第17話 コラボ配信は胃が痛くなるもの

「飼い主殿のみんなー! 猛犬系ストリーマーの犬飼ちくわだよー! そしてぇ……」

「おはよう人間! 化け猫ストリーマーの珠捏ねこまでーす!」


 二人の挨拶で配信が始まる。仮面の下では前回よりも圧倒的な速さで流れるコメント群があった。あまりの早さで長いものは読めないが、大体が「待ってた」とか「うおおおおおっ!!」みたいなコメントが殆どだった。


「今日は移籍後初配信って事で、ねこまちゃんと一緒にタイトルにある通りダンジョンボスに挑んじゃおうと思うよ!」

「ちくわちゃん足引っ張んないでよね。じゃ、よろしくぅ」


 今までのちくわの配信では、誰一人討伐できるとは思っていなかったはずで、無理をするなとか、心配するコメントが多かった。しかし、今回の配信では毛色が違う。


『ちくわちゃん頑張れ!』

『お手並み拝見』

『ドライアドの時見せてくれた強さをもう一回見せてくれ!』


 みんな、前回の配信で見せた圧倒的な力を持つちくわを見たいようだった。


「それじゃ、ダンジョン攻略始めていくよー!」

「いえーいっ!」


 ちくわの号令で、ねこまが拳を突き上げる。その仕草はまさにぶりっ子というか、男受けがものすごくよさそうな仕草だった。


 そういう訳で、二人についていく形で俺も、素材採集をしつつダンジョンの奥へ歩き始める。二人は俺が採集で送れないように、攻略のペースを遅くしてくれていた。


『ねこまちゃんはちくわと仲良しなの?』

『てか前回に引き続きモブいるじゃん』

『モビちゃんよく見せて!』


 採集をこそこそと行う中で、ドローンの画角に入るか入らないかの所に居た俺も、リスナーに見つかってしまう。俺は二人の邪魔にならないように、素材の採取を続けていく。


「あ、そうそう。私もお手伝いさんほしくってぇ」


 俺の話題がある程度出たところで、ねこまが不意に俺のことを言及する。


「ちくわちゃんといっぱい話したいしぃ。だからモブ君を私も借りちゃって、今回は採集に時間かけなくて済んでるんだぁ」

「本当に悪いと思ったんだけど、ほら、モブ君って採集効率すごいでしょ? だからボクとねこまちゃんで相談して決めたんだよ。今どれくらい集まったか聞いてみよっか」


 話の流れで俺が呼ばれる。仮面型デバイスで顔を隠しているとはいえ、大勢の人間から見られている状況に、俺は身体が強張るのを感じる。なんせ全員から銃口を向けられているような物なのだ。下手なことは言えないし、一挙手一投足全てが炎上につながりかねない。細心の注意が必要だった。


「モブです」

「キュイ!」


 あんまり変な事を言っても引かれるだろう。そう思って挨拶は短くする。モビもなんとなく状況を察してくれているようで、明るく返事をしてくれた。


『何回見てもソシャゲのコモンキャラみたいな見た目で草』

『モビが本体』

『モブ君採集係お疲れ様』


 コメントも、ちくわの頃から引き継いだ手心のあるイジりと労いのコメントが中心である。とりあえず不穏な空気は感じないので、俺は安どのため息を吐いた。


「じゃあモブ君、ボクがお願いしてた研磨石と――」

「私がお願いしてた濃厚蜜、どれくらい集まった?」


 二人に聞かれて、俺は仮面の下でストレージを開いてAR表示された情報を読み上げる。


「石が64個で、蜜が67個です」

『相変わらず冗談みたいな速さで集めてやがる』

『元からある程度集めてるとかバックアップチームのを全部合わせて計算してるんじゃないの?』

『つまりバックアップチームの総称でモブって事?』


 俺の正体がチームになりそうで、俺は思わず苦笑いしてしまいそうになる。まあそう捉えてくれる分には俺個人に視線が集中しないので、ありがたい。


「さすがモブ君、いつも通り集める速さが尋常じゃないね!」


 ちくわがそう言うと、ねこまもそれに続く。


「ホントホント、私一回プライベートでモブ君と潜ったんだけど『私のために』集めてくれた時、すごいたくさん集めてくれたよねー!」


 ねこまの『私のために』と強調した言葉に、ちくわの表情が一瞬強張ったのを感じ取る。


「へ―そうなんだ。ボクの知らないところでねぇ……」


 あの、ちくわ……今配信中だからそういう非難するような視線を送られても困るというか。


「今も私のために67個も集めてくれたし、ホントありがたいよね」

「そうだね! ……――集めてくれてありがとう!」


 一瞬の無言を挟んでちくわが感謝を伝えてくるが、俺はその沈黙の意味を知っている。これは「なんでねこまちゃんの方を多く集めてるの?」だ。


「どういたしまして」


 あまり黙っていては変な空気を感づかれてしまう。俺はちくわの声掛けに返答しつつ、その理不尽な非難に苦笑いをする。


 そんな事言われても、手に入る量は運によるのだ。どっちを多く集めたいとか、そう言う意図を持ったところで、どちらかを多く集められる訳じゃないのを、ちくわも知っている筈だった。


「あ、そうそう、打ち合わせの時に聞いたんだけど、モビちゃんって進化できそうなんだって?」


 上機嫌なねこまが、固まりかける空気を察してか新しい話題を提供してくれる。


「あ、そうだ! リスナーのみんなも見たいと思ったから『ボクのお願いを聞いて』今まで待ってもらってたんだよね!」


 そして今度は、ちくわの方が戦争を仕掛けた。 

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