第66話 「一緒じゃね?」とは言えなかった

「ふーん、じゃあ優斗、何にするか決めたら教えてね」

「ああ、分かった」


 二人は別の売り場を見に行くようで、俺はそれを見送った後、ARデバイスのカタログとにらめっこすることにした。


「うーむ」


――しかし、どんな形のが扱いやすいのだろうか。


 愛理と紬ちゃんはコンタクトレンズ型を愛用しているみたいだけど、値段を見ると一枚だけでもまあまあな値段をしていた。というかコンタクトレンズだから使用期限があるのか、これを常用できるのは流石大手ストリーマーって感じだな。


 なんにしても、コンタクトレンズ型は候補から外しておこう。そもそもあんまり自分の目に異物入れるような事したくないし。


 そうなると眼鏡だよなあ、うーん、でも眼鏡かあ……


 眼鏡ジャンルのカタログをくるくるとスワイプさせていくが、どれもピンとくるものが無い。というかこれ、違いあるか? ぶっちゃけて言っちゃうと目の周りにガラスと針金があるだけだろ?


「あれ、優斗さんまだ迷ってます?」


 せめて個性を出そうとぶっとい黒縁の眼鏡を選ぼうとしたところで、紬ちゃんが戻ってくる。


「ああ、これにしようかなって」

「どれどれ――って何ですかこの芋っぽい大学生みたいな奴! 優斗さんにこんなのは似合わないんで止めましょう!」


 い、芋っぽいって……そんなに変かなぁ……でも他の奴はもうみんな一緒だぞ。首をひねりつつカタログをスワイプしていき、他の何かよさげな眼鏡を探していく。


「じゃあこれは?」


 適当に目についた眼鏡を選ぶ。これはレンズが大きくて表示できる情報量もカバーできる範囲も大きそうだ。それに結構厚みもあって、丈夫で壊れにくそうな感じがする。


「瓶底眼鏡じゃないですか!? まださっきの黒縁の方がマシでしたよ!?」


 む……ダメか。そうなると、縁が細めでそこまで大きくない感じで、でも実用性がありそうなのっていうと――


「これとかどうだ?」


 俺はちょっとだけ色がついている眼鏡を選んでみる。茶色い事で多分日差しとか防いでくれるだろう。


「おじいちゃんとかお父さんがつける眼鏡を買って来たんじゃないんですから! もう、私が選びます!」


 そう言って紬ちゃんは俺からカタログのコントロールを奪うと、猛然とスワイプを繰り返し始めた。


「あ、あのー……」

「これ、これにしましょう!」


 そう言って紬ちゃんが見せたのは最初に選んだ黒縁眼鏡と同じような形のものだった。


「これの方がさっき選んだ三つよりもカッコいいですよね? これにしましょうよ!」

「――……うん、そうだな、これにしよう」


 紬ちゃんの圧がものすごかったので、俺は頷く事しかできなかった。

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