Ⅱ【午後22時58分】
高校から四駅ほど離れた閑静な市営団地、とあるマンションの一室。
そこでは、仕事でいつも帰宅が遅い両親と高校二年生の一人っ子が暮らしている。
——カタカタカタ…。
軽快にキーボードを叩く音。
ノートパソコンの青白い光が、その空間全体に大きく人影を映し出している。その人影は食い入るようにパソコンの画面を見つめていた。
——♪♪♪。
スマホの着信音。
画面には「お母さん」と表示されていた。
どうせ、今日も会社に泊まるんだろう。そのくせして、電話に出たら「まだ起きてるの」と叱られる。まあ、もし帰ってきてもバレないように部屋は暗くしているし、大丈夫。
その時、メッセージアプリの通知画面が目に入った。
【お父さん:今日の文化祭、楽しかったか?】
とりあえず、見なかったことに。今はそれどころではない。
ノートパソコンの画面に向き直る。
作業に熱中する。
——♪♪♪。
着信音。画面には「
「もしもし」
『こんばんは、榊原です。ご主人様、改めて明日に向けての準備が整いました』
榊原の低い声が聞こえてきた。
「そうか、お疲れ様」
——ククク…。
堪えるような笑い声。
「じゃあ、明日は手筈通りに頼んだよ」
『ええ。しかし、このゲームにご主人が参加されるのは……』
「いいや」
榊原の話を遮るように言い放つ。
「ライフは一つ……。最高に痺れるじゃん」
『……』
——パチンッ。
キーボードのエンターキーを叩く音。
それと同時にノートパソコンが呻き声をあげる。
【ファイル名:My Game】
画面にはそのプログラムが起動したことを伝えるウィンドウが表示されていた。
「きっと、今夜はあまり眠れないな」
それは、たった一匹の蝶の羽ばたきが竜巻を生むかのように、いつも通りの日常を壊していくものだった。
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