第8話 セバス3の魔法発動! スパチャ読みするよー

「ゴンドラに乗ったドラゴンさん、ありがとうございます。



~最近お腹が出てきてしまった中年男です。これではモテないと思ってダイエットを始めたのですが、ついついお菓子を食べてしまったり、動くのをなまけてしまったりで長続きしません。いつでもスタイルの良いセバス3に何かアドバイスをいただければと思います~



なるほど。私はダイエットをしたことがないのでわかりませんが、一つ言えることは、人は自分のためにはがんばれないということです。誰か大切な人はいませんか? その方のためにがんばってみるのはいかがでしょう。その方への愛が本物であればきっと成し遂げられると思いますよ」



 そう言うとセバス3は手紙を折りたたんで、口に含みバリバリとやぶき、そのまま食べてしまった。


 いったい、何が起こっているんだ?


 俺は目の前の展開についていけずにいた。それはドラゴンもそうだろう。なぜ自分の炎が消えたのか、なぜ俺達が無事なのか、なぜセバス3が手紙を読み始めたのか、ゴンドラに乗ったドラゴンはダイエットに成功するのか。いや、最後のはどうでもいい。そもそもドラゴンは言葉をかいさないだろう。


 この奇妙な出来事を説明できるはずのセバス3は自分のてのひらを見て、少し驚いた顔をしてから、二つまばたきをして、俺の方に視線を向けた。



「お父様、どうやらこれが私の魔法のようです」



 ……どれが?


 混乱する俺をよそに、ドラゴンは次の行動を起こす。さすがに場慣ばなれしているということか。火の弾をもう一度放いちどはなつ。今度は一発ではない。三発を連続で、だ。



「そんなむちゃくちゃな!」



 もはや食べる気ないだろ、と突っ込むことしかできない俺である。だが、その火の弾が俺に到達することはなかった。なぜなら、



「お便りいただきました」



 すべて、セバス3が手紙に変えてしまうから。


 そして手紙を読み上げる。内容は些末さまつなこと。今この場にはそぐわない日常の悩み相談事。意味はわからないが、ただ、このやりとりを聞いたことがあった。


 Vtuber 、セバス3のチャンネルで。


 俺のモデリングが魔法になったように、Vtuberとしてのやりとりがそのまま魔法になったということ?


 その効果は、いわば遠距離攻撃無効化。火の弾を手紙に変えてしまうというすさまじい能力。


 すげぇ! これなら助かるかも!


 一つ制限があるとすれば、セバス3は手紙を読み上げなくてはならないようだ。ただ、その間に来た火の弾も器用に手紙化しているため、なんとかなるようだが。


 しかし、と俺は思う。


 ほぼ同じタイミングでドラゴンが火を吐くのをやめた。そして翼で空を二度打ち姿勢を変える。頭を沈め、こちらに向かって突進してきたのだ。


 そう、ドラゴンも俺と同じことを考えた。


 遠距離攻撃がだめならば、直接攻撃したらどうなるのか。手紙を読み上げるセバス3はあきらかに無防備。ドラゴンの突進を止める術がない。



「セセセセセセセバスぅぅぅぅぅ!」



 俺とセバス3に突っ込んでくるドラゴン。口が開き、するどきばあらわになり、俺達におそいかかる。



「おっと、ですか?」



 ゴン! と鈍い音が響く。俺がつぶされた音ではない。セバス3がドラゴンを止めた音だ。


 片手で。


 片手で?


 セバス3とはいえ、普段の彼にそんな力はない。とするとこれも魔法の効果なのか。


 爪で地面をかいてなんとか圧し潰そうとするドラゴンを片手で制圧しつつ、セバス3は小首を傾げて告げた。



「申し訳ありませんが、させていただきます」



 次の瞬間、ドラゴンの身体が吹き飛んだ。


 向かってきた方に押し返されるように、後ろ向きに、燃えた木々をなぎ倒し、次々となぎ倒し、地面をえぐりながら、ドラゴンの身体は飛んでいった。


 急に静かになった。実際には木々の燃える音、風の音、セバス3の読み上げる声で騒々しいはずなのに、俺の耳にだけ静寂が訪れていた。


 それは、ドラゴンの音が消えたからだろう。ずいぶん遠くまで飛ばされたがゆえ確認はできないが、確かめるまでもなく、ドラゴンは絶命していた。


 ふと身体の力が抜ける。まだ気を抜くのは早いけれど、セバス3の場違いなQ&Aにどうしても頬が緩む。



「さぁ、これで最後のお便りですね。お付き合いいただきありがとうございました。またお会いしましょう」



 最後の手紙を読み終えた後、セバス3は手紙をバリっと千切ってから、再びシニカルに笑ってみせた。



「今日も噛みちぎってヤギました」

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