神秘の町、カラトーサ
登山を終えた私が次に向かう場所、それはこの町、カラトーサ。列車を降りて駅に降り立った私を待っているのは……
ええと、そうですね。言葉を選ばずに言います、ジャングルです。
いや仕方ないじゃないですか。
鬱蒼とした木の群れ、落ち放題の落ち葉、蟲の類いの鳴き声!一瞬降りる場所間違えたかと思いましたからね。かんかん照りのお天道様に対してこのジャングルの暗きこと、実に夜じみています。
元はゴブリン系種族の集落があったらしく、鉄道の線路を通す際の交換条件の1つがこの森を保ったままにしておくことだったそう。おかげで今はガチの自然が楽しめるレジャースポットとして有名です。
町?は6つの大きな集落から成っていまして、今から一晩泊まりに行く集落はここからほど近く、時間にして15分ほどとなっております。
というわけで、行きましょう!
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集落に着きますと、丁度お昼時なのか何やらいい香りがしてきます。中央辺りにでっかい鍋、あれはシチューでしょうか。
木組みの家が恐らく20程、堅牢な柵で囲まれていましてその外は完全な森。見たところ原っぱの広場がかなり多いですね、子供が遊んでいます。
外からの入口は1か所のみです。村長さんが迎えてくれました。
さて、この集落についての重要な点を軽く触れておきましょう。
まず村民構成。基本的にはゴブリン系統種が多く、獣人と蟲人が少し。人間がいないのでその点は注意です。
そして「余所者厳禁」という村の掟。要するに「この村にいる間は村の一員、1匹のゴブリンだ」と。
郷に入れば郷に従えって言ってるだけじゃないかと言われるかもしれませんが、まあ大体そんな感じ。
ちょっとやってみましょうか……さっそくお野菜のシチューをご馳走してもらえるとのことで、頂いちゃいましょう。
まずはちゃんと列に並びます。
ゴブリンは社会性の生き物、蛮族の振る舞いは非ゴブリン的です。昔の物語とは違って醜悪な見た目でもなければ野蛮でもないのです。ちょっと緑肌で鼻がめっちゃでかいくらいです。
私の番が来たら注いでもらったお椀を受け取る訳ですが、この時間違っても「ありがとう」は禁物。言葉を話すのは野性的でなく非ゴブリン的、お辞儀か適当に声出すかしてお礼をしましょう。
木を削り出したお椀を傾けて黄緑色のシチューを飲みますと、意外にもサラサラしていてスープみたいです。1口でむせ返るような葉っぱの香り、ナッツの触感がガリガリとしていて味は野菜の複雑さ。えっなにこれって思いつつも気持ちのいい味。
野性的で非野蛮的というのがこの集落のいい所です。自然を詰め合わせたみたいなスープを飲んだ後はお皿洗いついでに川に向かいます。
食事の間に仲良くなった子供達を引き連れ到着。川っていいですよね、流れる音はいつ聞いてもすっきりとさせてくれて、岩々に合わせて形を変える様は芸術のよう。
水を汲んでいい感じに洗った後は水切りで遊びましょう、私これ得意なのでいつも5回くらい飛びます。
……子供相手に手加減するのは非ゴブリン的なのでしょうか。もしそうなら反省しなければなりませんね。
それからご飯用の木の実取り。食べられるやつを教えてもらいながら探していきます。分かっていくにつれこのジャングルが宝の山のように思えてきましてこれが結構面白い。時折つまみ食いを挟みながら色とりどりのものをバッグ半分くらい、収集完了です。
……子供相手に負けるのが非ゴブリン的なのだとしたら、私は反省しなくてはなりません。まあ新入りなのでいいってことでお願いします。
他にもツタで作ったブランコに乗せてもらったり秘密基地に連れてってもらったり、集落で唯一の羊獣人ということで珍しがられて色々見て回ってますと……夕日が良く見える丘に行ったところでもう既にお日様が沈もうとしています。戻りまして、ゴブリンの皆さんと一緒にお夕飯といきましょう。
本日の夜は魚です。焚火でしっかりと焼いた魚を、私達が採った木の実と一緒に頂きます。
これがもうめちゃくちゃ美味しくてですね!唯の醤油も何もない魚と侮るなかれ、信じられないくらい肉厚でジューシー、一口ごとに旨味たっぷり!
肉と変わらないどころか上回っていて、柔らかく油が多いですからパサつきを感じませんね。骨が柔らかく噛み砕けるのもグッド。
そんなこんなで味わっている内に、何か動きがありました。
太鼓の音、歌う声。本能的に歓迎の歌だと理解して困惑する私に、村長さんはこんなことを身振り手振りで伝えてくれます。
言葉無く曰く、「君は明日帰ってもいいし、ここに居付いた獣人のように帰らなくてもいい。そして去ったなら時に帰ってきてもいい、一日を共にした仲間だから」と。
……正直心惹かれはしますけど、残念で幸福なことに私には居場所があります。
断る時も、そして感謝するときも堂々と。これぞゴブリン的振る舞いです。
さて。
今日を最後に私の旅は終わり、明日は主人様の待つエスペランザの町へと帰ることになります。
なるはずでした。集落から外へと繋がる扉が動く音が無ければ。
私もゴブリンさんたちも一斉に振り向き、予想してもなかった侵入者……かの鹿の獣人が私達の輪の中心へと悠々と歩いてくるのを、あっけにとられてただ見ていることしかできなかったのです。
サイドストーリーのち、またお会いしましょう。
ノイのぼうけんきろく リコール! シグナル @stasis66557744
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