緋色のヒーロー・ロワイヤル
麺汁ヘリクス
第1話 緋色に染まる日
「タウロさん、タウロさん!」
「おお、どうしたストゥラ?」
「東の森から魔物が……ギリイルが守っていますが持ち堪えられそうにないです!」
金髪の少女が少年に泣きついて懇願する。その言葉を聞いた白色の髪の少年は表情を変えると、少女の頭を撫で、そして答えた。
「ああ。分かった。すぐ行くよ」
「……あ、タウロさん……!」
「助けに来たぜ、ギリイル!」
何百という魔物に囲まれ、万事休すという男性の目の前に少年は降り立った。剣を構え、口を開く。
「帰れ、雑魚ども。ここは俺の国だ、不法侵入は許さない」
「Gyayayayayaッッッッ!!!」
ゴブリンが、キマイラが、スライムが、奇声と共に襲いかかる。そんな彼らに向けて、少年は手の平をかざした。
「……うーん、
突然、モンスターたちが一斉に燃え上がった。苦しみもがくも、炎はさらに勢いを増す。あっという間に彼らは燃え尽きていった。
「さて、帰るぞギリイル。今日の夜飯はステーキだってさ!」
「は、はい!」
燃えカスを魔力に変換し吸収すると、少年は街へと戻っていった。
「……ふふ、よく見させて貰ったよ。"チート系主人公"、タウロ・マーティース君」
「!?」
白髪の少年は目を開く。そこは、何もない空間だった。かつて彼が転生した時と似た、虚無の空間。目の前には不思議な雰囲気の男が椅子に座っている。
「確か俺は、ベッドに入って、寝てた筈――――。……お前は何者だ?」
「くく、そうだな。名乗るならば、《クラウン》という名がふさわしいか。よろしく頼むよ、タウロくん」
燕尾服を着た、あからさまに胡散臭いその男は《クラウン》と名乗った。タウロは彼に手をかざすが、何も反応がない。
「無駄だよ、タウロくん。私は君とは違う世界の存在だからね。君の保有する『
「…………」
座れと言ったのに、椅子なんてどこにも無いのだが?と怪訝な表情を浮かべるタウロにはお構いなしに、《クラウン》は話を始める。
「タウロ・マーティース。元は日本の冴えない男子高校生だったが、ある日トラックに轢かれて転生。そうして『
「……どうしてそれを知ってる?お前は何者なんだ、《クラウン》?」
「それについての説明はしばし待て。……で、それで君は、異世界にてそれぞれの王国から追放された可哀想なはぐれ者たちを集め、自分の国を作り上げた。君の理想の国家を、か。素晴らしい
「……?どういう意味だ」
《クラウン》は心底性格の悪そうな表情を浮かべると、口を開いた。
「
「……は?」
その言葉が理解できず、唖然とするタウロ。だが、その言葉を反芻していくにつれ、事の重大さに気付いていく。
「……待て。それはつまり――」
「つまりも何も。言葉通りだよ?君のお仲間たちも、君の作った国も――なんなら、敵も
「…………」
「
「……っざ、っけんな!!」
《クラウン》の襟を掴み上げるタウロ。それでも、《クラウン》は嫌味な笑みを崩さない。
「おいおい、落ち着いてくれよタウロくん。言っておくが、私はその"世界の消滅"には無関係なんだよ?むしろ、そんな可哀想な君に助け舟を出してあげようとしているのさ」
「…………っ」
殺気立っていたタウロだったが、深呼吸すると《クラウン》から手を話した。《クラウン》は書類を取り出すと話を再開する。
「『シアター』。私達はそう呼んでいる、とある世界がある。そこは、非常に不安定で別の世界に影響を及ぼしかねない。別の世界線を観測できる私達にとっても、アレは頭痛の種でねぇ。その世界『シアター』に発生している問題を解決し、安定をもたらしてきて欲しいんだ。そうしたら、その世界の歪みの元となった原因のエネルギーを利用して君の世界を元通りにしてあげることができるよ」
「……それは本当なのか!」
「ああ。君の持つ能力『
タウロは胸をなでおろした。この絶望的な状況に、一筋の光明が差し込んだように思えた。
「それじゃあ、早速行ってもらうよ。向かう先の名は【永久戦乱物語・エターナルファンタジア】」
生温かい目を《クラウン》に向けていたタウロの身体が、だんだん薄くなっていく。転移が開始された。
「頼んだよ、
タウロの身体は時空を飛び越え、別世界へと到着する。
「……ここが」
タウロが降り立った場所。そこは、鬱蒼とした森のど真ん中だった。雰囲気としては、タウロが元々いた異世界と似ていた。
「ん?」
視界の端で、ゆらりと揺らめく影を視認したタウロ。人間が、はたまた敵か。だが、警戒はしていなかった。彼には『
……その筈だった。
「………………え?」
タウロは胸のあたりに激痛が走るのを感じた。視線を向けると、そこには銀色にきらめく刃が。
「が、ふっ……!?」
血を吐く。胸を抑え、その手にべったりついた鮮血を見る。刃は背中から刺さっていた。何者かがそれを引き抜く。
「誰、だ…………」
「俺か?俺はサーシス。悪いが、お前には死んで貰う」
その男の姿を見て、タウロは驚きを隠せない。サーシスは金髪の、刀を手にした少年だった。モンスターか悪漢を想像していたタウロは、その明らかに好青年姿をしたサーシスが、自分をなぜ殺そうとするのか理解できない。
『……ああ、言い忘れてたんだけど』
そこに突然、《クラウン》の声が響いた。どうやらタウロの脳内に直接話しかけているようである。
『
「…………っ、『
どくどくと流れていく血を眺めていることしかできないタウロ。傷は塞がらない。
『そして残念ながら、
《クラウン》からの声は途切れた。タウロは怒りの形相を浮かべ、天を睨む。
「……っざけやがって……!初めから、あいつは俺を嵌めて――」
朦朧とする意識の中、タウロは立ち上がる。そして、サーシスを睨みつけた。
「ここから俺に勝つつもりか?俺は異能殺し。お前の能力は無効化される」
「……っでも、まだ死ねるか――」
懸命に足を進めるタウロ。
だが。
「……そしてもう一つ。俺には"血爆"の能力がある。お前の血液の中に俺の血を紛れ込ませ、そして俺の血は――」
「……っ、あ――――」
「爆発する」
森に衝撃波、そして業火が広がった。その光景を大画面で見ていた《クラウン》は両手を叩いて爆笑する。
「『
《クラウン》はタウロの顔写真が付いた書類をゴミ箱に丸めて捨てた。そして、薄ら笑いを浮かべる。
「
声高らかに叫ぶ《クラウン》。
――悪趣味な戦いの火蓋は切られた。
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