ツンデレ女子とワンコ系男子
しょこたん
第1話 誤解を真実に!紅葉の告白
昇降口にたどり着くと、勝美は靴を脱ぎ、下履きを手にして下駄箱が立ち並ぶすのこの道を歩いていく。自分の下駄箱の前にたどり着くと勝美は一つ深呼吸する。
「あーお腹空いた。早く帰りたい…」
勝美はブツブツと独り言ちながら、下駄箱を開け、中に入っていたローファーと下履きを入れ替える。
勝美がのそのそとローファーに足を入れていると、廊下側から来た快活な声の持ち主に唐突に話しかけられた。
「あ、桑谷さん。もう暗くなるし一緒に帰ろう!僕ちゃんと家まで送るし」
能天気に話しかけてきたのは、同じ園芸委員会に所属している
紅葉はキチンと揃えて収納されているローファーのかかとを左手で持って取り出し、右手に持っていた上履きをまたかかとをそろえて納めると、下駄箱のふたを静かに閉めて後ろを振り向いた。
そこにいたはずの勝美の姿はもうそこにはなかった。
「え?あれ…?桑谷さん??」
紅葉は勝美の姿を探して周囲を見回す。
外に目をやると、勝美はもう既に校門を出ようとしていた。
紅葉は少しだけ慌ててローファーを履くと、勝美の背中を追って駆け出した。
校門で勝美に追いついた紅葉は、そのまま勝美と並んで歩きだす。
勝美は少し
「…ねぇ、なんでついてくるの?わたし、一緒に帰るなんて言ってないよね」
紅葉はキョトンとした顔で勝美を見つめたが、すぐに笑顔で答える。
「うん。でもね、僕、暗くなってきたら女の子を一人で帰らせたらダメだって父さんに教わったんだ。だから、一人で帰ろうとしてる桑谷さんを放っておけない!」
勝美は辺りを見回す。目線の先に部活帰りと思われる何名かの女子が
勝美は彼女たちを指差し、紅葉を促す。
「ほら、あそこにも一人で帰ってる女の子がいるよ。わたしはいいから、あの子たちを送ってあげれば?わたしは一人で帰れるから」
紅葉は少しむくれたように口を
「僕は桑谷さんだから一緒に帰りたいんだよ」
勝美が眉をしかめて呟く。
「なにそれ…わけわかんない…!」
勝美は少しうつむいて足を速める。紅葉はただ黙って勝美に速度を合わせて並んで歩く。
ただ二人の靴音だけが長く狭い住宅街の一本道に響く。
やがて三叉路に差し掛かり、二人は真ん中の道を直進していく。
少し道を進んだ先で、勝美が足を止める。その顔には苛立ちが隠せない。
勝美が足を止めたのに気づき、紅葉も足を止める。
「どうしたの?桑谷さん」
勝美は紅葉のほうに向き直って、声を荒げた。
「あんたの家はあっちでしょ!なんでまだついてきてるわけ!?」
突然怒り出した勝美に少し驚きを見せながらも、紅葉は笑顔で答える。
「僕がちゃんと家まで送るって言ったでしょ?」
勝美のイラつきは治まることを知らず、今まで溜まっていた
「あんたはストーカーか?わたしの彼氏か?
だいたいね、夜が遅くなるたびに家までついてこられて、家族に変な誤解されて、こっちはすごい迷惑なの!わかる!?
あんたとわたしは委員会が同じだけのクラスの違う同級生。それ以上でもそれ以下でもないよね。
わたしはね、家族にこれ以上変な誤解をされたくないの!お願いだからわたしにこれ以上つきまとわないで!」
いつも元気な紅葉の顔が一瞬曇る。
「…桑谷さん。いつも言ってるけど、僕は桑谷さんだから一緒に帰りたいし、家まで送ってあげたいって思うんだよ。他の女の子見たってそんなふうに思わない…!」
紅葉がいつもより低めのトーンで話し始める。
紅葉のいつもとは違う雰囲気を感じ取って、勝美は紅葉に目線を合わせた。勝美の目に写ったのは、いつもの人懐こくて煩わしい紅葉ではなく、真面目で誠実さが宿る勝美が好きなタイプの男の子だった。
紅葉は勝美の目を真っすぐに見つめて言葉を続ける。
「桑谷さんの家族に誤解されてるのは僕との関係についてだよね?だったらその誤解を真実にしちゃえば、桑谷さんに迷惑がかからなくなると思うんだけど…どうかな…?
僕は桑谷さんのこと好きだから、ずっと隣を歩いていたいから、僕のこと『近寄って欲しくないくらい迷惑で嫌い』ってわけじゃなかったら、僕の恋人になってください!」
紅葉のいきなりの告白に、勝美の心臓が脈打ち始める。勝美は暴れ出しそうな心臓を制服の胸元をギュッと握りしめることで抑えていた。
「僕と付き合ってください!お願いします!」
紅葉が90度に腰を折り、勝美に向けて右手を差し出す。しかし、その手が握り返されることはない。
「お試しでもいいので!」
紅葉は食い下がるが、勝美からの返答はない。
「友達からでも…!」
やはり勝美からの反応はない。
さすがの紅葉にも諦めの色が見え始める。
紅葉は深々と下げていた頭を少し上げて、勝美のほうに視線を送る。
勝美は胸の中央を両手でギュッと握ったまま、顔を真っ赤に染めて固まっていた。
「桑谷さん…?」
紅葉から顔を隠すように勝美は紅葉に慌てて背を向ける。紅葉は勝美の様子に安堵の笑みを漏らす。
「桑谷さんってやっぱり可愛いよね」
瞬間、条件反射で紅葉の方を振り返った勝美が反論する。
「わたし可愛くないし…!」
振り返った勝美と紅葉の視線が交わる。紅葉がふと優しく微笑んだ。
「ううん、可愛い」
紅葉の笑顔と言葉に反応して、勝美の頬が真っ赤に染まる。紅葉は視線が合ったまま固まってしまっている勝美に向けて真剣な眼差しで尋ねる。
「ねぇ、桑谷さん。…僕のこと、嫌い…?」
勝美は紅葉から辛うじて視線を反らすと、呟くように答える。
「嫌い…ではない…けど…」
紅葉の真面目な顔に少し子供っぽさが混じる。
「じゃあ、僕と付き合ってください」
勝美がチラチラと紅葉に視線を向けながら、少しずつ自分の思いを口から漏らしていく。
「あんたのこと、よくわかんない、のに…いきなり…困る…」
紅葉が嬉しそうな笑顔を見せる。
「付き合ってみてやっぱり僕じゃダメってときはふってくれていいから…!」
勝美はチラッと紅葉に視線を戻すが、紅葉と目が合うと再び視線を外す。
「…すぐにふるかもしれないし…」
憎まれ口が止まらない勝美だが、紅葉は嬉しくてたまらない。
「いいよ、それでも。僕のわがままを聞いてもらうんだもん。ふられたら潔く引き下がる。でも、ふられるまでは勝手に桑谷さんに好きになってもらえるように全力頑張るから覚悟してよね」
紅葉は手で銃の形を作ると、引き金を引いて、勝美にウインクを飛ばす。
少し驚いた勝美だったが、すぐに熱を帯びた頬を隠しながら、上目遣いで紅葉をにらみつけるように見つめる。
「変な奴…」
ボソッと呟く勝美に、紅葉は満面の笑みを向けた。
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