第37話:裁き(Side:ワズレス⑥)
「さて、ワズレス、イーズ、クルーエル公爵。己の犯した罪はわかっているだろうな」
目が覚めたら、俺は見知らぬ広間にいた。
徐々にぼんやりした頭がハッキリしてくる。
目の前の玉座には皇太子。
俺の隣にはイーズとクルーエル公爵がいた。
二人とも暗い表情で俯いている。
お、おい、何やってんだ。
早く逃げようぜ。
立ち上がろうとしたが、体がまったく動かない。
どうしたんだ?
顔を下に向けると、胴体に太い縄が巻き付けられていた。
そして、今気づいたが、俺たちのすぐ後ろには屈強な衛兵たちが控えていた。
ちくしょう、俺たちは捕まったのか。
だが、こんなところで終わってたまるかってんだ。
「お、おい、皇太子! 今すぐ縄を解け! さもないと……!」
「知っての通り、レジェンディール帝国において国家転覆罪は重罪だ」
力の限り叫んだが、皇太子は俺の声など聞こえないように淡々と言葉を続ける。
怒鳴られているわけでも大声で話されているわけでもないのに、その威厳にあふれたオーラに何も言えなくなってしまった。
「貴様ら三人は“封印牢”に収容する」
「封……印……牢……?」
王宮の地下深くにあるとされる、帝国の秘術を駆使して造られた牢獄だ。
どんな力も魔力も無効化してしまうらしい。
閉じ込められた者は腹も減らず眠くもならず、ただ寿命を待つだけの虚無を過ごす存在になってしまうらしい。
じ、実在したのかよ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 何も封印牢じゃなくても……!」
「連れて行け」
いきなり後ろから目隠しをつけられ、目の前が真っ暗になった。
グイっと誰かに担がれる感覚を感じる。
クソが、後ろにいた衛兵だな。
このまま連行されるかよ。
思いっきり手足をばたつかせる。
だが、暴れ出した途端、腹に重い一撃を喰らって俺はあっさり気絶した。
「……げほっ、ここは……?」
意識が戻ったとき、俺は広間とはまた別の床に横たわっていた。
縄も外されているし体は自由に動く。
しかし、そんなことがどうでもよくなるほど、俺がいる状況は悪かった。
周りの壁、天井は血のように赤い魔力に覆われている。
牢獄らしき檻すらない。
それでも、ここがどんな場所なのか嫌でもわかった。
ほ、本当に封印牢に収容されたのだ。
「お、おい、クルーエル公爵……何とかしてくれよ……っ!」
クルーエル公爵を見た瞬間、吐き気を催すほどの冷たい悪寒が走った。
初めて会ったときとは別人のように老けている。
狡猾さにあふれていた目から生気は抜け落ち、ただひたすらに力なく虚空を見つめていた。
あんなにずる賢いクルーエル公爵がこんなに弱るなんて……。
そ、そうだ、イーズはどうだ。
傍らにいるはずの彼女を見ると、また別の悪寒に襲われた。
「こうなったのは全部ワズレス様……いや、ワズレスのせいだわ! ふざけんじゃないわよ!」
「ぐあああ! 頼む、助けてくれええ!」
イーズがものすごい力で襲い掛かってきた。
血走った目は猛獣のようだ。
あまりの恐怖に全身が震え上がる。
その瞬間、ようやく現実を実感してきた。
俺は……死ぬまでこうなのか?
ここにあるのは長すぎる時間だけ。
後は、寿命が尽きるまで永遠に待つだけ。
気が遠くなりそうな頭の中に、非力だが俺よりずっと強い女の人影が思い浮かんだ。
ベル・ストーリー男爵令嬢。
読む者全てを引き込む話を作ってしまう天才。
唯一無二の才能を持った女。
こんな状況になって初めて、ベルの書いた話に縋りたくなった。
小さくてもいい、生きる希望がほしい……。
だが、いくら念じても目の前に本が現れることはない。
婚約破棄などしなければ……。
死ぬほど後悔するも全てが遅すぎた。
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