三銃士での攻撃を防ごうとした。
「勝負あったな」
その瞬間私の呪文が小物を全員倒し、三銃士を止める手段はなくなった。
「は?」
先ほどの苦戦が嘘のように中川の砦は攻撃を受け、そのまま砦は倒れた。
そう、私の大逆転勝利である。先ほど登場させたカードは小物を倒す専用のカードで、本来
は三銃士デッキには入らないはずのカードである。
「なんでそれが入ってる... 」
「そしてなぜそれを今まで出さなかった... 」
そう、このカードを一度も出さずに温存したことで中川の油断を生んだのだ。
バタバタと音が聞こえて逃げるように電話は切れた。
再び一人になった私は、緊張の糸が切れてふっと笑みを浮かべた。まだ心臓の鼓動は激しく
聞こえ、左手が激しく震える。私は一人、興奮を抑えられなかった。
そんな私がこの世界で大きく成功を収めることは、まだ遠い未来の話だった。
僕らの三分間戦争 遠藤渓太 @niseZidan
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