第77話 映えを意識した中級

 中級ダンジョンっていうと、さっきのクリスタルゴーレムが居たダンジョンだけど、まああそこでいいならすぐにでも終わりそうだな。


 という感じで俺は余裕だろ、みたいな感じで考えていたのだが、どうやらそうでもないらしい。


「はぁ? 流石に無理難題吹っ掛けすぎだろ!」

「本気で目指すならそれくらいできなきゃ。もちろん、期限はいつになってもいいからね」


 まあその前に諦めるでしょうけど。と付け加えて、及川さんは鼻を鳴らした。


「え、ちょっと待って、中級ダンジョンってさっき行ったところじゃないの?」


 訳が分からなくて、東野くんに問いかける。たしかあのダンジョンの区分けも「中級者向け」だったはずだ。


「ああいや……それはそうなんだが――っていうか、お前そこら辺全然見てねえのかよ」

「はは……うんまあ、そうなんだよね」


 なんせ俺が見ているのはちくわとねこまの配信、そしてこれから倒しに行くボスの予習くらいなのだ。まさかクソゲーRTAにそういう情報が転がっている筈もないので、ダンジョン配信が具体的にどうなってるとかそういうのは、全然知識が無かったりする。


 そんな俺に東野くんはため息交じりに説明をしてくれる。


「つまりな……今討伐してきたボスは、華がねえんだよ」


 ケルベロスとか、エルダードライアドとか、第二形態があったり火を吹いたり爆発したりするボスモンスターは、映像的にも映える。


 だが、さっきのクリスタルゴーレムは見た目こそインパクトはある物の、動きも鈍重で攻撃力と防御力の高さも分かり辛く、その上怪我をするとちょっと見た目がえぐいなどの「映像向きではない」要素が大量にあるのだった。


「そういう訳で、映像に向くボスとなると、中級向けダンジョンの中で高難度の奴に挑まなきゃいけなくなるわけだ」


 なるほど、たしかにクリスタルゴーレムは耐久力とかそういうのを無視すればかなり戦いやすかった相手だけど、ひたすらちくちく戦い続けるのを見せてもそこまで人を満足させられないもんな。それこそ討伐RTAなんて名前を付けてあの方法を使うとかしないと、取れ高として成立しなさそうだ。


 うーん、なるほど、確かに強い敵を倒すだけじゃダメっていうのも、よく分かるな。


「じゃあ結局、どんなボスを倒せばいいんだ?」

「ふふん、それならワタシがちゃんと目星をつけてるから安心なさい」


 俺が疑問を口にすると、及川さんは自信満々にその疑問に答える。


「ファフニール――炎竜のボス討伐なら事務所の人全員黙らせられるわ!」

「おい、冗談だろ! いきなりファフニールだと!?」


 自信満々の及川さんと驚く東野くんをよそに、俺はいまいち要領を得ない表情で、二人の会話を聞いていた。

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