第4話 アリシアとアレンの婚約
セルリアンはついに強硬手段に出る事にしてナターシャを王宮に招き入れ共に一夜を過ごしたのである。
翌朝侍女達が大騒ぎして王妃の耳にもそれは入って来た。
「私はナターシャの純潔を奪いました。責任を取ります」
「お前が責任を口にするなどとは笑止!ナターシャの責任は取るのか。そんな事は許しませんよ」
「母上!」
「どちらも責任を取りなさい。分かっていますね?」
アリシアを正妃、ナターシャを側妃。
ナターシャは泣いて嫌がったが、セルリアンは「生涯愛するのはナターシャだけだ。私の立場も分かってくれ」そう説得しアリシアを受け入れる決心をしたのだった。
今のアリシアなら友人関係ぐらいは築けるかもしれない。
1年間様子を見てきた。
アリシアはただ静かに学園生活を送って勉学に励み優秀な成績を収めていた。
体に残る大きな傷は自分を守ってくれた証だ。
今のままでは決してナターシャを幸せには出来ないだろう。
それとヒューゼン公爵家の後ろ盾を得ることも出来る。
セルリアンはそう自分に言い聞かせた。
やっとセルリアンが決心したのに、驚くべき報告が待っていた。
「アレン叔父上とアリシアが婚約ですって?」
「そうだ、我が弟もやっと身を固める決心をしたそうだ。ははは」
どうして叔父上と。今までそんな話は浮上していなかったのに。
「叔父上が相手ではアリシアは幸せには成れないのでは有りませんか?」
「なぜだ?王族の妻になるんだぞ? アレンにはお前の尻拭いをさせたのだ。お前がアリシアを拒否し続けたからな。傷物令嬢でも王弟に嫁がせれば王家の面目も保てる、お前の憂いも消えるだろう?」
「・・・母上はなんと仰っているのですか」
「あれには黙らせた。お前はナターシャを妃に迎えれば良い」
「陛下、ナターシャを正妃に迎える許しを頂けるのですか」
「そうだ。お前の好きにすれば良い」
「はい、有難うございます」
父上はどうやって母上を黙らせたのだろうか。
だがこれでナターシャを正妃に出来る。
ただ、アリシアの今後は気になった。陛下は王家の面目と言った。
その為に放蕩王子を押し付けられたのか?
アリシアを愛するヒューゼン公爵がなぜ許したのだろう。
この裏には何かある、素直には喜べない。
悩んだ挙句、セルリアンは2通の手紙を出した。
受け取ってくれるかどうか分からないが、ダメならそれまでだ。
その日は授業が終わるとナターシャを先に帰らせ、セルリアンは人気のない空き教室で一人佇んでいた。
「失礼致します」
訪れたのはアリシア。
半ば諦めていたが、手紙を読んで来てくれた。
「椅子に掛けてくれ。聞きたいことがあるんだ」
「・・・・・」
アリシアは椅子に座り、セルリアンを見上げた。
「叔父上との婚約は君の意思なのか?」
「父が決めたことです。私は従うまでです」
「君が断れば公爵だって・・・」
アリシアは「ふっ」と笑い────
「有難い申し出では無いですか。私のような女性を娶って頂けるのです」
傷物だと自分で卑下しているのか?
アリシアはいつも長手袋をしている。
それは自害しようとした手首にも傷があるからだろう。
「あの時私が切られれば良かったんだな。君をこんなに苦しめる事はなかった」
「私を苦しめる? お止め下さい。苦しまれているのは殿下ではございませんか?もういいのです。私は殿下をお助けしたことは誇りにしています。その誇りを汚さないで下さいまし」
アリシアは立ち上がり礼をすると部屋から出て行った。
「私はアリシアと会って何をしたかったんだろうな。また傷つけただけだ」
セルリアンは廊下に出ると待っていた従者に「今日の事はナターシャには内密に」と告げて帰路に就いた。
アリシアと数年ぶりに会話をしてから更に数日後。
王宮のセルリアンの部屋を叔父のアレンが訪ねて来た。
「我が可愛い甥っ子の呼び出しだ、受けない訳にはいかないからね」
皮肉なのか揶揄っているのか、伯父はこういう人だ。
「お忙しいのに申し訳ありません」
「いいよ、話は婚約のことかな?」
「そうです、何故アリシア嬢と婚約を?」
「そんなの都合がいいからだ。お互い愛情があるわけでは無い。彼女は静かに暮らせればそれでいいそうだ。俺のする事には口出ししない約束だ。愛人に子でも出来れば養子にしても良いと言った、理想の妻になってくれる」
「そんな、貴方は最低だ!アリシアが可哀そうだ」
「おいおい、政略結婚などそんなものだ。ましてや俺たちは王族だ、国益を考えねばな」
「国益・・・そんなの」
「お前は立派な王になることだけ考えろ。良かったな初恋が実って。アリシアなんか気にせずお前たちは幸せになれ。あの女も醜聞も俺が引き受けてやる」
「そうですね、私が気にかけるのも今さら偽善だ。叔父上、アリシアを頼みます」
「ああ、アリシアとの婚姻と引き換えに次期外務大臣の座を賜るんだ。よろしくな、次期国王殿」
アレン手をひらひら振って笑いながら部屋を出て行った。
「そうだ今更じゃないか。私はアリシアが大嫌いだった。庇って欲しいと頼んだ訳でもないんだ。勝手にアリシアがやったんだ」
それでも、なぜこんなに胸が痛むんだ⁉
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