第2話 再会

 僕の名前は阿野日あのひユウマ。「あ」から始まる苗字は名前順で見つけやすいという絶対的な優勢が人生レベルで保証されている。

 高校に着いた僕が、新しく発表されたクラス名簿から自分の名前を見つけるまでに要した時間は、おそらく1秒未満。ドキドキやワクワクなど感じる間もない。この切なさも「あ」の宿命と言えよう。ともかく、これから一年間、僕のホームは2年A組になるらしい。


 昇降口で上履きに履き替え、階段で3階へ。上りきってすぐの場所に2年A組の教室があった。向かって右側の引き戸をカラカラと開けば、やはり僕の席は廊下側の一番前。出席番号が1番になりがちなこともまた「あ」の宿命である。


「お!ユウマじゃん!」


 少し離れた所から小柄な影が近付いてきた。


「おお、リンタロー!?お前もA組かよ!」

「へへっ!また同じクラスだな!ま、腐れ縁ってヤツよ」

「うるせーわ」


 彼は五分ごぶ倫太郎りんたろう。1年のときも同じクラスで、どういうわけか気が合う親友……いや、悪友と表現すべきか。


「今年は妹も同じクラスなんだよ。おーい、リンコー!」

「デカい声で呼ぶな!恥ずい!」


 文句を垂れながら、今度は小柄な女の子が近付いてくる。


「こいつ、双子の妹のリンコ。あれ、ユウマと会うの初めてだっけ?」

「はじめてだよ馬鹿!あ。あの五分倫子りんこって言います。いつもリンタローがお世話になってます」


 取り繕ったようにペコリと頭を下げる。リンタローの双子の妹とは言え、かわいらしい雰囲気の子だ。


「阿野日ユウマ。お噂はかねがね。一年間よろしくね、五分ごぶさん」

「ユウマさあ、俺も『五分ごぶさん』なんだけどさあ?」

「リンコで大丈夫です」

「そ、そう?じゃあ改めてよろしくね、リンコちゃん」

「そういえば同じ部活のヤツもこのクラスになったんだった!ちょっくら挨拶してくらぁ!」


 リンコちゃんを置いてサッサと違うに向かってしまったリンタロー。

 

「ちょ、リンタロー!?あ、私も友だちのところ戻りますね。一年間よろしくお願いします」


 もう一度ペコリと頭を下げて、リンコちゃんも女子たちの輪に戻っていった。


 半ニヤで軽く手を振りながら、ぼんやりと教室全体を見渡す。当たり前だが今年もクラスにはさまざまな種族がいた。僕と同じ「ヒューマン」、リンタローのような「ゴブリン」、ガタイが良いのはたぶん「オーガ」の連中だ。

 綺麗な髪と長い耳は「エルフ」かな。尻尾や翼が生えてる人もいる。賑やかなクラスになりそうで何より。


 ふと、僕の席から一番離れた場所、窓際の一番後ろの席に目をやると、女の子が一人、うつむいて座っていた。くるりと巻き角が生えた黒髪ロング。


「……っ!」


 思わず息を飲む。僕の体にデジャヴなんてものを遥かに超えた感覚が走った。僕はあの子を知っている。というか、今朝会ったばかりだ。他人の空似なんてものじゃない。なぜかわからないが、間違いなくあの夢の本人だという確信が芽生えている。


「……サキュバス」


 小さな独り言は、チャイムの音にかき消された。


 

 

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