第69話 頑張ろう――セミプロとして――
まあ、東野くんのプライベートアカウント特定は置いておいて、俺たちはダンジョンの入り口に立っている。このダンジョンは天井が無く、頭上には太陽が照っている林道のような概観をしていた。
「あ、ここは天井が無いんだ」
じゃあ一人で来た時にはマンダを出せるな。と考えながら、俺は装備を展開させる。毒属性の槍は基本的に他の人がダメージソースになる時にちくちくとするための物なので、今回はサラマンダーの素材で作った槍を装備している。火属性でスペック上……って言うのも変だが、識別票に書いてあるデータを見ると攻撃力と火属性の数値がかなり高くなっており、丈夫さもかなりの物だった。
しかし、攻撃力とかそういうのって、どういう基準で書いてあるんだろうか? いやそれを言っちゃうと防具にも表示されている防御力とは……? みたいな話になるから、これ以上考えないほうが良いんだろうな。
「へえ、ファイアトライデントなんて持ってんのか。結構やるじゃん」
「あ、うん、ありがとう」
昨日買った眼鏡をかけたところで、東野くんが入ってくる。彼は配信でも使っていたミラーシェードサングラスをつけていて、俺は勝手に「すげえ! 本物だ!」とかちょっとだけ思っていた。
「じゃあもしかして、先輩が言ってた副業ってこれか?」
「まあ……そうなるね。まだまだパーティメンバーに迷惑かけっぱなしだけど」
俺は愛想笑いをしつつ頭を掻く。実際愛理の動きとかそう言うのを見てると、流石はプロだと思う事が未だに多々ある。
「いや、でもサラマンダーを何度も倒せるなら十分だ。久々に楽しめそうだな」
そう言って東野くんはストレージから自分の武器を取り出す。それは身長くらいの長さがある巨大な剣だった。
武器って言うのは、やっぱりスペックとかステータスをゴチャゴチャ並べ立てられるよりも、単純に性能を見せられた方がすごさがよくわかる。
俺は慣れない眼鏡にちょっと苦戦しつつも、敵対性雑魚であるでかいトカゲに槍を突き刺しつつそう思う。
攻撃力が高い。というだけあって、ファイヤトライデントの扱いやすさは納得のいく性能だった。
まず、手に吸い付くように保持性が高く、ちょっとやそっと弾かれただけじゃ手からすっぽ抜けたりはしない。その上刺突した時の抵抗や、引き抜くときも毒付与効果のある槍と比べれば、段違いだった。
その上、火属性の効果なのか、刺した部分が焼けただれるような傷となって、相手を苛むようになっていて、結構えげつない性能をしていた。
少なくともこれで刺されたくはないな……俺は心の底からそう思った。
「なるほど、動きの感じからして、槍のマスタリーは6か7くらいか」
「あ、うん。パーティの人たちは8持ってたり、複数の7持ってたりするけど、俺は今6だったかな」
愛理は双剣マスタリーが8だし、紬ちゃんは魔法マスタリーと鎚マスタリーが7だ。7までは簡単に上がるとはいえ、初心者の俺からしてみるとまだまだ遠い次元にあの二人は居る。
「なるほどな、それが妙に卑屈な理由か」
「卑屈?」
俺が思わず聞き返すと、東野くんは安全のために少し周囲の状況を見回してから、説明をしてくれた。
「武器マスタリーなんて、趣味に毛が生えた程度の探索者なら5もあれば十分なんだよ。6以降はセミプロからプロレベルだ」
「え、そうなの?」
「だからお前のいつも組んでる奴以外とダンジョンに潜る時は、割とお前が一番強い。なんてことがあるかもな」
「へー」
まあソロか愛理たちとしか潜ってこなかったから、全然そんな事気にしてなかったけど、自分の立ち位置をなんとなくでも知れると結構嬉しいな。
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