1-2 テイムモンスターって、意外と珍しいらしい
第8話 一夜明けての筋肉痛
「……いっ!?」
目が覚めて、寝返りを打とうとしたら全身に痛みが走った。どうやら慣れない体の動かし方をして、凄まじい筋肉痛に襲われているらしい。なんとか痛いのを我慢して、スマホを掴むと、俺はSNSにアクセスした。
ストリーマー系のニュースを扱うアカウントが昨日のことをツイートしている。なんでも「実は本当に猛犬!? 犬飼ちくわがエルダードライアドを瞬殺!」という事らしい。他にも探索者向けのニュースサイトでは「ストリーマー犬飼ちくわが運営する『猛犬注意!!』チャンネルにて、日本初のテイムモンスター所持者、テイマーが出現」とか書いてある。
前者は後で見るとして、俺は探索者向けニュースサイトを見る。そこではちくわの後ろで地味に採取をしている俺が映っているスクショや、ASAブラストを使用した時のスクショが張りつけられていた。
ただ、正体に関してはまだ誰も感づいていないようで、しばらくは平穏な生活が送れそうである。SNSアカウントも結構前から情報収集目的の鍵垢だったし、ネット経由で誰かにバレるなんて事も無いだろう。
「ふぅ……」
状況を確認し終えて、俺は身体の痛みを感じながら、昨日の配信が終わった後のことを思い返していた。
――
「えっと、色々聞きたいことがあるんだけど」
倒したエルダードライアドから素材がストレージに回収されたのを確認して、俺はうなだれて居るちくわ――愛理に声を掛けた。
「愛理って、実は強い?」
「あー……うん、やっちゃったなぁ」
彼女のセルフプロデュースとしては、ガチガチのダンジョン探索者として配信で食っていくのは難しいので、今のような芸風に落ち着いた。という話だった。
「いやぁ、だってボクいわゆる個人勢だし、事務所のバックアップなしで『ダンジョンハッカー』なんて無理だよ……」
ダンジョンハッカーとは、高難度のダンジョンを中心に活動する最前線の探索者たちの事である。
「でも、愛理結構強そうに見えたけど」
「優斗君、強いだけじゃどうしようもないんだよ?」
俺の素人意見は、なんか妙に圧のある愛理の言葉に押しつぶされた。
「うーん、もうこうなったら事務所に参加するしかないかなあ」
「事務所参加すると何かマズいのか?」
愛理が渋々という調子でそう言ったので、俺は少し気になって聞いてみた。確定申告とかの税務処理やら、雑用関係で助けてもらいやすいし、企業相手の商売もやりやすくなるからプラスしかないと思うんだが。
「色々ね、事務所の規約とか、お金がそのまま入ってこないとか、面倒が多いんだよ……」
そう話す愛理の表情は浮かなかった。俺はそんな彼女の側で、しばらく黙って立ち尽くしていた。
「ふう……後悔と心配おわりっ、後で考えよう!」
どう声を掛けた物か悩んでいると、愛理は立ち上がってそんな事を言った。
「寝て起きたらいいアイディア浮かんでるでしょ! それより優斗、モビちゃん進化できるんじゃない?」
「え、なんで?」
「足りないのは『森の雫』でしょ? エルダードライアドのドロップ品のはずだけど」
そう言われて確認すると、確かにステータス画面の「進化」項目が灰色ではなくなっていた。どうやら更に強化出来るらしい。
「あ、ああ、出来るようになってるな」
「じゃあやってみ――いや、ちょっと待って、進化するのは次回配信の時にしよっか」
進化ボタンをタップしようとした俺は、手を止める。
「は? 次回配信?」
「え、出てくれないの?」
出てくれないも何も、俺はお呼びじゃないだろう。なんで大人気ストリーマーのチャンネルレギュラーみたいになってるのか、訳が分からない。
「そのー、テイムモンスターって貴重だからさ、居るだけである程度の撮れ高が有るんだよね、どうかな?」
「……まあ、いいけど」
そもそもモビ――テイムモンスターは愛理が俺を誘わなければ拾う事は出来なかった。そう考えれば、彼女の希望に添える限りは沿うのが基本だろう。
「――っと、そうだ、勢いで使っちゃったけど、ASAブラストって何?」
モビの話になって思い出した。ボス討伐中の「Ain Soph Aul」の文字も含めて、よくわからないことばかりだった。
「それはー……ごめんっ、分かんない!」
「わかんないって……」
「あ、でもちょっと調べたらわかるかも! 待っててね……って、しまった! 今はネットができないんだった!」
そう言って愛理はスマホを取り出すが、圏外表示にうなだれる。
「そこら辺がよくわかんないんだけど、スマホでネットは出来ないのに、ドローンでの配信は出来るんだ?」
「あー、一応説明は出来るけど、聞きたい?」
「いや……」
たぶん説明されても俺の頭じゃ理解できない。そう思って俺は説明を拒否した。
「とにかく、しばらく待ってて! 正確にはボクが何とか出来るまで!」
そういう事になって、俺たちは昨日解散したのだった。
――
『今日の夕方、配信するから見てね!』
チャットアプリに愛理からの着信があったのは、ようやく俺の身体が動けるようになった頃だった。添付されているURLのサムネイルには「重大発表!!」とだけ書かれている。
「……何をする気なんだ?」
言い知れぬ不安を感じつつ、俺は痛む身体を庇いつつバイト先へ向かう。帰りに湿布を買って帰ろう。
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