第14話 バイト休憩中の会話

「珠捏ねこま?」

「ああ、どんなストリーマーかなって」


 バイトの休憩中、ふと気になったので山中に聞いてみることにした。なんだかんだ愛理は真面目なところあるし、なんとなくあんまりそりが合わなそうな気がしていたのだ。


「あー俺あんま好きじゃないっすよ」


 ストリーマーに対しては、ほとんど「知ってる」か「好き」しか話さない山中にしては、珍しい評価だった。


「なんていうか、プロ意識が無いっていうか、子供なんですよね」

「子供かぁ……」


 この間、一緒にダンジョンにもぐった時のことを思い出す。確かに、あの我儘っぷりというか、自分が何でもできると思っていそうなところは、子供と言えば子供なのかもしれない。


「炎上とかも事務所の偉い人が謝って、SNSアカウントで謝罪文出して終わり。本当に子供ですよ」


 うーん、なるほど、これは結構な問題児だぞ。


「でもまあ、彼女の境遇には同情しますけどね」

「ん、境遇?」


 愛理ともし一緒に配信をするとなったら、どうなるだろうか、そんな事を考えていると、山中が気になる言葉を漏らした。


「ええ、彼女は中学時代は引きこもりで、高校もほとんど不登校のままストリーマーとして活動を始めて、それで今の地位についているんです。だからプライベートの知り合いとかそういう仕事以外での友人がいない……ってネットニュースで見たことがあります」


 ネットニュースで見た。という何とも信憑性の薄い情報だが、もしそれが本当なら、彼女に対して少し優しくしてやってもいいかもしれない。


「ああー、でもちくわちゃんがねこまとコラボするかもしれないんですよねぇ、これから。なんか配信スケジュールとかそう言うの聞いてないんですか?」

「い、いや、それ知ってたとしても言えない奴だから」


 まあ実際知らないので答えようが無い。


「あーーー、悩ましいなぁ、ちくわちゃんに迷惑かけるようなら許せませんし、ねこまの保護者みたいなポジションに収まるちくわちゃんも見たい!」


 山中は幸せそうに頭を抱えて体をくねらせる。俺はかれの幸せな妄想を遮らないように、そっと持ち場に戻る事にした



――



 バイトを終え、外に出ると外の景気は茜色に染まっていた。


 チーフには、これから先は勤務できる時間が減るかもしれないと伝えておいた。愛理の事を考えると、これからもちょくちょくゲストとして呼ばれそうだと思ったからだった。


 時間が減る理由は、モンスターをテイムしたのでダンジョン探索の方に力を入れたい……なんてことを言えるはずもなく、家庭の事情という事でぼやかしておいた。


「ふぅ」


 俺はスマホアプリで自分のステータスを確認する。識別票タブレットは、ダンジョン内では唯一の通信手段だが、ダンジョンの外で使うには少々使い勝手が悪いのだ。



――装備品

 武器:ショートパイク

 頭:フォレストヘルム

 胴:アイアンメイル

 腕:アイアンガントレット

 腰:アイアンベルト

 足:アイアンレガース



――スキル

 槍マスタリーLv3

 魔法マスタリーLv1

 属性マスタリーLv1(火)

 回避マスタリーLv1

 テイミング適性Lv★



 ここ数日は、ダンジョンに何度か通う事で装備とスキルを整えることができた。フォレストと名前が付いているものはエルダードライアドの素材を使った装備で、アイアンと名前があるものは採取素材のみで手に入るものらしい。


 槍の扱いにもそれなりに慣れてきた。どうやらマスタリースキルを習得すると、その武器を使った戦い方というものが、身体に直接インプットされるらしい。なので、どう身体を動かすかというよりも、何をしたいかを考えることでる程度の動作が自動化されるような、奇妙な感触があるのだった。


 それと、実は一つ魔法を使えるようにもなった。


 火球という魔法で、火の玉を手のひらから任意の方向に発射する物で、跳び回る虫とか鳥相手に使う分にはかなり使い勝手のいい魔法だった。


 それが実際にはどう表記されているかというと、スキルの項目にある属性マスタリーのレベルが何種類の属性を扱えるかを表していて、魔法マスタリーがどのくらいの難度の魔法を扱えるかを表しているらしい。つまり、このステータスを読み解くと、火属性のLv1魔法だけを使える。という事らしい。


 このくらいの能力があれば、とりあえず愛理に迷惑は掛からないだろうか? いや、しかしボス討伐はダンジョンハッカー並の実力が必要って山中が言ってたな。これじゃあまだ素人に毛が生えた程度か。


「! ――もしもし?」


 珍しく愛理から電話での着信があった。何か急ぎの用事だろうか?


「あ、優斗、ごめん、夜九時くらいになっちゃうんだけど、どこかで会えない? 要件はちょっと、会ってから話したいなって」

「大丈夫だ。駅前のファミレスにするか」


 電話口で話しにくい事、という事は余程重要な話なのだろう。俺はそう判断して、愛理の頼みを聞いてやる。


「うん、そこでいいよ。ありがとう。じゃあそこに九時って事で!」

「はいよ」


 二人で時間を確認して、通話を終える。俺は一旦家に帰って荷物を整理する事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る