第86話 寒々

 ダンジョンの中は、壁面がぼんやりと青白く光る水晶で出来た洞窟だった。見た目的にはかなり寒そうに見えるが、実際の所そこまで寒くはない。精々ダンジョンの外よりも三度くらい低い気温くらいである。


「結構狭いねー」

「マンダ君を出すスペースはあるかな?」


 ちくわとねこまの二人が探索中の場を持たせるためのトークを展開している傍ら、俺はモビが探索から帰ってくるのを待っている。


 やはりテイムモンスターは使い勝手がよく、便利だ。俺はそう考えながら周囲の状況に気を配る。


「……」


 二号もトークよりも、むしろトラップや採取用のポイント把握などに気を付けているようで、黙っていた。明るくトークする華々しい雰囲気の二人と、黙々と作業する重々しい雰囲気の俺たちだが、ドローンカメラの画角的には向こうの二人がよく映って、俺たちは時々映りこむくらいの塩梅になっていた。


「キュイキューイ!」


 モビが探索から戻ってくる。探索表と同期されたマップ情報が仮面型デバイスに表示され、全貌が表示される。


「ちくわ」


 俺は彼女を短く呼んで、マップデータを送信する。


「あ、モビちゃんがマップデータ取ってきてくれたんだね! よし、先にすすもっか!」

「キュッ!」


『相変わらずモビ有能』

『普通にダンジョン探索するならモビだけでいいんじゃね?』

『見てて癒されるしな』


 主人よりも目立っているモビに苦笑しつつ、俺たちはボス部屋への道を歩いていく。道中ではいくつかの鉱石採取ポイントがあったので、そこからある程度の素材を採取しておいた。 恐らくだが、ユキテンゲをテイムできたとして、強化素材はこのダンジョンで取れるものだろう。そう思うと、今の内から素材を採取しておくのは悪くない。


「っ……さっむぅ……」


 ねこまがパーカーフードをしっかりと被りなおして身震いする。確かにボス部屋が近づいているからか、気温が随分下がっていた。


 ダンジョンの中に居て「肌寒い」と感じることはあっても、それ以上の寒さを感じることは滅多にない。というのも、〇度から三〇度程度の温度差には、ZETによる防護が働いて、運動に影響の出ない体感温度に合わせてくれるようになっているのだ。これで必要以上に厚着をしたり、服を脱いだりしなくていいようになっているらしい。


 まあ、ファフニールの熱風で三〇〇度とか、今の氷点下みたいな気温になると、それも効果が無くなるんだが。


「よし、ついたね! ねこまちゃん。これから身体動かすからあったかくなるよ!」


 ちくわはそう言って、ボス部屋前の扉前で全員の到着を待つ。この寒さは恐らくユキテンゲの影響だろうから、戦う時は身体が凍てつかないように注意しなければ。


「準備は良い?」


「はーい……」

「OKです」

「同じく」

「キューイ!」


 ちくわの点呼にモビが答えたところで、彼女は扉に手を当てて押し開いた。

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