第15話 鯉鍋を食べながら

「いいですか、ルシフェル大迷宮には3つの断絶だんぜつがあると言われています」



 鯉鍋こいなべをほふほふと頬張ほおばりながら、ライリーは地上への道のりを説明し始めた。



「断絶って?」


「渡ることができない区域のことです。そこで生態系が変わるとまで言われています」


「そんなやばいところが3つもあるの?」


「はい。そのすべてを渡りきったものはいません」


「じゃ、ムリじゃん。あきらめて鍋食べよう。せめて塩がほしいな」


「3つの断絶とは、針の森、誘惑の花畑、溶岩の谷のことです」


「あ、無視するんだね」


「これらの場所で多くの冒険者が死にました。断絶とはそういう場所です。しかし、多くの犠牲を出して、冒険者は、針の森と誘惑の花畑を攻略しました」


「おー、すごいじゃん。冒険者はそうでなくっちゃね」


「しかし、溶岩の谷だけはまだ渡れた者がおりません」


「あー、確かに名前からしてやばそうだもんな」


「そして、地理的にいえば、私達がまず渡らなくてはならないのは、その溶岩の谷です」


「鯉ってさ、生臭いよな。下処理とか必要だったのかな。もう少しおいしくなりそうなのに」


「ちょっと! まじめに話を聞きなさいよ!」



 だって、誰も渡ったことないって自分で言ったじゃん。



「そもそも、その溶岩の谷への道すら、どこにあるかわかんないんだよ。話が始まりすらしないって」


「ティス、ここから出る道知ってるよ」


「「「え?」」」



 突然のティスの発言に俺達は驚きの声をあげた。当のティスは、ナイフで器用に鯉肉を切り取り口の中へと放り込んだ。



「何でティスが知っているの?」


「だって、ティスが目を覚ましたところだもん。そこを歩いていたら、ぱぴぃに会えたのぉ。いえーい」



 いえーい、と返しておくが、話の流れをわかっているのか。まぁ、これで溶岩の谷への道はわかった。後は、その溶岩の谷をどうやって渡るかだけだが。誰も渡れたことないんだもんな。難しいよな。



「とりあえず、明日一度見に行ってみようか、その溶岩の谷ってやつをさ。渡れるかどうかわからないけれど、見てみないことには始まらない」


「そういうことです。やっとやる気になったみたいですわね。めてさしあげますわ」



 ただ、とライリーはフォークと皿を置いて、何やら神妙しんみょうな顔をした。



「この先、ルシフェル大迷宮を攻略する前に、一つだけどうしても聞いておきたいことがあるんです」



 あ、一つしかないんだ。


 俺が逆の立場だったら、質問があふれてたまらないと思うんだけど。だって、一般人と執事とシスターだよ。どういう組み合わせなんだよ。どこのアングラ小劇団だよ。売れねぇよ、そんな劇団。


 ライリーは、珍しく言いよどんでから、決意したように口を開いた。



「貴様がこいつらの父親ってどういうことなの?」



 あー、そこかー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る