マイゲーム

@hondacivic

プロローグ【9月19日(日)】

Ⅰ【午後19時13分】

 ——20XX年、そう遠くはない未来。

 そこで、人々は現在と変わらない生活を送っていた。

 いつも通りの日常。

 それは、なによりもかけがえのないものだろう。

 それと同時に、ほんのちょっとの出来事で崩れ去ってしまう脆さも。


==========


 私立梅が丘高校、文化祭最終日。

 街灯が明かりを灯し始めた頃、僕は校門を見上げていた。

 その校門にはアーチ状の装飾がされている。そこには「梅高文化祭」とドデカく描かれていた。


 ——ハア……。


 僕は溜息を吐きながらハンカチで汗を拭う。

 文化祭実行委員会なんて、やるんじゃなかった。部活に入っていないからという理由で、担任に半ば押しつけられる形で引き受けてしまった。


「明日はこれを片付けるのか……。先輩たち、派手にやりすぎなんだよなぁ」

「しょうがないよ。最後の文化祭なんだから」


 僕のボヤキに反応したのはクラスメイトの瀬田せたあおいだった。小柄でスラったした体型に、ショートヘアでパッチリとした目が印象的だ。彼女は僕と違い、吹奏楽部に所属しながら実行委員に立候補した。頑張り屋だと思う。


 ——ガサガサ……。


 碧はスクールバッグからスマホを取り出した。


「あっ。連絡来てる」


 女子高生にしては飾りっ気がないケースに収まったそれを、彼女は慣れた様子で操作した。


「あっ……。もう帰らないと」


 碧は慌てたようにそう言った。


「ああ、今日はさすがに疲れたなぁ。また明日」

「私も疲れたぁ。また明日ね」


 碧は急ぎ足で駅がある方向へ向かっていった。

 何をそんなに急いでいるんだろう。本数少ないし、電車の時間か。それとも彼氏がいるのか。まあ、今日は実行委員会のミーティングで遅くなったしな。

 そんなことを考えながら、僕は校内へ踵を返す。相棒のママチャリのもとへ。

 その時、ふと校舎の方へ目をやった。職員室の辺りはまだ人がいるようだが、ほとんどの明かりは消え校内は閑散としていた。

 校内に残ってる生徒は恐らく僕だけかも。


——ガタンッ。


 相棒に跨る。

 その時、何だかんだ楽しかった文化祭の思い出が蘇ってきた。出し物を企画し、普段は飾りっ気のない教室をテーマに合わせて装飾する。山に囲まれた田舎の高校にたくさんの人が集まる。非日常的な思い出ばかりだ。

 明日、片づけが終わったらいつも通りの日常に。


 ——ふわっ。

 

 その時、生温い風が僕の頬を撫でた。何故か、まだ日中の熱気が残っているかのように思えた。

 家に帰ったら、晩ご飯食べながら写真でも見返そう。

 何だかんだ楽しかった文化祭。この名残惜しさと共にその終わりを実感した。

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